読書日記 「TPP亡国論」(中野剛志著)、「グローバル恐慌の真相」(中野剛志・柴山桂太著)、「公共事業が日本を救う」(藤井聡著)
年末年始にかけて、上記経済本の新書3冊を読みました。
曰く、「日本は財政破綻をしない。」「日本は、ギリシアとは違う。」「日本の国債の9割は日本人が購入している。」、「今は、財政再建よりもデフレ克服こそ最優先課題」、「国債をばんばん発行して公共事業につぎ込め。」「」貿易立国などは過去の話で、日本は内需で十分に成長を維持できる。」などなど。それなりの統計データをまぶして記述されています。
これらを読んでいると、素人である私は、「なるほど」と感心しました。藤井教授の本を読むと、「東日本大震災の復興のために、ばんばん豪勢に投資をして公共事業を行えば、日本の内需も拡大してデフレ克服するのではないか。日本中で耐震工事も行おう!」で良いのだという気になります。
しかし、なぜこの立論が不人気なのでしょうかね。
政府や官僚が愚かだからという説明では、今、一つ納得がいかない。中には「新自由主義者の官僚や政治家、企業家は、私腹を肥やそうとしている。」と言う人もいますが(高橋洋一氏「数学を知らずに経済を語るな!」)、具体性がなく、どうも腑に落ちないので気になります。
「グローバル恐慌」で、中野教授と柴山教授の対話の中で、現状の不安定な経済の方が金融資本はもうかるから、とか政治的にアメリカには逆らえないから、という話が出てきます。政治論議としては分かるのですが、経済論としては、今ひとつ分かりません。例えば、この政策をとれば、この経済グループがもうかるからという話なのでしょうか。これはいつの時代も真実なのでしょうが。
一方の新自由主義派の立論は「小泉改革」のときの同じなので信用できません(竹中先生や八代先生)。また、かの論者たちの言は、小難しくて素人の私には理解できず、結局、煙に巻かれる感じです。こういう場合には、「騙そうとしているな!」と警戒感が先にたちます(法律論の場合には、この感想は当たることが多いです。)。
結局、経済がうまく回らない限り、労働法がどうなろうと雇用の安定も労働条件の改善も実現できないことは事実です。本来なら、失業と貧困を少なくするために、現時点でどのような経済政策をとるべきかという問題を、もっと素人にもわかりやすく論じてもらいたいものです。
もっとも、数学が分からない私立文系の法律家には、結局、判断がつかないのでしょうが。
労働運動側に、この経済政策を立論する力量が決定的に不足していますね。
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コメント
>本来なら、失業と貧困を少なくするために、現時点でどのような経済政策をとるべきかという問題を、もっと素人にもわかりやすく論じてもらいたい
大賛成。
特にネットの世界では自称経済学者のような人も多くて
過激だけど、よく読むとDisっているだけで、本来の
経済(経世済民)を忘れていると言うか
それを無視して一部の人が儲かればいい、あるいは棄民的発想が多いというのが気になる。
Disるかどうかはともかく、他人が落ちるのが楽しいというような嫉妬を、さも正論を述べている中に混ぜているのが見えちゃうってのもどうかと。
あと
トリクルダウン理論なんてウソでしょって思うし、また公共事業をガンガンおこなえば再分配されるというのもウソっぽく感じる中、ホントわかりやすい議論をしてほしい。
投稿: 山階宮透 | 2012年1月10日 (火) 03時04分
水口さん、はじめまして。国道134号鎌倉です。
>労働運動側に、この経済政策を立論する力量が決定的に不足していますね。
残念ながら、私も同意せずにはいられません。だからこそ労働運動や市民運動も弱いのです。
労働運動や市民運動に関わっている人の中には、社会福祉のためにも消費税の税率引上げを容認したり、外資の手先にすぎない古賀茂明を「反霞が関」ということで持ち上げたりする人もいます。
しかしこれでは、労働運動や市民運動に関わってきたが、思想では彼らより明らかに右に位置する藤井聡氏、三橋貴明氏や中野剛志氏よりも富裕層寄りの立場になってしまいます。思想はともかく具体的な政策では、藤井氏、三橋氏そして中野氏の方が庶民感覚により近いという現実があります。
これは、経済問題の理解に対する、一部の右派と左派の間の差に原因があります。
例えば、国債残高を根拠に我が国は財政危機にあるという人がいます。
しかし、財政危機にある国は通貨安による物価騰貴と金利の上昇に悩まされていますが、我が国は過去最高水準の円高と10年以上年1%台という低い長期金利にあります。本当に財政危機にある国なら、生産拠点の海外流出は起こり得ません。通貨が安いからです。
また、我が国は法律を改正すれば自由に発行できる不換通貨である円以外の通貨による(外貨建ての)政府債務を負っておらず、通貨発行益によって国債を償還できます。つまり、消費税の税率を引き上げなくても我が国の財政再建は十分に可能です。
更に景気が回復して物価騰貴の危険が生じれば、所得税の最高税率や法人税の税率を消費税導入以前に引き上げて余剰所得を投機に回さないようにすることでインフレを抑えることもできます。
労働運動や市民運動も、法律論のみならず、政策、経済、そして技術論を身につけておかないと、財界などの権力筋に負け続けると思います。
最後に、長文を御精読くださり、有難うございました。
投稿: 国道134号鎌倉 | 2012年1月11日 (水) 11時30分