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2012年1月31日 (火)

労政審「有期労働契約の在り方について(建議)」(その2)

■日弁連の労働法制委員会にて

厚生労働省の担当者に、労働政策審議会の有期労働契約の在り方についての建議を解説してもらいました。「建議」に基づいて、労働契約法の改正を準備しているとのことです。その骨子は次のとおりです。

(1)5年を超えて反復更新したとき、労働者は無期転換申出権を取得する。

・この無期転換申出権は、形成権である。

・1年有期契約としたら6年目の有期契約を締結して5年を超えたときに無期転換申出権を取得する。6年目の契約が終了した段階で無期契約に転換する。

・これを権利を行使するかは労働者の自由意思に委ねられる。

・6年目に権利行使しなくとも、次に7年目の有期契約を締結した段階で、6年目で発生した無期転換申出権は消滅するが、7年目の無期転換申出権が新たに発生する。

・無期転換申出権を放棄する旨の事前合意は、公序良俗に違反して無効となる。

(2)利用可能到達前の雇止めの抑止策

・雇止め法理の適用は抑止策となる。

(3)雇止め法理の法制化

・松下PDP最高裁判決を法文とする。

つまり、「期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合,又は,労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には」、当該雇止めには、労働契約法16条が準用する。

・この雇止め法理は、5年目の更新についても適用される。これは利用可能期間到達前の雇止めに対する抑止策となる。

(4)期間の定めを理由とする不合理な処遇の解消について

・不合理な処遇には、賃金、退職金、通勤手当や社内食堂の利用等の福利厚生も全て含む。

・職務の内容と配置の変更の範囲等を考慮して、有期労働を理由とする不合理なものを是正する法的効力をもつ条項を設ける。

■出口規制や利用可能期間の制限と言えるか?

このような構想だと、利用可能期間の制限とか、上限規制というのはネーミングとして適切でなく、かえって誤解を生むように思います。5年を超えて有期労働契約を締結することは禁止されるものではありません。ただ、5年を超えて更新された場合には、労働者に無期転換申出権を付与することになるだけです。

これを上限規制とか、利用可能期間の定めとすると、5年を超えて有期契約を締結してはいけないという誤ったアナウンスをしてしまうことになるように思います。

■有期契約を理由とする不合理な処遇を是正する条項の新設

有期を理由とする不合理な処遇を是正するための私法的効力を有する条文ができることは画期的です。今まで、有期契約と無期契約が、いかに格差があっても、契約形態が異なるから、やむを得ない。労基法の同一労働同一賃金の原則は適用されなないとしてきた「厚い壁」が破られることになります。

■課題

使用者は、有期労働契約書の中に、反復更新しても5年が上限だとの条項を入れることになろう。このような5年を上限とする契約条項が有効かどうか。また、例えば、4年目の契約更新の際に、不更新条項を入れることが有効かどうか。これが課題となります。

現行法では、このような契約条項は有効とされています。上記のような労働契約法が改正されたら、どうなりますでしょうか。雇止め法理の適用の解釈の問題になりそうです。

また、5年目で無期転換しなけらばならないので雇止めをしても、雇止めに合理的な理由があるという解釈になるのかどうかも課題となります。

■今後の法案化

このような骨子を法案化する作業は現在、厚労省で進められているようです。2月中には法案化するそうです。労働契約法17条の後に、3箇条をもうける構想を持っているそうです。三箇条とは、無期転換申出権、雇止め法理、有期を理由とする不合理な処遇の是正ということになりそうです。

この法案が具体的にどのような条文になるのか、要注目です。

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2012年1月29日 (日)

労政審「有期労働契約の在り方について」(建議)

昨2011年12月26日、労働政策審議会は「有期労働契約の在り方について」の建議を発表しました。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z0zl-att/2r9852000001z112.pdf

