« 2012年6月 | トップページ | 2012年8月 »

2012年7月26日 (木)

チャン・ヨンフン憲法裁判所付属研究所研究員に聞く

Img_20120725_091408_800x600

Img_20120725_113442_800x600

*チャン・ヨンフン氏は、京都大学にて6年半ほど研究留学されており、京大の村中教授のもとで労働法を研究されたとのこと。日本語を自由に話され、日韓両国の労働法や雇用環境についてお詳しい方です。正確な記録は、後日、反訳が出ますが、私の関心のあったことを中心にメモにしておきます。

■韓国の憲法裁判所について

韓国の憲法裁判所は、1987年憲法で創設された新しい裁判所。ドイツ型の憲法裁判所に類似した憲法事件のみを取り扱う。ただし、立法の抽象的合憲判断を行わず、個別的な国の処分による基本的人権侵害されたとして申請された事件について、違憲であるか否かを審理する。憲法裁判所裁判官は9名で、大統領が国会の同意を得て指名する。なお、民事訴訟、行政訴訟などの最上級審(最高裁)は、韓国では大法院である。

*憲法裁判所と大法院(韓国の最高裁)との関係は難しい問題があるそうです。ある法律に基づく処分の合憲性について、特定の法律解釈をした場合には憲法違反であると憲法裁判所が判断しても、大法院が、その法律の解釈について別の解釈をした場合に、どちらの判断が優先するのかという難しい問題が生じています。大法院と、憲法裁判所との間での綱引きがある。大法院(最高裁)と憲法裁判所のどちらが格上になるかという問題とも絡んでいるそうです。憲法裁判所の判事は、大法院の判事になれなかった法律家がなると言われたが、最近、大法院の元長官が、憲法裁判所の長官になったので同格に近くなったと言われている。

この憲法裁判所は、政治的な問題についても活発に判断している。1年間に約30件ほど違憲判決を出している。年間、数百件くらい基本権侵害の申立事件がある。

*韓国の非正規労働者保護法の差別禁止規定について
韓国では、期間制労働者(短時間労働者も)の差別禁止を次のように定めています。る

8条1項 「使用者は期間制勤労者であることを理由に当該事業もしくは事業場で同種または類似の業務に従事する期間の定めのない勤労契約を締結した勤労者に比して差別的処遇をしてはならない。」

2条3号 差別的処遇とは、「賃金その他の勤労条件などにおいて合理的な理由なく不利に処遇することをいう」

9条1項で、差別をうけた労働者は、「労働委員会にその是正を申請することができる。」と定め、同条4項では「立証責任を使用者が負担とする。」と定める。

■非正規労働者保護法について
現在の国会で三つの法律案が出されており、これを見れば論点が分かる。野党の2党(民主党、統合進歩党)の各改正案と政府与党セナリ党の改正案がある。

*韓国の議会情勢
議会は、政府与党のセヌリ党(保守党旧ハンナラ党)が過半数149議席。民主統合党が野党が127議席(中道左派)、進歩党(旧進歩労働党・盧武鉉の与党、左派)が13議席くらいだそうです。

■野党の主な改正案
① 差別的な内容が何か、労働条件、賃金等だけでなく恩恵的給付も含まれることを明示している。
② 個人が申し立てて是正命令の効力の人的範囲を、職場に及ぼすことも改正事項である。
③ 差別是正申立権は、現行法では個人だが、改正案では、労働組合もできるようになっている。
④ 就業規則や団体協約の内容について是正命令ができるとしている。
⑤ 有期労働契約の締結事由を規制する(入口規制)。

■与党の主な改正案
① 懲罰的な損害賠償(補償命令)が出すことができるとする。
② 労働組合に差別是正の申立権を付与する。
  しかし、入口規制は提案していない。

