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2011年3月28日 (月)

震災・津波・原発と労働問題Q&A

■東北地方太平洋沖地震と労働問題Q&Aを作成してみました。

まだ検討中のものです。これから労働弁護団に、さらに手を加えてもらうつもりです。現段階でも参考になる厚労省のHPをあげておきました。参考になれば幸いです。

東北地方太平洋沖地震と労働問題Q&A

■休業と賃金
Q1 会社の工場が地震と津波のために被害を受けたため操業停止となっています。(1)賃金や休業手当はもらえないのでしょうか。また、(2)退職しないと雇用保険から失業給付をもらえないのでしょうか。

A(1) 労基法26条は使用者の責めに帰すべき事由により休業する場合には平均賃金の6割の休業手当の支払いを義務付けています。しかし、今回の地震や津波で直接に被災をうけ工場が休業してしまった場合には天災という不可抗力となります。ですから、「使用者の責めに帰すべき事由」にはあたらないので労基法26条の休業手当支給をしなくても労基法違反になりません。  ただ、賃金については、会社の休業や欠勤にかかわらず毎月月給を支払うとされ、天災などの不可抗力の場合でも月給を払うという定めになっている場合には、使用者は給料を支払わなければなりません。


【参考】厚生労働省HP
平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(第1版)http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r98520000015fyy.pdf


A(2) 雇用保険失業給付の特例措置が実施されており、事業所が災害を受けたことにより休止・廃止したために、休業を余儀なくされ、賃金を受けることができでない状態にある労働者について、実際に離職していなくとも雇用保険の失業給付(基本手当)が支給されます。この場合には、ハローワークに、会社(事業主)の休業証明書を提出することや、休業票を持参する必要があります。このような休業票が入手できない場合でもハローワークに相談して下さい。
 また、この雇用保険の失業給付をもらうには、雇用保険期間が6ヶ月以上あることなどの要件が必要となります。ただし、事業主が雇用保険を支払っていなくとも労働者には雇用保険を受け取る権利がありますから、あきらめずにハローワークで相談して下さい。


【参考】厚生労働省HP
東北地方太平洋沖地震に伴う雇用保険失業給付の特例措置について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015vy1.html
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/koyouhoken07.pdf

Q2 地震や災害での直接の被害を受けませんでしたが、原子力発電所の避難対象地域に指定されて会社が休業しています。私も県外に避難しています。この場合には、賃金や休業手当はどうなるのでしょうか。屋内待機対象地域の中にある会社の場合はどうなるでしょうか。

A 法令上の避難しなければならない地域に指定されたのですから、災害により休業した場合と同様に取り扱われます。また、屋内待避地域も同様です。この場合には法令上の避難・屋内待避を命じられている場合ですから、事業主にとっては不可抗力となります。労基法26条の休業手当を支払わなくとも労基法違反とはなりません。しかし、このような避難地域・屋内待避の指定は、法令上の措置ですから事業所が災害を受けた場合と同じく、Q1(2)の雇用保険失業給付の特例措置を受けることができます(「福島原子力発電所の影響を踏まえた激甚災害法の雇用保険の特例措置の取扱いについて」平成23年3月28日付職保発0328第1号)。


【参考】厚生労働省HP
平成23年3月28日付職保発0328第1号
福島原子力発電所の影響を踏まえた激甚災害法の雇用保険の特例措置の取扱いについて
https://mail-attachment.googleusercontent.com/attachment?ui=2&ik=1a371e992c&view=att&th=12efce067a45f2b7&attid=0.2&disp=inline&safe=1&zw&saduie=AG9B_P_mqThb1YccVJx-C6j6OY68&sadet=1301328666933&sads=YSbCvz80vVwUYcJD7igBRhFxMwk

Q3 地震のために東北地方の工場から部品が入手できないとして、私が勤務する東京の工場が休業となりました。東京工場は震災等で直接の被害を受けていません。この場合に賃金や休業手当は支払われるのでしょうか。

A この場合には、会社は原則として賃金を100%支払わなければなりません。東北地方の工場から部品が納入できないというだけでは使用者は賃金支払義務を免れません。例外的に使用者が十分な努力しても部品が入手できないという事情がある場合に限り、賃金を支払わなくても良いことになります。   賃金を支払わなくても良い場合であっても、休業手当は原則として支払わなければなりません。他工場から部品の仕入れや代替品の購入など使用者が可能な限りの最大限の努力を尽くしても休業せざるを得ないという例外的な場合に限り使用者が休業手当を支払わなくとも労基法違反となりません。Q1も参照して下さい。

