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2011年3月29日 (火)

原発震災 すべて想定されていた

■毎日新聞
2011年3月29日の毎日新聞のコラム「発信箱」福岡賢正記者が、今回の震災・津波による原発事故は、神戸大学の石橋克彦教授の1997年10月の論文で予測され警告されていたことを報じています。

岩波書店の雑誌「科学」の97年10月号に載った論文「原発震災~破滅を避けるために」

「最大の水位上昇がおこっても敷地の地盤高(海抜6m以上)を越えることはないというが、16005年倒壊・南海巨大津波地震のような断層運動が併発すれば、それを超える大津波もありうる」

「外部伝電源が止まり、ディーゼル発電機が動かず、バッテリーも機能しないというような事態がおこりかねない。」

「炉心溶融が生ずる恐れが強い。そうなるとさらに水蒸気爆発や水素爆発がおこって格納容器や原子炉建屋が破壊される」

「4基すべてで同時に事故をおこすこともありうるし、(中略)、爆発事故が使用済み燃料プールに波及すれば、ジルコニウム火災などを通じて放出放射能がいっそう莫大になるという推測もある」

まさに、今の事態を14年前に全て予測しています。

石橋教授は、国会でも公聴会でも、「地震大国日本は原子力からの脱却に向けて努力を」と警告を発していたとのことです。

■石橋教授のHPで詳しく紹介されています。

http://historical.seismology.jp/ishibashi/opinion/2011touhoku.html


■次の川柳が朝日新聞い出されていたと思います。

事前には、杞憂と嗤い 事後には、想定外と言う   ー原子力専門家

ちなみに、石橋克彦氏は、岩波新書から「大地動産の時代」(1994年発行)を出されており、この本では、日本が新たな大地震活動期に入ることを強調されています。この本の著者略歴を見ると次のとおり。

1994年生まれ
1968年東京大学理学部地球物理学科卒業
1973年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了
(1994年当時)建設省建築研究所国際地震工学部応用地震学室長

(現在 神戸大学教授)

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2011年3月28日 (月)

震災・津波・原発と労働問題Q&A

■東北地方太平洋沖地震と労働問題Q&Aを作成してみました。

まだ検討中のものです。これから労働弁護団に、さらに手を加えてもらうつもりです。現段階でも参考になる厚労省のHPをあげておきました。参考になれば幸いです。

東北地方太平洋沖地震と労働問題Q&A

■休業と賃金
Q1 会社の工場が地震と津波のために被害を受けたため操業停止となっています。(1)賃金や休業手当はもらえないのでしょうか。また、(2)退職しないと雇用保険から失業給付をもらえないのでしょうか。

A(1) 労基法26条は使用者の責めに帰すべき事由により休業する場合には平均賃金の6割の休業手当の支払いを義務付けています。しかし、今回の地震や津波で直接に被災をうけ工場が休業してしまった場合には天災という不可抗力となります。ですから、「使用者の責めに帰すべき事由」にはあたらないので労基法26条の休業手当支給をしなくても労基法違反になりません。  ただ、賃金については、会社の休業や欠勤にかかわらず毎月月給を支払うとされ、天災などの不可抗力の場合でも月給を払うという定めになっている場合には、使用者は給料を支払わなければなりません。


【参考】厚生労働省HP
平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(第1版)http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r98520000015fyy.pdf


A(2) 雇用保険失業給付の特例措置が実施されており、事業所が災害を受けたことにより休止・廃止したために、休業を余儀なくされ、賃金を受けることができでない状態にある労働者について、実際に離職していなくとも雇用保険の失業給付(基本手当)が支給されます。この場合には、ハローワークに、会社(事業主)の休業証明書を提出することや、休業票を持参する必要があります。このような休業票が入手できない場合でもハローワークに相談して下さい。
 また、この雇用保険の失業給付をもらうには、雇用保険期間が6ヶ月以上あることなどの要件が必要となります。ただし、事業主が雇用保険を支払っていなくとも労働者には雇用保険を受け取る権利がありますから、あきらめずにハローワークで相談して下さい。


