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2011年11月 8日 (火)

日弁連 有期労働契約法制シンポジウム

2011年11月1日に日弁連労働法制委員会主催で、有期労働契約法制シンポジウムを開催されました。

http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/event/data/111101.pdf

■韓国の非正規労働者保護法の調査結果報告

第1部で、第一東京弁護士会が今年9月に実施をした韓国調査(韓国の非正規労働者保護法の状況)に基づいて、小林譲二弁護士が韓国の実態を報告されました。
詳細は一弁が近々報告書を発表する予定です。

韓国では、2006年に非正規労働者保護関連法制が制定され、2007年7月1日から施行されています。主な内容は、
①「2年を超えて有期雇用労働者及びパート労働者を雇用する場合には、期間の定めのない労働契約を締結したものとみなす」という【上限規制】
②「非正規労働者であることを理由とする差別的処遇の禁止と非正規労働者が差別是正を労働委員会に申し立てることができる」【差別是正措置】
③「派遣先が派遣労働者を、2年を超えて使用する場合の直接雇用義務」【派遣労働者の直接雇用義務】です。

ここでは①の上限規制についてだけ、小林弁護士の報告のポイントをご紹介します。これは最新の統計に基づくものです。

2007年7月以降、2011年7月までの期間で契約期間満了者12万人のうち契約終了、正規職への転換、継続雇用の比率は次のとおりです。

契約終了    46.15%

正規職への転換 22.33%

継続雇用    31.5%(無期契約みなし)

労働委員会への非正規労働者の2007年7月から2011年8月まで差別是正措置の申立について、韓国中労委の調査によると次のとおりです。

申立件数 2413件(100%)

是正命令  956件(是正率18.5%)

取り下げ  931件(取下率38.5%)

■労使の弁護士の討論

全国ユニオンの鴨桃代さんから日本の有期労働契約者の現状と問題点が報告され、その後、労働側弁護士の宮里邦雄(労働弁護団会長・東京弁護士会)、経営側弁護士の石嵜信憲(経営法曹会議幹事・第一東京弁護士会)、コーディネーターは、東京大学大学院法学政治学研究科教授の荒木尚志先生です。

■入口規制は平行線

【入口規制】(有期労働契約を締結するには合理的理由が必要)については、労使の主張は最後まで平行線です。経営側は国際競争力にさらされており、規制強化は産業の空洞化を招くという点を強調をしています。

ただし、労使とも一致する点がありました。それは、若年労働者が不安定な有期雇用でしか働けなくなったら日本社会が危機に瀕します。これを回避する方策が必要という点です。

経営側からは、若い労働者を正規職員として雇用した場合には政府が補助金を出すという方策も考えるべきだという意見が述べられました。ただし、入り口規制については消極的です。石嵜弁護士は、個人的意見としては、若手労働者については無期契約とするような方策がないものか述べられていました。

■【出口・上限規制】をめぐって

これに対して、有期労働契約利用の最長期間の制限【出口規制・上限規制】についても、労使の主張は対立したままです。

労働側としては「入口規制なき、出口規制には反対」です。上限・出口規制だけを導入すると、上限の直前に一斉に雇い止めされるおそれがあります。いわゆる【副作用】問題です。

■【副作用】問題

この【副作用】が重大であれば、この上限規制は入れるべきではないでしょう。その副作用の評価が難しいです。この点、韓国の調査結果は妙ですね。46%の雇い止めをどう評価するのか。もし上限規制がなければ、雇用が継続していたとも思えます。他方で、正規職員22%、無期化が31%で、あわせて53%が無期労働契約になったことをどう評価するのか。

コップに水が半分残っているのを見て、まだ半分あると見るべきか、もう半分しかないと見るべきか。悩ましいですね。入口規制なき、出口・上限規制の評価については難しい問題です。

従来のままであれば、雇い止めを争うことができたが、これが出口・上限規制では、争えない。でも雇い止めを争うことができる人は極めて少数。そうであれば、法律で規制して、無期化する人が増えればそのほうが良いという人もいるでしょう。

やはり、入口規制が必要不可欠なはずです。

なお、シンポジウムでは、この上限規制を入れる場合には何年とすべきかも意見交換がありました。宮里弁護士は3年という案を提案されていました。これに対して、石嵜弁護士は「経営側には、仮に入れるとしたら2年、3年を短すぎる。5年、10年という考え方がある」と紹介されていました。

■雇い止め法理の実定法化

【出口規制】として【雇い止め法理】(雇い止めに一定の場合には解雇権濫用法理を類推適用する)については、労使とも一致して、法律に明確なルールにすることは異論がありません。ただし、どのような法文にするかという、具体論となるといろいろ問題が生じるでしょう。特に、どのような場合に解雇権濫用法理を適用するかという点をどう法文として表現するのかは難しいところでしょう。

■均等待遇

最後に、均等待遇の原則については、労使とも平行線のままでした。

宮里弁護士は、「雇用形態の違いを理由にする不合理な差別は禁止するという原則をたてるべきではないか。合理的な理由があれば労働条件の違いが許容されるのであるから、経営側も支障がないはずだ。これがだめなら経営側は不合理な差別をしても良いということを言っていることになる。」と主張されました。

石嵜弁護士は、「合理性が何かが問題になる。また、契約をすればそれが尊重されるというのが法律の原則である」と反論をされていました。

■労働政策審議会部会での建議
今年12月には、労働政策審議会の建議が予定されています。

格差社会を是正して、若者が安定した雇用で暮らして、結婚し、子供を育てていくには、有期労働契約を規制する法律が必要不可欠です。正規・非正規、老若男女を問わず、日本社会の未来をまもるために、本気で取り組まなければならない課題だと思います。

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