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2011年10月10日 (月)

読書日記「日本の雇用と労働法」濱口桂一郎著 日経文庫

読書日記「日本の雇用と労働法」濱口桂一郎著 日経文庫

2011年9月15日発行
2011年10月9日読了

濱口桂一郎先生から、「日本の雇用と労働法」を送ってもらいました。ありがとうございました。

■労働法と雇用システム論との交錯

 実態である「日本の雇用システム」と、法規範である「日本の労働法」の乖離と交錯を真正面から取り上げた意欲的な書物です。読んでいてワクワク観がありました。

 著書によれば、日本型雇用システムは「職務の定めのない雇用契約」を特徴としており、欧米社会のジョブ型雇用契約(ジョブ・職務を特定する雇用契約)と大きく異なると言います。この点は、岩波新書の「新しい労働社会」でも鮮やかに整理されたとおりです。

 私たち労働弁護士は、労働法の教科書や論文から仕入れた契約論や法律解釈を踏まえて、事件処理を行います。ところが事件を通じて実際の企業の労務管理や運用の実態に触れると、確かに「?」と感じることがよくありました。…就業規則法制然り、職務職能賃金制度の人事考課然り、配転命令権然り、残業命令然り。

 この日本の雇用システムの実態について、ふた昔前なら「日本的後進性」とか、「封建主義的労務管理」などと批判していたものです。一昔前に「日本型企業社会」論の登場後、「ハイブリッド」な「現代的な日本型雇用システム」というようなとらえ方が主流になりました。

 濱口氏は、日本型雇用システムの実態をメンバーシップ型雇用契約を本質として、その形成プロセスについても、イデオロギッシュな色分けをせずに、戦前から戦後までの歴史的現実を踏まえて手際よく整理されます。

■メンバーシップ型への雇用システムの変容とその問題点

 本書は、岩波本から一歩進めて、日本の労働法がジョブ型契約を前提としていながら、実際の上の解釈では、メンバーシップ型雇用契約という実態に応じて修正されているという視点で労働法全体が描かれています。

 ジョブ型雇用契約を前提とした労働法が、メンバーシップ型雇用実態に応じて修正されたものであるという視点と解釈論は、なるほどと思いました。他方、このメンバーシップ型契約から除外された女性労働者、非正規労働者を「陰画」として描写されてます。

 著者の濱口氏は、日本の雇用システムの現実に根ざしたメンバーシップ型雇用システムが形成されてきた歴史の重みを重視します。しかし、今の社会状況の変化によって、もはや旧来のメンバーシップ型雇用は維持できないと考えられているようです。
 著者は、日本型雇用システムの今後の動向については断定されず、慎重に見極めるというスタンスです。ただし、見通しとしては、メンバーシップ型雇用契約を前提として、それが徐々にジョブ型の方向(同一価値同一労働や解雇の金銭解決制度など)に変容していくと予想されているのでしょう(そして、その方向に徐々に修正していくべきという労働法政策を含意している)。

 メンバーシップ型雇用契約の特質によって、労働者が企業に過度に包摂されることになり、個人としての自立が阻害され、中には過労死に至るような非人間的な働き方に繋がるものです。このメンバーシップ型契約の欠陥を乗り超えることは、今でも課題となっていると思います。

■職務の特定と雇用契約(労働契約)

 ところで、ジョブ型雇用契約が欧米では一般的でも、「職務を特定しない雇用契約」という類型は一つの雇用契約(労働契約)としてあり得るのではないでしょうか。なぜなら、雇用契約(労働契約)の特徴は、労働者が労務(労働力)を使用者に提供し、使用者が「労務指揮権」を有して一方的に労働者を指揮命令できるという点ですから。日本の民法の雇用契約も労働契約法の労働契約も、ジョブ型も、メンバーシップ型もカバーする法規範のように思えます。

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