【参考】厚生労働省HP
東北地方太平洋沖地震に伴う雇用保険失業給付の特例措置について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015vy1.html
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/koyouhoken07.pdf

Q2 地震や災害での直接の被害を受けませんでしたが、原子力発電所の避難対象地域に指定されて会社が休業しています。私も県外に避難しています。この場合には、賃金や休業手当はどうなるのでしょうか。屋内待機対象地域の中にある会社の場合はどうなるでしょうか。

A 法令上の避難しなければならない地域に指定されたのですから、災害により休業した場合と同様に取り扱われます。また、屋内待避地域も同様です。この場合には法令上の避難・屋内待避を命じられている場合ですから、事業主にとっては不可抗力となります。労基法26条の休業手当を支払わなくとも労基法違反とはなりません。しかし、このような避難地域・屋内待避の指定は、法令上の措置ですから事業所が災害を受けた場合と同じく、Q1(2)の雇用保険失業給付の特例措置を受けることができます(「福島原子力発電所の影響を踏まえた激甚災害法の雇用保険の特例措置の取扱いについて」平成23年3月28日付職保発0328第1号)。


【参考】厚生労働省HP
平成23年3月28日付職保発0328第1号
福島原子力発電所の影響を踏まえた激甚災害法の雇用保険の特例措置の取扱いについて
https://mail-attachment.googleusercontent.com/attachment?ui=2&ik=1a371e992c&view=att&th=12efce067a45f2b7&attid=0.2&disp=inline&safe=1&zw&saduie=AG9B_P_mqThb1YccVJx-C6j6OY68&sadet=1301328666933&sads=YSbCvz80vVwUYcJD7igBRhFxMwk

Q3 地震のために東北地方の工場から部品が入手できないとして、私が勤務する東京の工場が休業となりました。東京工場は震災等で直接の被害を受けていません。この場合に賃金や休業手当は支払われるのでしょうか。

A この場合には、会社は原則として賃金を100%支払わなければなりません。東北地方の工場から部品が納入できないというだけでは使用者は賃金支払義務を免れません。例外的に使用者が十分な努力しても部品が入手できないという事情がある場合に限り、賃金を支払わなくても良いことになります。   賃金を支払わなくても良い場合であっても、休業手当は原則として支払わなければなりません。他工場から部品の仕入れや代替品の購入など使用者が可能な限りの最大限の努力を尽くしても休業せざるを得ないという例外的な場合に限り使用者が休業手当を支払わなくとも労基法違反となりません。Q1も参照して下さい。

Q4 会社から、正午から3時まで計画停電になるから、効率が悪いので一日、休業するとの指示が来ました。この場合には休業手当はもらえないのでしょうか。

A 厚労省は通達と労働基準法第26条の取扱いについて通達を出しています(「計画停電の休業手当が実施される場合の労働基準法第26条の取扱いについて」平成23年3月15日基監発0315第1号)。これによれば、①計画停電の時間帯における事業場が停電することを理由とする休業については使用者の責め帰すべき事由による休業でなく、休業手当を払わなくても労基法違反でないこと。②計画停電の時間帯以外の時間帯の休業した場合には、原則として使用者の責めに帰すべき事由による休業であり休業手当を支払わなければならないこと。③ただし、他の手段の可能性、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、計画停電の時間帯のみを休業とすることが企業の経営上著しく不適当と認められるときには使用者の責めに帰すべき事由による休業とはならないとしています。  つまり、計画停電の時間帯だけは休業手当を支払わなくても、労基法違反ではありませんが、計画停電の時間帯以外の時間帯では原則として休業手当を払わなければならないということです。一部に、計画停電がある日は一日休業しても休業手当を支払わなくても良いとする通達だとする企業がありますが、これは通達の誤解です。③の経営上著しく不適当という例外を安易に認めてはなりません。 また、賃金については、Q1のとおり、月給制の場合には天災などで一時的に工場が休業した場合であっても支払われるとされていることがありますから、その場合には、その企業のルールに従うことになります。