■この改正案は国会で成立する見通し
与党、野党案で一致している部分は国会で成立していると見られている。特に、労働組合の申立権を与党も認めているので成立するであろう。年末に韓国大統領選挙があるので、与党としても改正案を成立させるつもりと言われている。

■非正規労働者保護法の8月からの改正について

*8月の改正では、差別是正申請の期間が現行3ヶ月から6ヶ月に延長されることと、雇用監督官の監督と通告制度が導入されるとのことです。

雇用労働省の摘発は、それなりに効果がある。現代自動車の事件も雇用監督官の摘発に端を発している。年末に改正法施行後の摘発は、年末に大統領選挙があるから、形だけでの摘発にはならないだろう。

■進歩党の案

政府与党や民主党の案は、職場に組合員がいた場合に申し立てられるという内容である。進歩党案は、組織化対象者の労働者がいれば申立が可能であるという内容である。ただ、単に組織化対象のい労働者がいるだけでは難しいかもしれない。

■労働委員会の差別是正手続きについて

労働委員会の差別是正申立のほとんどは労働組合バックアップがある。労組が支援したいわゆる「企画訴訟」が多い。また、国選の労務士が、詳細な差別是正救済申請書を作成して申請をしている。地方労働委員会の調査官数が少なく、やはり詳細な申請書が必要であろう。公益委員には労働法学者がいない。弁護士の公益委員も使用者側代理人をしていたような人も多い。
                                                                    
■比較対象労働者の選定

客観的な「職務の内容」が「同種」か、「類似」があれば良い。「同種・類似」は広い概念とする労働法研究者が多い。労働委員会は、比較対象者の範囲を広く考えて、あとは合理的な理由があるかどうかで判断すれば良いとの考え方にたっている。ただ、労働法学者には、この点についての論文が少ない。

日本のパートタイム労働者法のように「人材活用の仕組み」を問題にする考え方は、韓国では聞かない。「配転の範囲」も考慮しない。ただ、韓国では、日本のような配転慣行はない。配転を経ることで、社内の内部昇進をするという雇用慣行はない。工場や本社がソウルに集中しており、そもそも他地域の配転は少ないか、ほとんどない。

■日韓の雇用環境の相違

他の地域で雇用する場合には現地で労働者を雇用する。本社から各地の事務所や工場に配転される例は少ない。地方に配転することを命じると、ほとんどの労働者は辞めるであろう。配転に関する就業規則は、日本と同じようにあるが、労働者の意に反する配転はない。また、単身赴任という言葉が韓国にないように、夫や妻が家族を残して1人で配転先に行くことは韓国ではおよそ考えられない。大企業のサムスンでも、地方で勤務する場合には地方で雇う。本社の課長を地方に転勤させることはない。

韓国の定年制は58歳が一般的である。しかし、民間会社で58歳までつとめる人はほとんどいない。公務員や銀行くらい。大企業でも、およそ40歳には退職して、自営業を営むとか、転職することが一般的である。韓国の雇用市場は日本に比較して流動化している。解雇を制限する手厚い保護法があるのは、日本と同じだが、実際の雇用慣行は長期雇用を前提としていない。銀行や公社は別だが。

雇用環境を見ると、日本と韓国は似てるようで、実際には、それほど似ているわけではない。

■韓国の賃金制度について

韓国の賃金制度は、年功序列型が一般的であり、日本のような職能等級制度は一般的ではない。今は、年功賃金に業績給(成果主義賃金)を何割か導入しているのが大企業の傾向だと思う。

■同一価値同一労働について

韓国でも、非正規労働者保護法は同一価値労働同一賃金ではない。「同種」が求められている。民主党の法律改正案にあるが、実際上の適用は、難しい問題を含んでいると思う。

■非正規労働者保護法の労働条件に恩恵的給与も含まれるかが問題になっている。

韓国では賞与が問題となった。韓国では、確実に支給される賞与以外は賃金ではないという大法院の判例があった。そこで、確実に支払われる以外の賞与は恩恵的給付なので労働条件ではなく差別是正対象の労働条件ではないとする争いがあった。