Q4 会社から、正午から3時まで計画停電になるから、効率が悪いので一日、休業するとの指示が来ました。この場合には休業手当はもらえないのでしょうか。

A 厚労省は通達と労働基準法第26条の取扱いについて通達を出しています(「計画停電の休業手当が実施される場合の労働基準法第26条の取扱いについて」平成23年3月15日基監発0315第1号)。これによれば、①計画停電の時間帯における事業場が停電することを理由とする休業については使用者の責め帰すべき事由による休業でなく、休業手当を払わなくても労基法違反でないこと。②計画停電の時間帯以外の時間帯の休業した場合には、原則として使用者の責めに帰すべき事由による休業であり休業手当を支払わなければならないこと。③ただし、他の手段の可能性、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、計画停電の時間帯のみを休業とすることが企業の経営上著しく不適当と認められるときには使用者の責めに帰すべき事由による休業とはならないとしています。  つまり、計画停電の時間帯だけは休業手当を支払わなくても、労基法違反ではありませんが、計画停電の時間帯以外の時間帯では原則として休業手当を払わなければならないということです。一部に、計画停電がある日は一日休業しても休業手当を支払わなくても良いとする通達だとする企業がありますが、これは通達の誤解です。③の経営上著しく不適当という例外を安易に認めてはなりません。 また、賃金については、Q1のとおり、月給制の場合には天災などで一時的に工場が休業した場合であっても支払われるとされていることがありますから、その場合には、その企業のルールに従うことになります。

【参考】厚生労働省HP
計画停電の休業手当が実施される場合の労働基準法第26条の取扱いについて
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/other/dl/110316a.pdf

Q5 震災により被害を受けたため工場の操業が止まってしまいました。社長も資金繰りに奔走していますが、震災前の給料も支払えない言っています。この場合には給料は支払ってもらえないのでしょうか。

A 過去分の給料は労基法24条により全額支払わなければなりません。  しかし、被災地域の中小零細企業の場合には休業や廃業の状態になっており、過去の給料支払いの原資もない事業主もあるでしょう。厚労省は、平成23年3月23日「平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う未払賃金の立替払事業の運営について」(基発0323第3号)を出しています。これによれば、地震のために事業活動の停止を余儀なくされ、賃金の支払いのための資金が確保されず、賃金未払いのまま退職を余儀なくされた労働者に対し、実情を踏まえつつ迅速に実施し、早急な救済を図ることとしています。対象は、地震による直接的被害を受けて事業活動を停止し、再開する見込みがなく、かつ賃金支払い能力がない被災地域の中小企業です。近くの労働基準監督署に社長と一緒に相談をしてみて下さい。 【参考】厚生労働省HP 平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う未払賃金の立替払事業の運営について http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015rt9-img/2r9852000001607y.pdf

Q6 私の会社は地震や津波の直接的被害を受けませんでしたが、顧客が激減し、また原料や部品も入手できず、事業を一部休業したり縮小しています。このような中小企業への救済策で活用できるものはありますか。

A 厚生労働省は、東北地方太平洋沖地震被害に伴う経済上の理由により事業活動を縮小せざるをえなくなった事業主に、労働者の雇用を維持するために、一時的に休業等を行った場合には、休業手当相当額等の一部(中小企業で原則8割)を助成するとしています。これには計画停電により、事業活動を縮小していれば対象となります。青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県のうち災害救助法適用地域の事業場では、最近1ヶ月の生産量・売上高等がその直線1ヶ月又は前年同期と比べ5%以上減少していれば対象となります。それ以外の地域は、最近3ヶ月の生産量、売上高等がその直前の3ヶ月又は前年同期と比べ5%以上減少していることなどが要件となります。詳細はハローワークにお問い合わせ下さい。

【参考】厚生労働省HP
東北地方太平洋沖地震被害に伴う雇用調整助成金の活用Q&A
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/josei/kyufukin/a10-1.html

Q7 私は派遣労働者ですが、派遣先が地震により事業活動を中止しているために、派遣先で仕事ができません。この場合に給料はもらえますか。

A 派遣労働者は、派遣元(派遣会社)に雇用されている者ですから、派遣元が派遣労働者に給料を支払わなければならないのが原則です。派遣先が地震で被災を受けて事業活動を休止・停止していても、派遣会社は派遣労働者に給料を支払い、また他の派遣先を紹介する責任があります。ただし、例外的に広域災害のために他の派遣先を紹介することが著しく困難である場合には賃金を払わなくても労基法違反となりません。休業手当との関係はQ1とQ3も参照して下さい。
  この場合には派遣労働者もQ1(2)の雇用保険の特例措置により失業手当の支給を受けることができます。なお、派遣先が激甚災害地域であれば、この特例措置を受けられます。