【参考】厚生労働省HP
計画停電の休業手当が実施される場合の労働基準法第26条の取扱いについて
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/other/dl/110316a.pdf

Q5 震災により被害を受けたため工場の操業が止まってしまいました。社長も資金繰りに奔走していますが、震災前の給料も支払えない言っています。この場合には給料は支払ってもらえないのでしょうか。

A 過去分の給料は労基法24条により全額支払わなければなりません。  しかし、被災地域の中小零細企業の場合には休業や廃業の状態になっており、過去の給料支払いの原資もない事業主もあるでしょう。厚労省は、平成23年3月23日「平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う未払賃金の立替払事業の運営について」(基発0323第3号)を出しています。これによれば、地震のために事業活動の停止を余儀なくされ、賃金の支払いのための資金が確保されず、賃金未払いのまま退職を余儀なくされた労働者に対し、実情を踏まえつつ迅速に実施し、早急な救済を図ることとしています。対象は、地震による直接的被害を受けて事業活動を停止し、再開する見込みがなく、かつ賃金支払い能力がない被災地域の中小企業です。近くの労働基準監督署に社長と一緒に相談をしてみて下さい。 【参考】厚生労働省HP 平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う未払賃金の立替払事業の運営について http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015rt9-img/2r9852000001607y.pdf

Q6 私の会社は地震や津波の直接的被害を受けませんでしたが、顧客が激減し、また原料や部品も入手できず、事業を一部休業したり縮小しています。このような中小企業への救済策で活用できるものはありますか。

A 厚生労働省は、東北地方太平洋沖地震被害に伴う経済上の理由により事業活動を縮小せざるをえなくなった事業主に、労働者の雇用を維持するために、一時的に休業等を行った場合には、休業手当相当額等の一部(中小企業で原則8割)を助成するとしています。これには計画停電により、事業活動を縮小していれば対象となります。青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県のうち災害救助法適用地域の事業場では、最近1ヶ月の生産量・売上高等がその直線1ヶ月又は前年同期と比べ5%以上減少していれば対象となります。それ以外の地域は、最近3ヶ月の生産量、売上高等がその直前の3ヶ月又は前年同期と比べ5%以上減少していることなどが要件となります。詳細はハローワークにお問い合わせ下さい。

【参考】厚生労働省HP
東北地方太平洋沖地震被害に伴う雇用調整助成金の活用Q&A
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/josei/kyufukin/a10-1.html

Q7 私は派遣労働者ですが、派遣先が地震により事業活動を中止しているために、派遣先で仕事ができません。この場合に給料はもらえますか。

A 派遣労働者は、派遣元(派遣会社)に雇用されている者ですから、派遣元が派遣労働者に給料を支払わなければならないのが原則です。派遣先が地震で被災を受けて事業活動を休止・停止していても、派遣会社は派遣労働者に給料を支払い、また他の派遣先を紹介する責任があります。ただし、例外的に広域災害のために他の派遣先を紹介することが著しく困難である場合には賃金を払わなくても労基法違反となりません。休業手当との関係はQ1とQ3も参照して下さい。
  この場合には派遣労働者もQ1(2)の雇用保険の特例措置により失業手当の支給を受けることができます。なお、派遣先が激甚災害地域であれば、この特例措置を受けられます。


■解雇や雇止め
Q8 私が勤務している会社は東京にありますが、東北地方の大震災により部品を調達できなくなったため事業を縮小するとして、1年の有期労働契約を締結・更新して5年以上働いてきた労働者全員を4月末で雇い止めをすると発表しました。また、正社員も10名を解雇すると言います。これは大震災のためですから、仕方がないのでしょうか。