最近、大法院の判決で賞与に関する判例が変わった。賃金性が認められることとなり、労働条件に含まれることになる可能性が高まった。

この点について、民主党の改正法案は、「賃金その他の勤労条件(使用者の責任で支給されるすべての恩恵的給付を含む)」と定めており、恩恵的給付も含まれることを明示している。

■通勤手当について

韓国では通勤手当がないのが普通。正社員も非正規も同様であり、差別の問題が生じない。

■中労委で、労働委員会の調査官の調査が有効だと聞いたがどうか?

地方の労働委員会によって違うと思う。差別是正命令申請事件が少なく、ほとんどない地
方労働委員会もあり、調査官の知識が不十分なところがある。調査官の報告書などの影響力は、地方の実情や事件数、公益委員の性格によるであろう。地方労働委員会には、差別是正の専門の調査官が3名程度がいるところもあるが、事件が少なくやめる人もいると聞いている。

■韓国での労働紛争に関する労働委員会と裁判所の比重について

韓国では、労働事件については、裁判所よりも、労働委員会の方にウェイトがかかっている。労組も、最初、現場でストライキなどの闘争をし、最後の手段として労働委員会に訴える。労働委員会の方が、裁判所に比べてスピードが速いから。ただし、使用者側が行政訴訟で争うと大法院にいくまで5年を超えることも多い。民事訴訟よりも、労働委員会がメインである。

*勤労基準法33条(正当な理由ない解雇等の救済申請)
1項 使用者が勤労者に対して正当な理由なく解雇・休職・停職・転職・減俸その他懲罰をしたときは、当該勤労者は、労働委員会にその救済を申請することができる。

実は、この法律は、1980年代の全斗煥大統領の時代に立法された。全斗煥は軍事クーデターを起こした政権だが、労働者保護立法を推進したという特徴があった。

■韓国の弁護士は訴訟中心

*労働側の弁護士は労働委員会に関与しないようだがなぜか?

弁護士は、労働委員会の仕事にまで手を出すのは、「恥だ」と思っているのでしょう。ただし、大企業相手の事件では、弁護士が出てくる。

■特殊雇用職が多い。
塾の講師や保険外務員などが特殊雇用職と呼ばれて、労働者性を否定されている問題がある。これは日本と同じ問題で争われることが多い。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年7月24日 (火)

日弁連 韓国非正規労働者保護法の調査


22日から、日弁連貧困対策本部の非正規労働者保護法 韓国調査で、ソウルに来ています。
今日まで、ソウル科学技術大学のチョン教授、韓国中央労働委員会、韓国雇用労働部(労働省)、ソウル中央地裁の労働部に訪問しています。私は26日まで韓国です。

■チョン教授
チョン教授は、日本で言えば労働政策審議会の公益委員を担当された教授(社会学)で、非正規労働者保護法制定に関与された方です。

印象に残ったのは、「現時点での総括として、統計的には、2年前に雇い止めされた労働者と、2年を超えて正規労働者や無期契約に転換した労働者の数を、数量的に見れば、マイナスだと思う。しかし、非正規労働者の増加を抑制する法政策や、不合理な差別は許されないという規範を定立したことのほうが重要だと考えている」と述べられたことです。

■韓国 中労委

中央労働委員会では、ここ数年は年間100件くらいの差別是正救済申立事件があり、うち3割強が差別是正命令が出され、このほかに2割くらい調停成立してるとのことでした。中労委では調査官が、申立から二ヶ月くらいで報告書を作成して、1回審問して、審判を行うということです。地労委の平均審理期間が45日くらい。中労委で75日ということでした。
今年の8月2日から、法改正があり、雇用監督庁の雇用監督官(日本の労働基準監督官にあたる)が、事業所を点検して、差別があると、指導監督ができるようになるとのことでした。