■解雇や雇止め
Q8 私が勤務している会社は東京にありますが、東北地方の大震災により部品を調達できなくなったため事業を縮小するとして、1年の有期労働契約を締結・更新して5年以上働いてきた労働者全員を4月末で雇い止めをすると発表しました。また、正社員も10名を解雇すると言います。これは大震災のためですから、仕方がないのでしょうか。

A 有期契約労働者も5年以上も働いており、恒常的な業務を担当してきたのであれば雇用継続の合理的な期待を有していると言えますから、期間満了ということで雇い止めすることはできません。解雇と同じく、合理的で客観的な理由があり社会通念上相当の場合でなければ解雇は無効となります。経営上の理由による解雇は、「整理解雇」と呼ばれます。「整理解雇」は次の4要件がないと違法無効です。①経営上、人員削減の必要性があること、②人員削減について解雇を選択する必要性(解雇回避努力を尽くしていること)、③人員削減について労働者・労働組合と十分な協議を行っていること(手続の相当性)、④被解雇対象者の人選の合理性です。ですから、大震災を理由とする経済上の困難が発生しているとしても、上記の4つの要件を満たさなければなりません。例えば、部品の調達等は他の方法を見つけるよう最大限の努力をすることが求められます。安易な大震災を理由とした整理解雇は認められません。日本の復興を考えても、雇用の安定をはかることが企業の社会的責任として求められています。なお、Q6も参照下さい。

■労働災害・通勤災害
Q9 今回の震災によって事業場内の棚が倒れてきてケガをしました。労災になるのでしょうか。

A 労災保険が支給されるのは、業務上の災害と認められなければなりません。業務上の災害とは、業務遂行性と業務起因性の二つの要件を満たす場合です。今回の大震災について、厚生労働省は、平成23年3月24日付けで通達を出しています(「東北地方太平洋沖地震に係る業務上外の判断等について」基労管発0324第1号、貴労補発0324第2号)。これによると「業務遂行中に、地震や津波により建物が倒壊したこと等が原因で被災した場合にあっては、作業方法や作業環境、事業場施設の状況などの危険環境下の業務に伴う危険が現実化したものとして業務災害として差し支えない」としています。したがって、仕事中に震災によって会社の設備でケガをした以上、労災保険の適用を受けられます。

【参考】厚生労働省HP
東北地方太平洋沖地震に係る業務上外の判断等について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r98520000015j3l.pdf
東北地方太平洋沖地震に伴う労災保険給付の請求に係る事務処理について(基労補発0311第9号平成23年3月11日)
https://mail-attachment.googleusercontent.com/attachment?ui=2&ik=1a371e992c&view=att&th=12efce067a45f2b7&attid=0.1&disp=inline&safe=1&zw&saduie=AG9B_P_mqThb1YccVJx-C6j6OY68&sadet=1301328658160&sads=JgIuIoNz3n0-dzMpuCCxItKCkj0&sadssc=1

Q10 今回の地震と津波により会社から避難するときに、同僚労働者が壁の下敷きになっていたのを助けようとして、私も手にケガをしてしまいました。労災になるのでしょうか。特に上司に救助しろと指示されたわけではありません。

A Q9の通達によれば、地震や津波により作業場が倒壊して被災した場合はもちろん、工場等から屋外に避難する際に被災した場合や地震によって被災した同僚を救助しようとして被災した場合(事業主の命令がなくても)に労災保険の適用があるとしています。

Q11 通勤途中で、地震と津波にあって列車が脱線してケガをしました。労災保険を受けられますか。

A 通勤災害とは「労働者の通勤による」災害でケガをすれば労災保険が適用されます。この「通勤上の災害」とは、「労働者が、就業に関して、①住居と就業場所との往復、②就業場所から就業場所への移動を合理的な経路及び方法により行うことをいう」とされています(労災保険法7条)。Q9の通達では、質問の場合はもちろん通勤災害として労災保険給付の対象となるとされます。

Q12 地震により電車が止まっているために、オートバイで会社に通勤せざるをえません。その途中に事故にあいケガをしていしまいました。労災保険をもらえますか。

A 厚労省が平成23年3月24日に「東北地方太平洋沖地震と労災保険Q&A」を発表しています。そこでは、電車が止まっていたために徒歩や自転車、オートバイで通勤したが途中で事故により被災した場合も通勤災害となるとしています。また、避難場所から通勤する際の事故も通勤災害となるとしています。様々な事例がこのQ&Aに紹介されていますから、ご参照下さい。


【参考】厚生労働省HP
東北地方太平洋沖地震と労災保険Q&A
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015vli-img/2r9852000001653g.pdf


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コメント

労働基準法について質問です。 津波警報が出ている作業現場(海沿いの水産加工工場)で仕事を部下にさせると基準法の違反になるのですか?
また、避難を促さなかった場合も違反になるのですか?

投稿: fujisawa | 2011年4月10日 (日) 22時15分

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