A 有期契約労働者も5年以上も働いており、恒常的な業務を担当してきたのであれば雇用継続の合理的な期待を有していると言えますから、期間満了ということで雇い止めすることはできません。解雇と同じく、合理的で客観的な理由があり社会通念上相当の場合でなければ解雇は無効となります。経営上の理由による解雇は、「整理解雇」と呼ばれます。「整理解雇」は次の4要件がないと違法無効です。①経営上、人員削減の必要性があること、②人員削減について解雇を選択する必要性(解雇回避努力を尽くしていること)、③人員削減について労働者・労働組合と十分な協議を行っていること(手続の相当性)、④被解雇対象者の人選の合理性です。ですから、大震災を理由とする経済上の困難が発生しているとしても、上記の4つの要件を満たさなければなりません。例えば、部品の調達等は他の方法を見つけるよう最大限の努力をすることが求められます。安易な大震災を理由とした整理解雇は認められません。日本の復興を考えても、雇用の安定をはかることが企業の社会的責任として求められています。なお、Q6も参照下さい。

■労働災害・通勤災害
Q9 今回の震災によって事業場内の棚が倒れてきてケガをしました。労災になるのでしょうか。

A 労災保険が支給されるのは、業務上の災害と認められなければなりません。業務上の災害とは、業務遂行性と業務起因性の二つの要件を満たす場合です。今回の大震災について、厚生労働省は、平成23年3月24日付けで通達を出しています(「東北地方太平洋沖地震に係る業務上外の判断等について」基労管発0324第1号、貴労補発0324第2号)。これによると「業務遂行中に、地震や津波により建物が倒壊したこと等が原因で被災した場合にあっては、作業方法や作業環境、事業場施設の状況などの危険環境下の業務に伴う危険が現実化したものとして業務災害として差し支えない」としています。したがって、仕事中に震災によって会社の設備でケガをした以上、労災保険の適用を受けられます。

【参考】厚生労働省HP
東北地方太平洋沖地震に係る業務上外の判断等について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r98520000015j3l.pdf
東北地方太平洋沖地震に伴う労災保険給付の請求に係る事務処理について(基労補発0311第9号平成23年3月11日)
https://mail-attachment.googleusercontent.com/attachment?ui=2&ik=1a371e992c&view=att&th=12efce067a45f2b7&attid=0.1&disp=inline&safe=1&zw&saduie=AG9B_P_mqThb1YccVJx-C6j6OY68&sadet=1301328658160&sads=JgIuIoNz3n0-dzMpuCCxItKCkj0&sadssc=1

Q10 今回の地震と津波により会社から避難するときに、同僚労働者が壁の下敷きになっていたのを助けようとして、私も手にケガをしてしまいました。労災になるのでしょうか。特に上司に救助しろと指示されたわけではありません。

A Q9の通達によれば、地震や津波により作業場が倒壊して被災した場合はもちろん、工場等から屋外に避難する際に被災した場合や地震によって被災した同僚を救助しようとして被災した場合(事業主の命令がなくても)に労災保険の適用があるとしています。

Q11 通勤途中で、地震と津波にあって列車が脱線してケガをしました。労災保険を受けられますか。

A 通勤災害とは「労働者の通勤による」災害でケガをすれば労災保険が適用されます。この「通勤上の災害」とは、「労働者が、就業に関して、①住居と就業場所との往復、②就業場所から就業場所への移動を合理的な経路及び方法により行うことをいう」とされています(労災保険法7条)。Q9の通達では、質問の場合はもちろん通勤災害として労災保険給付の対象となるとされます。

Q12 地震により電車が止まっているために、オートバイで会社に通勤せざるをえません。その途中に事故にあいケガをしていしまいました。労災保険をもらえますか。

A 厚労省が平成23年3月24日に「東北地方太平洋沖地震と労災保険Q&A」を発表しています。そこでは、電車が止まっていたために徒歩や自転車、オートバイで通勤したが途中で事故により被災した場合も通勤災害となるとしています。また、避難場所から通勤する際の事故も通勤災害となるとしています。様々な事例がこのQ&Aに紹介されていますから、ご参照下さい。


【参考】厚生労働省HP
東北地方太平洋沖地震と労災保険Q&A
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015vli-img/2r9852000001653g.pdf


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2011年3月19日 (土)