有期労働契約の締結自由を合理的な理由がある場合に限定する締結事由規制(入口規制)は見送りました。しかし、有期契約労働者の不安定な地位と低処遇を改善するためには、入口規制を行うことは必要不可欠です。労働弁護団も2009年に入口規制を中心とする立法提言をしています。

http://roudou-bengodan.org/proposal/detail/gen091028c.php

建議は、入口規制に代わる「目玉」として「有期労働契約の長期にわたる反復・継続への対応」を提案しています。

有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合には、労働者の申出により期間の定めのない労働契約に転換させる仕組みを導入する

この5年を超えた場合に無期契約に転換する仕組みとは、どういう仕組みなのか、具体的方法は建議(報告)では記載されていません。

考えられる方法としては、①労働者に無期契約への転換請求権を付与する方法、②使用者が労働者に無期契約の申込みをしたとみなす方法、③労働者の申出に関わりなく無期契約とみなす方法もあります。

建議は、あくまで労働者の申出によるとしていますから、上記の①か②のどちらかになるのでしょう。

そうすると、この建議は、労働者が無期契約への転換を申し出ない場合には5年を超えても有期契約が反復更新して続けることを許容するようです。

このような利用可能期間の上限を定めると、使用者は無期契約への転換を阻止するために5年に達する前に労働者を雇止めをすることになります。これが「副作用」です。

あるいは、使用者は「5年を超えた段階で無期契約への転換を求める者については雇止めをする。しかし、有期契約のままで良いとい者については、5年を超えても有期で反復更新して雇用を継続する」と労働者にアナウンスをすることが考えられます。このようなアナウンスを聞いた労働者は、無期への転換を申出ることもなく、有期での反復更新を選択することになるでしょう。このような使用者のアナウンスは脱法行為にほかなりません。これでは利用可能期間を決める意味がないことになってしまいます。

このような副作用を抑止しなければ、5年ごとに有期契約労働者の入れ替えが行われるだけになり、使用者が許容する極く一部の者しか無期契約に転換することができません。

そこで、脱法行為を禁止する規定を設けるとともに、副作用を抑止するために次のような法的措置をとるべきです。

(1)使用者が有期契約労働者を利用可能期間到達を理由に雇止めした場合には、同一事業場及び同一業務において、新たに別の有期契約労働者を雇用することを禁止する。また、利用可能期間到達前の1年前に雇止めした場合には、利用可能期間到達を理由に雇止めをしたものと推定する。
(2)使用者が、(1)の禁止に違反した場合には、雇止めされた有期契約労働者は、使用者に対して、無期労働契約として継続雇用を請求することができる。

入口規制が無理だとしても、最低限、次のような立法を行うべきでしょう。

第1に、労働契約は無期契約であることを原則とする規定を設けること(労働契約法3条の原則規定)

第2に、利用可能期間到達前の雇止めの抑止策をもうけること(同一事業場及び同一業務に別の有期契約労働者を雇用することの禁止する)

第3に、脱法行為の禁止規定を設けること

労働側は少なくとも上記の要求で一致しないでしょうか。不十分であるからといって、批判して反対するだけでは、派遣法の二の舞になってしまいます。

建議には、「雇止めの法制化」の問題、「有期契約を理由とする不合理な処遇の解消」という論点もあります。これについては今後、検討してみようと思います。

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2012年1月14日 (土)

TPP協定と労働

平成23年10月 国家戦略室が各省庁と、「TPP協定交渉の分野別状況」を発表しています。

http://www.npu.go.jp/policy/policy08/pdf/20111014/20111021_1.pdf

労働分野については、次のように記載されています。

1 交渉で扱われている内容

 貿易や投資の促進のために労働基準を緩和すべきでないこと等について定める。

2 交渉の現状

 貿易・投資の促進を目的とした労働基準の緩和の禁止や国際的に認められた労働者の権利の保護等が主たる目的となっているが、米国が今後条文案を提案する段階であり、現時点では、独立した章とするかを含め、合意はない模様

