有期労働契約法制/労働契約法の一部を改正する法律案要綱
■有期労働契約の法律案要綱が諮問される
2月29日、労働政策審議会に有期労働契約に関する労働契約法の一部改正法律案要綱が諮問されました。主な内容は3点、つまり三箇条の改正です。
① 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換
② 有期労働契約の更新等
③ 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
■有期労働契約による不合理な労働条件の禁止
この法律案要綱は次のとおりです。
第三 期間の定めのあることによる不合理な労働条件の禁止
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めのあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(第三において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないものとする。
従来は、いわゆる正規社員と、有期契約労働者との労働が同一労働であったとしても、労働契約が異なるとの理由で、労働条件が異なっても契約によって合意されたものとして、法律的には規制する根拠がありませんでした。その希有な例外が、丸子警報器長野地裁上田支部判決です。
この法律案要綱諮問で、有期労働契約を理由とする不合理な労働条件を禁止する条項をおこうとしていることは画期的です。極めて重要な改正であり、労働側としては、この機会に実現すべき条項でしょう。ただし、次のような課題があります。
●法的効力についての課題
「不合理と認められるものであってはならない」という条文が、禁止条項であり、不合理と認められる有期労働契約の労働条件を違法・無効とする効力を有しているかどうかがです。法律条項の表題が、「不合理な労働条件の禁止」となっていれば、禁止条項であり、単なる努力義務や配慮義務を定めたものではないことにはなるでしょう。しかし、この禁止条項であるという点を法文でも明確にすべきでしょう。
もう一点として、無効となるとして、無効となった労働契約の労働条件はどうなるのか。正社員と同一の内容になるという効力を認めるべきでしょう。そうでないと使用者に損害賠償請求を求めることができるだけになってしまいます。そこで、次のような条文を定めることが必要です。
前項の場合には、不合理な労働条件は無効とする。無効となった労働条件は、同一使用者の無期契約労働者の労働条件による。
もっとも、このような効力条項がなかったとしても解釈で補うよう国会審議で趣旨を明らかにした上で、労働契約法を改正すべきでしょう。
●不合理と認められる要件についての課題
法律案要綱は、無期契約労働者と有期労働契約労働者の労働条件の相違は、正社員と有期契約労働者の労働条件が、「職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して」不合理でなければならないとしています。「労働」が同一であって初めて平等に扱うことになるので、業務の内容や責任の程度が実質的に同一であることは必要だと思います(ただし、配転の範囲は重要な指標にすべきではありません)。
しかし、これが原稿のパート法8条のように極めて厳格に解釈されてしまえば、法改正の目的は実現できません。そこで、「職務の内容や責任の程度」が異なり労働条件が異なることが合理的であるということは、使用者に主張立証責任を負わせるべきでしょう。
この条文が制定されても、一挙に有期労働契約の労働条件が改善されるわけではありませんが、極めて重要な前進となります。あとは、労働者や労働運動が、このような条項を使って、どこまで有期契約労働者の労働条件を改善することができが問われます。
■雇止め法理の制定法化について
雇止め法理については次のような法律にするとしています。
第二 有期労働契約の更新等
有期労働契約であって一又は二のいずれかに該当するものの契約期間が満了するまでの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなすものとすること。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
上記の一と二は、松下PDP事件最高裁判決の次の判決文と微妙に異なります。
●松下PDP最高裁判決との比較
この判決文は次のとおりです。
しかるところ、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、
又は、
労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には、当該雇用契約の雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときには許されない。
判決文と比較すると、日立メディコ事件判決文の「期間満了後も雇用契約が継続されるものと期待することに合理性が認められる」という判決文が、要綱の上記「二」の「期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある」との法文になっています。
●「満了時に」ではなく、「満了後も」
「満了時に」という文言は、労働者が満了時に更新を期待することが合理的でなければならないのか、契約締結時に満了時に更新すると期待するので良いのか、どちらにも読めるように思えます。判決文通りであれば、「満了時に」でなく、「満了後も」とすべきでしょう。
そして、この雇止め法理が、有期雇用契約を更新して5年を経過した場合に、どう適用されるのか。この点は、無期契約への転換の条項の効力が実効性があるかどうかを左右することになると思います。れこは、また別途検討してみます。
■労働政策審議会の答申は
なお、この要綱案を諮問されて、3月5日に労働政策審議会の答申が延期されたと聞いています。労政審で充分に審議した上で良い要綱案が答申され、さらに国会で審議されてより良い内容になることを期待したいと思います。
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