震災 計画停電と労基法26条の休業手当

■計画停電と労基法26条の休業手当

厚労省は、計画停電についての労基法26条の休業手当の取扱いについて次のような通達を出しました。

○計画停電が実施される場合の労働基準法第26条の取扱いについて(平成23年3月15日基監発0315第1号)

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/other/dl/110316a.pdf

これによれば

1)計画停電の時間帯の休業は、労基法26条の使用者の責めに帰すべき事由にあたらないとして、休業手当を支払わないで良い。

2)しかし、計画停電の時間帯以外の休業は原則として、労基法26条の使用者の責めに帰すべき事由にあたり、休業手当を支払わなければならない。

3)ただし、計画停電の時間帯以外の時間を含めて休業することが、他の手段の可能性、使用者として休業回避のための具体的努力などを総合的に勘案し、計画停電の時間帯のみを休業とすることが企業の経営上著しく不適当と認められるときには、計画停電の時間帯以外の時間を休業することは使用者の責めに帰すべき事由に該当しない。

要するに、【計画停電時間帯の休業は、休業手当を払わなくて良いが、計画停電時間帯外の休業は、原則として休業手当を支払わなければならない。ただし、計画停電時間帯以外の休業も、企業の経営上著しく不適当の認められる場合には、休業手当を払わなくても良い】ということです。

■労基法26条の解釈

労基法26条は、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の60%以上の手当を支払わなければならないとしています。

この労基法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」は、民法536条2項の債権者の責めに帰すべき事由と異なり、広く解釈されており、地震、天災、戦争などの不可抗力の場合は別として、使用者の支配領域で生じる事由によって生じたものは広く使用者の責めに帰すべき事由ということになります。

しかし、今回の東北沖太平洋地震は未曾有の大震災で、しかも福島第一原発の原発事故も発生し、不可抗力の典型例です。

その結果、計画停電により工場が操業できなくなったような場合には、その休業は使用者の責めに帰すべき事由ではないとして、労基法26条の休業手当を払わなくて良いということにります。

ただし、計画停電は、時間帯が一部です。計画停電以外の時間帯は操業できます。使用者は、一部だけの操業は効率がわるいとして、すべて全日を休業にするかもしれません。しかし、このような休業は、使用者の責めに帰すべき事由として休業手当を支払うべきです。これは、休業手当26条を厳格に解釈する姿勢を示していると思われます。

計画停電中の休業は不可抗力ですが、それ以外の時間帯を休業する場合には、原則として、休業手当を支払う義務があることを明確化したことは意味があると思います。

■便乗休業はダメ

また、直接に被害を被っていない企業や、計画停電の影響を受けない企業が、部品が入ってこないとか、売り上げの見通しができないなどとのあやふやな理由で休業するような場合には、上記3)の趣旨からみて、原則としては使用者の責めに帰すべき事由にあたると言えます。さらには、民法364条2項の債権者の責めに帰すべき事由(債権者の故意過失または信義則上これに準じる事由)として、賃金は100%払わなければならないものといえるでしょう。


■激甚災害法による雇用保険の特例

厚労省は雇用保険の特例を発表しています。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/koyouhoken07.pdf

①事業所が災害を受けたことにより休止・廃止したために、休業を余儀なくされ、賃金を受けることができない状態にある方については、実際に離職していなくても失業給付(雇用保険の基本手当)を受給できます(休業)。 ②災害救助法の指定地域にある事業所が災害により事業が休止・廃止したために、一時的に離職を余儀なくされた方については、事業再開後の再雇用が予定されている場合であっても、失業給付を受給できます(離職)。 ※災害により直接被害を受け、事業所が休止・廃止になり、休業した場合または一時的な離職をした場合が対象と なります。 ※上記の失業給付は、雇用保険に6カ月以上加入しているなどの要件を満たす方が対象となります。

これは震災地域での直接災害を受けた労働者について退職していなくとも、休業状態でも雇用保険の基本手当が支給されるものです。直接に被災を受けた地域の労働者にとって活用できるものです。離職票などが入手できなくとも、ハローワークで相談をすれば支給されるはずです。