既存の協定の内容について、次のように指摘してます。  

P4協定(*)、米国が締結したFTA及びニュージーランド・マレーシアFTAには、労働に関する規定が置かれ、具体的には、①国際労働機関(ILO)加盟国)としての義務の再確認、②貿易・投資の促進を目的とした労働基準の緩和(労働者の権利保護の水準の引き下げ)は不適当であることを確認する。③国際的な労働に関する約束と国内法の整合性を確保しかつそれを効果的に実施する、④協定の規定の解釈や適用をめぐり問題が生じた場合のい協議、紛争解決手続の適用について定める等、の規定が盛り込まれている。

 *:2006年5月 シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの四カ国の間で締結された自由貿易協定

 上記記述を見る限り、昨年2011年10月段階では、TPP協定では、日本国内の労働法制分野には影響はなく、ILO条約の遵守を確認し、国内の労働者権利保護規定の引き下げはないことになっています。  

 しかし、、中野剛志著の「TPP亡国論」では、「TPPは米国主導、米国の国益維持のためを目標とするもの」と指摘されています。その米国は解雇自由など労働の規制緩和の国です。今後、どのような交渉がなされるのかが、要注目です。

 外国人の労働者受け入れが労働分野では注目されていますが、労働法分野もどうなるか警戒が必要です。

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2012年1月 9日 (月)

読書日記 「TPP亡国論」(中野剛志著)、「グローバル恐慌の真相」(中野剛志・柴山桂太著)、「公共事業が日本を救う」(藤井聡著)

年末年始にかけて、上記経済本の新書3冊を読みました。

曰く、「日本は財政破綻をしない。」「日本は、ギリシアとは違う。」「日本の国債の9割は日本人が購入している。」、「今は、財政再建よりもデフレ克服こそ最優先課題」、「国債をばんばん発行して公共事業につぎ込め。」「」貿易立国などは過去の話で、日本は内需で十分に成長を維持できる。」などなど。それなりの統計データをまぶして記述されています。

これらを読んでいると、素人である私は、「なるほど」と感心しました。藤井教授の本を読むと、「東日本大震災の復興のために、ばんばん豪勢に投資をして公共事業を行えば、日本の内需も拡大してデフレ克服するのではないか。日本中で耐震工事も行おう!」で良いのだという気になります。

しかし、なぜこの立論が不人気なのでしょうかね。

政府や官僚が愚かだからという説明では、今、一つ納得がいかない。中には「新自由主義者の官僚や政治家、企業家は、私腹を肥やそうとしている。」と言う人もいますが(高橋洋一氏「数学を知らずに経済を語るな!」)、具体性がなく、どうも腑に落ちないので気になります。

「グローバル恐慌」で、中野教授と柴山教授の対話の中で、現状の不安定な経済の方が金融資本はもうかるから、とか政治的にアメリカには逆らえないから、という話が出てきます。政治論議としては分かるのですが、経済論としては、今ひとつ分かりません。例えば、この政策をとれば、この経済グループがもうかるからという話なのでしょうか。これはいつの時代も真実なのでしょうが。

一方の新自由主義派の立論は「小泉改革」のときの同じなので信用できません(竹中先生や八代先生)。また、かの論者たちの言は、小難しくて素人の私には理解できず、結局、煙に巻かれる感じです。こういう場合には、「騙そうとしているな!」と警戒感が先にたちます(法律論の場合には、この感想は当たることが多いです。)。

結局、経済がうまく回らない限り、労働法がどうなろうと雇用の安定も労働条件の改善も実現できないことは事実です。本来なら、失業と貧困を少なくするために、現時点でどのような経済政策をとるべきかという問題を、もっと素人にもわかりやすく論じてもらいたいものです。

もっとも、数学が分からない私立文系の法律家には、結局、判断がつかないのでしょうが。
労働運動側に、この経済政策を立論する力量が決定的に不足していますね。

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2012年1月 5日 (木)