■韓国 雇用労働部

韓国雇用労働部(労働省)では、法施行後の2年超で無期契約みなし制の雇用に与える結果の最新統計を聞きました。

 2011年一年間
 契約終了   49.6%
 正規職転換  23.8%
 継続雇用   26.1%

 2010年4月から12月までの数字
 契約終了   45.2%
 正規職転換  22.8%
 継続雇用   30.9%

調査方法は、1万の事業所(5人以上雇用している事業所)に地方雇用監督局が問い合わせをして、事業者に回答させた結果とのことです。回収率は98%という高回収率。回収には訪問や電話催促で促すそうです。

上記の正規職転換の内容については、労働条件がどこまで正規職員と同等になったかまでは、調べられていないということです。調査は、質問項目として「正規職員を転換」と答えた事業主の数だそうです。正規職といっても、大企業では、新たな職群をつくって、そこに位置づけて正規職と言っていることもあるとのことです。

なお、雇用監督官の見回り点検が、9月から10月にかけて集中取り締まり月間をはじめるということでした。この是正指導を行うことで十分に改善できると言っていました。指導命令を守らない場合には、労働委員会に通告することになると言うことです。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年7月16日 (月)

さよなら原発 代々木公園集会

■大集会

今日の代々木公園の集会とパレードですが、私が学生時代に初めて参加した示威行動から33,4年たちますが、もっとも規模の大きい示威行動と思います。本当に猛暑でした。Fb_img_13424099545734151

私の事務所か官邸に近いため、官邸前の毎週金曜日の行動にも顔を出しています。

車道に全部ひろがっての行動は初めての経験でした。先週の7月13日は、さすがに、機動隊の車両が車道をさえぎって、参加者の車道前進は阻止されましたが。

先々週の、目の前で警官隊の阻止線を突破して、車道に広がる人並みは迫力がありました。

■原発がないと経済活動が維持されないではないかという人も、原発の安全基準をみたすことが前提です。

原発維持派であっても、原発事故が起こらないことが大前提のはずです。

経済が大切だから、原発事故の安全性をおろそかにしても良いとの意見は誰も言えない。

まさに、あり得ないとされた全電源喪失、メルトダウンが福島第一原発で生じたのです。大飯にしても、他の原発にしても、再度の過酷な原発事故が生じたら、電力会社の企業活動どころか、日本の国家・社会自体が壊滅的な打撃を受けることは異論はないでしょう。

日本が、1000年ぶりの新たな地震活動期に入ったとされている以上、新たな原発震災基準をもうけて、それに基づく耐震措置をすることが必要不可欠です。誰が見ても当然のことでしょう。国会の事故調査委員会が指摘している点はまさにこの点です。

何よりも政府・電力会社が行うべきことは、新たな耐震基準に基づき、原発の震災対策のチェックを行い、再稼働は、そのチェックに基づき万全な震災対策を実施することが最低条件でしょう。

電力会社は、政府は、再稼働する原発で、「従来は想定外であった地震」が、今後、発生することをどれだけ「想定」しているのでしょうか。おそらく、あと500年、1000年はないと思っているのでしょう。でも、確率的に極めて低いと考えること自体、3.11の震災と津波対策を無視したミスと同じです。

東日本大震災の余震として、M8クラスの余震が2011年の2~3年後に発生することは、今までの世界の過去の地震例がみれば十分にありうることだと地震学者は指摘しています。NHKスペシャルでも報道されていました。

福島第一原発(水素爆発でもろくなった原子力建屋)が、この規模の震災に耐えることができないことは明らかでしょう。

東南海だけでなく、日本海側であっても十分、大震災の可能性があるのではないでしょうか。その場合の対策を真剣に考えることが再稼働の大前提でしょう。これを無視した再稼働は、再度、過酷事故を招くのではないかと極めて不安です。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2012年6月 | トップページ | 2012年8月 »