■今後

今後は、この大地震や原発事故、これによる大きな経済的困難による会社倒産、廃業、解雇、退職、失業が広がることでしょう。また、直接被災をうけない地域でも、企業の経済的困難によって、解雇問題、失業問題が生じるとでしょう。特に原発事故が大規模化すれば、その影響は、地震や津波よりも、大きな困難を生じることでしょう。

企業の安易な解雇は、復興にとっても障害となり、許されないものです。労働法のルールを無視することは許されません。同時に、個々の企業努力(その多くは中小零細企業)だけでは克服できない事態でもあります。政府のそれこそ復興予算で、雇用の安定をはかる予算措置や政策が強く求められています。

現在も、雇用調整助成金の活用が発表されていますが、もっと大規模なものが必要になるのではないでしょうか。

雇用調整助成金
  ↓
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/josei/kyufukin/a09-1.html


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2011年3月17日 (木)

原発クライシスと情報

■論点がどんどん移っていく=情報操作?

テレビでは昨日までは、福島第一原子力発電所の1号機、2号機、3号機の炉心の燃料棒の損傷、冷却水の不足を報道していたと思えば、今日は、3号機、4号機の使用済み核燃料への給水騒動。

原子炉格納器内の燃料棒の溶融問題はどうなったの?わざと論点を移して情報操作しているように感じます(考え過ぎかな?)

■中性子線の測定はどうなったの?

3月16日には、一般新聞でも中性子線が原発正門で測定されたと報道されていました。中性子線は、核分裂にともなって発するのだから、原子炉格納器が損傷して漏れているか、あるいは使用済み核燃料が再臨界しているかの可能性があることになります。

ところが、その後、とんと中性子線の測定についての報道が消えます。へんです。

中性子線の測定報道は間違いだったの?

■3号機はプルトニウム使用のプルサーマルだということを、何故報道しないの?

プルトニウム燃料・MOx燃料を製造したフランスは、チャーター機をだして、自国民を無料で帰国させているのはなぜ?
このことを、どこのテレビも報じないのはなぜなの?

■テレビの原子力専門家は何故、中途半端なことしか言わないの?

素人でも不安に思う以上の質問を、なぜNHK、テレビ朝日、TBSのキャスターは解説者に質問しないのだろうか。最悪の事態はどういう事態で、その場合にどうなるのか、と何故質問しないのか?

だから、情報を隠している、と疑ってしまうのです。

■焼け石の水じゃないの?

今日のヘリコプターや放水車の給水は、テレビで観ていて、所詮、焼け石に水と誰もが思ったことでしょう。もちろん、やらないよりもマシですが、事態は何ら改善されない。

電源回復して、冷却機能を回復させるしかないのでしょう。電源取り込みの東電の作業が着手されたようです。一日も早い電源回復、冷却機能の回復を祈るしかありません。とはいえ、あれほどぶっ壊れた原子炉施設で、電源回復したとしても、冷却機能が復活するのでしょうか?

■出勤と原発クライシス

私のまわりでは、従業員や職員の出勤について論争が行われています。

現状の東京の放射線量が問題ないので通常出勤で良いという意見と、不安があるから様子見で出勤不要という意見です。労基法26条の休業手当の支払い義務との関係でも法律問題を生じさせます。

現在の都内の放射線量は危険ではありません。でも今後、生じるかもしれない最悪の事態(大量の放射性物質の飛散)の危険性はります。明日にでも起こるかもしれません。それでも出勤を通常通りすべきかどうかという問題は生じます。

東京の場合、福島原発で最悪の事態に生じても、放射性物質の到達は約10時間かかると言われています。したがって、都内であれば出勤しても自宅まで待避する時間的余裕があります(交通手段が動いていれば)。ということで通常通り出勤すべきということになります。

それでも何か起こるか分からないので不安。子どもの保育園に迎えにいけないなどの事情がある場合には、年休で休むしかないでしょうね。

私は、最悪の事態が生じるの可能性が、特に、この2~3日の間にあるかも、と思っています。個人としては、東京では屋内待避が命じるしかありませんから、職場で大停電のなかで屋内待避はつらいです。自宅にもどって屋内待避したい。そこで、不要不急の仕事をしている方は、無理して出勤される必要はないかと思います。