遅ればせの【2011年の三大出来事】 と2012年政局の今後

1位:東日本大震災・津波の自然災害 2位:福島第1原発事故 3位:橋下氏「大阪の維新の会」の勝利

■1番目の大震災は言うまでもありません。
ただ、そのインパクトは東北だけではありません。
近い将来、東京直下型地震、東海地震などが差し迫っていることを改めて思い起こさせます。東北の復興だけでなく、その備えを行うことが緊急課題です。この震災対策に公共投資をすることは誰も反対しないはずです(財務省以外は!)。

■2番目の原発事故については既に記述したとおりです。

第3の敗戦

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2011/08/post-3c5b.html

原発対応の経過を見れば、中央官僚とエリート科学者(東大原発研究者)が、いかに愚かなのかをつぶさに証明してくれました。そして、これを徹底的に批判しきれない日本人の優しさというか、愚かさというか、曖昧さを全世界に知らしめました。

(今時の若い弁護士との会話)
私の法律事務所の若手弁護士が「原発は安全だと思っていた。教科書にもそう書いてあった。」というのです。私が、「教科書に書いてあったら余計に疑うもんだ。俺たちはスリーマイル島事故後、チェルノブイリ事故前に大学生だった世代だけど、原発が安全だなんて言う奴はいなかった。」と答えたところ、若者曰く「じゃあ先生たちは、原発を止めるために何をしたのですか。日本人みんなに責任があるのじゃないのですか。」と反論されました。…原発の電気を使っておいて、東電や政府の責任を言う資格が東京都民にあるのか、とかいう、この手の「感情論」というか、「誠実さ」、「心情論」に、弱いのが日本人の特徴なんでしょうね。

思わず、「そういう『一億総懺悔』こそ、本当の責任者を免責する論理なの。もっと戦後史を勉強しろ(一億層懺悔って知っている?)。原発政策を決定して実行した者にこそ責任があるのであって、俺たち庶民が責任を感じる必要はない。堂々と自信をもって責任者を追及したほうが良い」と説教したのですが、相手は他の人と話していて聞いていなかった・・・!しかし、このような若手が、私のような事務所に「就職」する時代なのですよねえ。

■3番目。橋下氏の勝利は今後の5年の日本の政治を決定づけたように思える

まあ、橋下氏が勝利すると思っていました。東京からあれだけ批判、非難されたら、絶対、大阪人は橋下を応援するのです(京都生まれの私にはよく判る!)。 ということを承知の上での週刊新潮が誹謗中傷したのでしょう。

■実は公務員数が欧米諸国に比較しても最少国家の日本

橋下氏の公務員バッシングですが、まったく根拠がない。日本の公務員数はヨーロッパ諸国だけでなく、アメリカと比較しても圧倒的に少ないのです。

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5190.html

国家財政の下での人件費率から見ても欧米諸国と比較しても低い。ただ、一人当たりにすれば欧米から比べれば人件費は高いかもしれない。

http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2011/seifuan23/yosan005.pdf

本来、日本はもっと国民への福祉や医療、教育のサービスのための公務員、また災害対策の公務員を増やしたって何ら問題はない。

■次は民間労働者の番なんだけど。さらなるリストラへ

日本の民間労働者の人件費が他国に比べて高すぎ、しかも解雇しにくいと経営者側がつとに訴えているところです。公務員を批判している労働者たちは、次は自分たちの番なのだということを認識しているのでしょうか。中高年が簡単に解雇され、若手労働者は仕事にありつけても不安定で低賃金の非正規職場。そして労働者相互が足を引っ張りあう社会になるというのが今の日本の現実でしょうに。

