有期労働契約の在り方について-上限規制の副作用を抑制する方策は?
迎春
今年の通常国会(1月20日頃開会予定)は、予算をあげたら重要な労働関係法の改正が目白押しです。派遣法は、みんなの党の横やりで、抜本改正どころか、政府案の成立さえ見通しがついてません。そして、有期労働契約の労働契約法改正問題が具体化します。
12月26日、労政審労働条件分科会が「有期労働契約の在り方について(報告)」を取りまとめて発表し、同日、労政審本会が、この報告どおりの建議を行いました。これはメガトン級の立法です。適用対象が広く、かつ、副作用の懸念があるからです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z0zl.html
■入り口規制は放棄
合理的な理由がない場合には有期労働契約を締結できないとする規制を「入り口規制」と言います。労働契約は無期契約が原則で安定した雇用を打ち立てようとする規制です。しかし、建議は、「雇用機会の減少の懸念がある」等として「入り口規制」をとらないとしました。これは「解雇規制があると雇用機会が減少する」という理屈と同じです。
ただ、雇用が減少するかどうかは法的規制の強弱や有無によりも、その時の経済情勢、為替レート、生産組織の在り方等々の多様な要素で決定されるはずです。有期労働契約の規制で雇用機会が減少するというのは短絡的でしょう。
■上限規制が5年
有期労働契約を利用する最長期間を規制する「上限規制」5年を提言しました。つまり、有期労働契約を利用するには、5年を超えてはならないという規制です。この5年を超えて利用する場合には無期労働契約でなければならないということです。例えば、1年契約であれば、5回更新すれば5年になり、5年を超えたら、労働者の申し出により無期労働契約に転換するという仕組みをです。
■「副作用」の懸念
この上限5年を超えて無期労働契約を締結するのを嫌う使用者は、例えば、1年契約の場合では最後の有期契約を11ヶ月として、都合4年11ヶ月目で契約期間終了で契約を打ち切るようにするでしょう。これでは、今までなら、5年を超えて有期労働契約を更新して働いてきた労働者が契約を切り捨てられる恐れがあります。これが、いわゆる「副作用」問題です。厚労省の実態調査でも5年を超えて働く有期契約労働者は29.5%です。この人たち、かなりの数が打ち切られる危険性があります。
この点について、建議(報告)は「制度の運用にあたり、利用可能期間到達前の雇止め抑制策の在り方について労使を含め十分に検討することが望まれる」と記載しています。この「運用に当たり、… 労使を含め十分に検討することが望まれる」というフレーズは、労使の自主的努力に委ねるだけで、法的な抑制策をもうけない趣旨にも読めます。
しかし、この利用可能期間到達前の雇止め抑制策を、法律上の工夫をしなければ、この「副作用」が致命的になりかねません。
上限規制は、有期労働契約を無期契約に転換する「薬効」は確かにあるでしょう。しかし、副作用が重大ならば、薬としては致命的な薬害になりかねません。抗がん剤のイレッサみたいなものです。副作用を軽視した使い方をすれば薬害です。
■「副作用」抑制策が必要不可欠
そこで、上限間際に、有期労働契約を雇止めをした使用者は、その当該同一職場・同一業務について、新たに有期契約労働者を雇い入れることを禁止すべきです。そして、これに違反した場合には、雇止めされた有期契約労働者は、当該使用者に雇用の継続と無期労働契約を求めることができるという法的措置をとるべきです。
■労働者が有期か無期か選択する
次に、報告の上限規制の特徴は、無期にするか有期にするかを、労働者の申出に委ねていることです。つまり、労働者が無期契約か、有期契約かの選択権を持っており、有期を選択した場合には、有期で良いことになります。
■第二の懸念「労働者の『選択の自由』が保障されるか」
建議(報告)の規制では、労働者が選択をすれば5年を超えても有期契約で良いことになります。となると、使用者は、事前に「あなたが有期を選択すれば、5年を超えても有期契約を更新してあげます。でも、無期契約になりたいと言うのであれば、4年11ヶ月で契約を打ち切ります」と言って、労働者の選択を抑圧する危険があります。
■「自由意思の尊重」策
このような自由意思を抑圧するような行為を禁止する必要があります。民法からいうと、上記の強迫とは言えず、労働者が有期を選択してしまっても有効となります。しかし、このような自由意思を抑圧する発言を行った場合には、有期でなく、無期を選択しなおせるような脱法行為禁止の立法措置が必要だと思います。具体的には上記のような抑圧を行った使用者に対しては、労働者は、有期を選択した後も、無期契約の雇用継続を求める権利を保障すべきです。
■雇止め法理の制定
判例の雇止め法理を制定法するとしています。この点は異論のないところでしょう。
■第三の懸念
とはいえ、上限5年を導入した場合、2年や3年目で雇止めされた場合に、雇止め法理の適用があるか。利用可能期間前であるから雇止めは自由だと理解する論者もいます。しかし、これは適用あることを明確にすべきです。少なくとも上限5年前までは継続雇用の期待があるのですから。
他方、上限を超えて自らの意思で有期を選択した労働者についても、その後も雇止め法理が適用あるというべきです。
■クーリング期間
6ヶ月のクーリング期間をおけば、同一の労働者を雇い入れることができるとします。しかし、このようなクーリング期間は必要ないでしょう。またクーリング期間を入れるとしても、その間は、別の有期契約労働者を同一業務には雇用することはできないという措置をセットにするべきです。
頭の整理に、これらの関係を図解したものを作ってみました。これから議論すべき論点は多数あります。
「yuukiroudoukeiyaku5y.pdf」をダウンロード
■労働弁護団1月26日集会開催
本年1月26日午後6時から労働弁護団がシンポジウムを行います。労政審の労働者側の委員にも出席いただき報告してもらいます。また、昨年夏に韓国調査をした小林譲二弁護士にも韓国の報告をしてもらいます。
是非、多くの方、ご参加くださるよう呼びかけます。
http://roudou-bengodan.org/topics/detail/20111220_post-40.php
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