私は、裁判があるので、出勤せざるをえません。ですので、ここ数日、仕事を休んでも大丈夫な方々は、できるだけお休みされたほうが良いでしょう。仕事で外出せざるをえない人びとが、いざというときに自宅に待避できやすくなるからです。


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2011年3月16日 (水)

大地震 津波 原発危機

■大地震の日

3月11日の地震 東京地裁1階の大きな法廷での弁論中でした。日航の客室乗務員整理解雇事件の第1回期日。法廷には客室乗務員の原告ら60名くらい、傍聴者や代理人で総勢100人くらいいました。突然、「震度4以上の地震がきます」との緊急地震警報が放送されました。女性の方が3分の2。4分くらいの激しい揺れでも、きゃーとか叫ぶ人も誰もおらず、極めて冷静でした。さすが客室乗務員。

■津波の映像を見て

その日は、歩いて事務所までもどり、自宅までもどるのは早々とあきらめ、帰宅難民となって残った8名くらいの弁護士らと事務所で泊まりました。夜は近くの法律事務所の弁護士らとも一緒になって居酒屋で食事とお酒を飲みましたが、テレビにうつる被災状況を見ると、飲んでいるのが後ろめたくなって、早々にきりあげました。

■原発クライシス

その後、福島第一原子力発電所の事故に驚愕しています。
司法修習生のころ、原発訴訟の勉強会に参加したことがあります。広河隆一さんを青年法律家協会38期修習生部会で読んで講演会を開きました。25年前ですから、スリーマイル事故後、チェルノブイリ事故前だったです。

当時から住民側が指摘してきたことが、今現実化しています。電力会社や国の主張では、日本では緊急冷却装置が機能しないことはありえない。関東大震災の10倍の地震に耐えることができると言っていました。

今になって、原子力の専門家が、「想定外だ」といい訳をしているのを聞いて、耳を疑います。ずっと以前から住民側が地震の津波や緊急冷却装置が働かなくなる危険を指摘しても、無視していたのは彼らですからね。「よく想定外なんて言うな」と彼らの厚顔無恥に驚くばかりです。

テレビの報道も、本当の危険を報じていないように思います。原発事故のレベルでは、既にレベル6になっているとフランスの原子力安全委員会とアメリカの民間研究所が指摘しています(チェルノブイリがレベル7,スリーマイルがレベル5、東海村臨界事故がレベル4)。

■最悪シナリオ

1号機、2号機、3号機は、燃料棒が損傷をしており、炉心溶融、炉心溶解、水蒸気爆発、放射性物質の大量放出の危険と紙一重です。

しかも、3号機はプルサーマルで燃料はプルトニウムです。ウラン以上に猛毒です。

4号機は、使用済み燃料が、再臨界して核分裂をする危険があります。同じ道を5号機、6号機がすすんでいます。

地上からは高濃度の放射能に阻まれ、作業はほとんど進められず、手の打ちようがないようです。

米軍や自衛隊の力で、なんとか水を注入するしかない。自衛隊のヘリによる注水は、自衛隊員が放射線で危険だからという理由(50ミリシーベルトという基準)で断念した。でも、今朝のニュースでは厚労省は基準をかえて民間労働者は緊急事態で250ミリシーベルトまで許容するように規則を変更したと報道していました。(自衛隊の基準のほうが厳しいんですね。これもどうかと思いますが・・・)

東電の福島事務所の所員の発表は率直のように思います。これと比較して、東電本社の狼狽ぶりや原子力保安院の無気力・無内容な発表ぶりは目を覆うばかりです。何よりも、現場の所員や作業員らは危険な中、被爆覚悟で、肉体的・精神的な極限のなかで必死にがんばっているのだと思います。