■民衆「政治意識」「社会心理」の波をつかまえる政治家が勝つ

データに基づく反論は庶民の意識、社会心理に何ら影響を与えません。こんな意見は古典的なインテリ意識の上から目線であって顧みられないのが現実でしょう。

橋下氏のように、民衆の心理をつかみ、スケープゴートを仕立て上げ、虐めても誰も文句は言わない公務員を果敢に責め立てるヒーローになることが政治闘争と権力闘争を勝ち残るもっとも有効な手段。この「民衆心理」の方向に鼻がきくのが、橋下氏なんでしょう。その民衆の心理とは、ニーチェの言うところの「ルサンチマン」です。世論の波にのっかる天才・政治的サーファーなのです(小泉元首相も)。彼が、2012年以降の政治を大きく動かすのだと思います。

今年2012年4月までに予算が成立すれば、政治は一挙に総選挙の様相です。

総選挙になれば、そのときの台風の目になるのは、「みんなの党」、そして橋下氏の「維新の会」です。どう贔屓目に見ても、総選挙では民主党は敗北するでしょう(個人的には、「より悪くない」選択肢として民主党しかないと思っていますが…)。自民、公明、みんなの党、橋下グループの政権が成立する可能性が極めて高い。

自民、公明、みんなの党の政権ができれば、派遣法改正そのものがなくなるし、有期労働契約やパート法の規制強化策は実現しないでしょう。という情勢の下で、労働立法にどう対応すべきかを検討しなければなりません。この間の派遣法改正のような迷走の繰り返しは避けたいものです。

大阪での橋下氏の勝利は、今年の政治情勢を予測させる出来事であり、2012年から5年くらいの政治を決定づけた重大な現象だと思われます。

■今年こそ?

彼らに対抗できる「情理を兼ね備えた」言説を駆使できるパーソナリティをもったリーダーの出現が求められます。…なんと、私も「強いリーダー待望論」 (^-^;

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2012年1月 1日 (日)

有期労働契約の在り方について-上限規制の副作用を抑制する方策は?

迎春

今年の通常国会(1月20日頃開会予定)は、予算をあげたら重要な労働関係法の改正が目白押しです。派遣法は、みんなの党の横やりで、抜本改正どころか、政府案の成立さえ見通しがついてません。そして、有期労働契約の労働契約法改正問題が具体化します。

12月26日、労政審労働条件分科会が「有期労働契約の在り方について(報告)」を取りまとめて発表し、同日、労政審本会が、この報告どおりの建議を行いました。これはメガトン級の立法です。適用対象が広く、かつ、副作用の懸念があるからです。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z0zl.html

■入り口規制は放棄
合理的な理由がない場合には有期労働契約を締結できないとする規制を「入り口規制」と言います。労働契約は無期契約が原則で安定した雇用を打ち立てようとする規制です。しかし、建議は、「雇用機会の減少の懸念がある」等として「入り口規制」をとらないとしました。これは「解雇規制があると雇用機会が減少する」という理屈と同じです。
ただ、雇用が減少するかどうかは法的規制の強弱や有無によりも、その時の経済情勢、為替レート、生産組織の在り方等々の多様な要素で決定されるはずです。有期労働契約の規制で雇用機会が減少するというのは短絡的でしょう。

■上限規制が5年
有期労働契約を利用する最長期間を規制する「上限規制」5年を提言しました。つまり、有期労働契約を利用するには、5年を超えてはならないという規制です。この5年を超えて利用する場合には無期労働契約でなければならないということです。例えば、1年契約であれば、5回更新すれば5年になり、5年を超えたら、労働者の申し出により無期労働契約に転換するという仕組みをです。

■「副作用」の懸念
この上限5年を超えて無期労働契約を締結するのを嫌う使用者は、例えば、1年契約の場合では最後の有期契約を11ヶ月として、都合4年11ヶ月目で契約期間終了で契約を打ち切るようにするでしょう。これでは、今までなら、5年を超えて有期労働契約を更新して働いてきた労働者が契約を切り捨てられる恐れがあります。これが、いわゆる「副作用」問題です。厚労省の実態調査でも5年を超えて働く有期契約労働者は29.5%です。この人たち、かなりの数が打ち切られる危険性があります。

この点について、建議(報告)は「制度の運用にあたり、利用可能期間到達前の雇止め抑制策の在り方について労使を含め十分に検討することが望まれる」と記載しています。この「運用に当たり、… 労使を含め十分に検討することが望まれる」というフレーズは、労使の自主的努力に委ねるだけで、法的な抑制策をもうけない趣旨にも読めます。

しかし、この利用可能期間到達前の雇止め抑制策を、法律上の工夫をしなければ、この「副作用」が致命的になりかねません。

上限規制は、有期労働契約を無期契約に転換する「薬効」は確かにあるでしょう。しかし、副作用が重大ならば、薬としては致命的な薬害になりかねません。抗がん剤のイレッサみたいなものです。副作用を軽視した使い方をすれば薬害です。

■「副作用」抑制策が必要不可欠
 そこで、上限間際に、有期労働契約を雇止めをした使用者は、その当該同一職場・同一業務について、新たに有期契約労働者を雇い入れることを禁止すべきです。

そして、これに違反した場合には、雇止めされた有期契約労働者は、当該使用者に雇用の継続と無期労働契約を求めることができるという法的措置をとるべきです。

■労働者が有期か無期か選択する
次に、報告の上限規制の特徴は、無期にするか有期にするかを、労働者の申出に委ねていることです。つまり、労働者が無期契約か、有期契約かの選択権を持っており、有期を選択した場合には、有期で良いことになります。

■第二の懸念「労働者の『選択の自由』が保障されるか」
建議(報告)の規制では、労働者が選択をすれば5年を超えても有期契約で良いことになります。となると、使用者は、事前に「あなたが有期を選択すれば、5年を超えても有期契約を更新してあげます。でも、無期契約になりたいと言うのであれば、4年11ヶ月で契約を打ち切ります」と言って、労働者の選択を抑圧する危険があります。

■「自由意思の尊重」策
このような自由意思を抑圧するような行為を禁止する必要があります。民法からいうと、上記の強迫とは言えず、労働者が有期を選択してしまっても有効となります。しかし、このような自由意思を抑圧する発言を行った場合には、有期でなく、無期を選択しなおせるような脱法行為禁止の立法措置が必要だと思います。具体的には上記のような抑圧を行った使用者に対しては、労働者は、有期を選択した後も、無期契約の雇用継続を求める権利を保障すべきです。

■雇止め法理の制定
判例の雇止め法理を制定法するとしています。この点は異論のないところでしょう。

■第三の懸念
とはいえ、上限5年を導入した場合、2年や3年目で雇止めされた場合に、雇止め法理の適用があるか。利用可能期間前であるから雇止めは自由だと理解する論者もいます。しかし、これは適用あることを明確にすべきです。少なくとも上限5年前までは継続雇用の期待があるのですから。

他方、上限を超えて自らの意思で有期を選択した労働者についても、その後も雇止め法理が適用あるというべきです。

■クーリング期間
6ヶ月のクーリング期間をおけば、同一の労働者を雇い入れることができるとします。しかし、このようなクーリング期間は必要ないでしょう。またクーリング期間を入れるとしても、その間は、別の有期契約労働者を同一業務には雇用することはできないという措置をセットにするべきです。

頭の整理に、これらの関係を図解したものを作ってみました。これから議論すべき論点は多数あります。

「yuukiroudoukeiyaku5y.pdf」をダウンロード

■労働弁護団1月26日集会開催
本年1月26日午後6時から労働弁護団がシンポジウムを行います。労政審の労働者側の委員にも出席いただき報告してもらいます。また、昨年夏に韓国調査をした小林譲二弁護士にも韓国の報告をしてもらいます。
是非、多くの方、ご参加くださるよう呼びかけます。

http://roudou-bengodan.org/topics/detail/20111220_post-40.php

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