東京電力、消防署、米軍、自衛隊の作業により、上記の最悪の事態を防止することを祈るだけです。

■菅首相の発言に初めて(?)共感した

菅首相が、東電本社に乗り込んで、「覚悟を決めてもらう」「あなたたちしかいない」「逃げたら東電は100%つぶれるしかない」と、恫喝というか叱責したと報道されていました。これは素直に、国民の気持ちを代弁した発言だと思います。

とにかく、今いる首相や政府ががんばってもらうしかない。

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2011年3月 2日 (水)

読書日記「人権としてのディーセント・ワーク」西谷敏著

「人権としてのディーセト・ワーク」 働きがいのある人間らしい仕事

旬報社
2011年1月20日発行
2011年2月28日読了

大阪市立大学名誉教授の西谷敏先生から「人権としてのディーセント・ワーク」をいただきました。

■ディーセント・ワークって?
ディーセント・ワークは、ILOが掲げている目標であり、「すべての男性と女性が、自由、公正、して人間の尊厳の保障という条件が満たされたディーセントで生産的な仕事を得られるよう促進すること」と定義されています。ただ、ディーセントって、日本語的にはわかりにくい言葉です。

■権利としてのディーセント・ワーク
西谷先生は、ディーセント・ワークを「働きがいのある人間らしい仕事」として、これは単なる目標ではなく、日本においては憲法で保障される人権として把握すべきと立論されています。ディーセント・ワークの視点から、日本の法制度、労働の実態を鳥瞰図的に審査しつつ課題と問題点を網羅的に指摘されています。

西谷教授は、ディーセント・ワークの条件として次の三つを大項目をあげます。
(1)安定的雇用
    解雇制限など
(2)公正かつ適正な処遇
    最低生活の保障と均等待遇など
(3)人間らしい働き方
    労働時間と年休、安全・健康・快適な職場環境など

■年休取得の発想の転換
個人的に大変に勉強になった点の一つは年休取得率を向上するための改善策です。ドイツにならって、年休の完全取得を使用者に義務づけるという方法を提案されています。

使用者が法定年休日数のすべてを付与させる義務を負うこと明確にし、時期については労働者の希望を尊重して使用者が決定するというドイツのような制度が一つの案である。

そのためには病休制度を整備したり、自由年休と組み合わせるような工夫が必要だとも指摘されています。このくらいの発想の転換がないと、年休取得率は向上しないでしょうね。

■連帯と団結
また、労働組合の再構築について、連帯なき団結の問題を指摘されている点です。

組合員の結集する論理と思想が「団結」だとすれば、組合員の範囲を超えた労働者を視野に入れた理念は「連帯」である。… 日本の労働組合は、組合員の「団結」が強調されても、労働者全体を視野に入れた「連帯」の思想は定着しなかったのではないだろうか。

■ディーセント・ワークと正社員と多様な正社員

ちなみに、2011年2月14日、日弁連の非正規労働者に関するシンポに、西谷先生と濱口敬一郎さんがパネリストとして出席されていました。そこでの、ご両人の主張の対立点が興味深かったです。

現在の正社員の働き方が「異常」であるとの点は両者の共通の認識です。濱口さんは、正社員というノーマル(通常)労働者のアブノーマルな働き方という表現をされていました。

これを前提として、西谷先生は、<正社員の働き方をディーセントなものにすることが先ず必要>というスタンスです。これに対して、濱口さんは、<多様な正社員形態(ジョブ型正社員=職務限定の無期契約労働者=私の理解)をつくっていくべき>と強調されました。

西谷先生は、多様な正社員は「2級」正社員(解雇制限の緩和された正社員)を作り出し、現状の正社員の一部が「2級正社員」に「降格」されるのではないかという危惧を表明されていました。濱口さんは、非正規労働者をジョブ型正社員に持ち上げるという方策だと考えられておられるようでした。

この点、両者は平行線のままだったようです。厚労省で多様な正社員についての研究会も開始されたようです。この議論も注目どころです。

ただし、今の民主党政権では何らかの労働法政策が動き出すかのどうか、そもそも民主党政権がもつのかも含めて、透明になってしまいましたが・・・。

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