日の丸・君が代「予防訴訟」東京高裁判決
■東京高裁H23.1.28判決(都築裁判長)
東京地裁で東京都の君が代ピアノ伴奏命令、君が代起立斉唱命令が、思想良心の自由に反するとした判決が東京高裁で覆されました。内容は、ピアノ伴奏命令拒否事件最高裁判決のコピー判決です。
■憲法19条違反について
東京高裁は次のように判断しています。内容的には、要するにピアノ伴奏命令も、起立斉唱命令も、客観的に見て、教職員の思想良心の自由を侵害するものではないということの繰り返しです。
思うに、人の思想・良心は、外部的行為と密接な関係を有するものであり、思想・良心の核心部分を直接否定するような外部的行為を強制することは、その思想・良心の核心部分を否定することにほかならないから、憲法19条が保障する思想・良心の自由の侵害が問題になる。しかし、仮にその判断基準を主観的な理由に求めるならば、法による義務の否定になりかねず社会の秩序は保持できないから、その判断基準は客観的な理由に求められなければならない。すなわち、純粋に内心の自由のみならず、客観的な観点から内心の自由の核心部分と密接な関係があるとみるべき類型といえる外部的行為の強制は、憲法19条の問題となるというべきである。 これを本件についてみると、(君が代ピアノ伴奏命令、起立斉唱命令を)拒否するところ、それはまさに一つの選択であろうが、日の丸や君が代は国民主権、平和主義に反し天皇という特定個人又は国家神道の象徴を賛美するものであるという考え方が誤りである旨の発言等を強制するなど直接的にその歴史観等と不可分に結びつくものということはできないというべきである。
教職員は、外部的行為を何でもかんでも否定できるなどと主張しているわけではありません。起立斉唱はできないというのみです。これを教職員が思想良心の自由を根拠に何でも拒否するかのように描くこと自体が誤っています。例えば、教師が信仰の理由により、進化論を教えないということは許されないし、それは子どもの学習権の充足の面から、教師に進化論を教える義務は認められるし、それをあくまで教員が拒む場合にはやむを得ない制限として懲戒処分も許容されると思います。
■最高裁判所の結論は決まっているか?
君が代解雇訴訟、君が代再雇用拒否訴訟に続いて、予防訴訟の3訴訟がいよいよ最高裁に係属します。また、懲戒処分取消訴訟も3月10日に東京高裁で判決が予定されています。でも最高裁での結論はピアノ伴奏拒否命令事件で決まっているのでしょうか。私は、必ずしもそうは思いません。
■最高裁の傍聴者への注意の言葉
最高裁の法廷で、弁論や判決言い渡しの際に、傍聴ルールを廷吏が口頭で読み上げます。先日、ある最高裁事件で出頭したときに気がついたのですが、廷吏は、「携帯電話をきって下さい」などと注意するとともに、裁判官入廷の際の起立について次のように注意をしていました。
「裁判官が入廷する際には起立することが慣例になっていますので、起立くださるようお願いします。なお、起立に支障がある方はけっこうです。」
「起立に支障がある方」とは、「身体的に支障がある方」が含まれることは明白ですが、それに限るという文言にはなっていません。この手の注意は、裁判所で相当に練られて作られるのですから、起立について何か最高裁では議論されたことはありそうですね。
もっとも、だからって最高裁が国旗国歌起立斉唱を違憲とすることになるとは思いませんが。
■下級審判決の過剰迎合の修正
下級審判決が、最高裁判決の射程範囲を誤り、極端に最高裁判決に迎合しすぎた場合に、最高裁がこれを修正したケースはたくさんあります。古くは水害訴訟や、最近では労組法上の労働者性についても下級審判決の流れが修正されようとしています。
国旗国歌への尊重から、一足飛びに教職員への強制に直結することは論理の飛躍です。国旗国歌儀式の実施が許容されることと、これに反する思想良心や信仰を持つ者を懲戒処分することとは別問題です。しかも、一律に公権力がこれを強制することがそうやすやすと認められることは、憲法19条・20条の趣旨からみて異常なことです。
どうしても起立斉唱できない、ピアノ伴奏ができないという教職員に式への出席を義務付けて強制する必要性があるでしょうか。(退席の自由や、不起立・不斉唱の自由があって具体的支障が生じるでしょうか?)。このままでは、教職員だけでなく、生徒や保護者などの出席者に対しても起立斉唱が強制されることになります。現に東京都では事実上、強制される事態が生じています。
■自由権規約との関係
国連の人権規約との関係でも最高裁は慎重になるでしょう。自由権規約18条は思想良心の自由を保障しており、特に同条2項は、思想良心の自由を侵害するおそれも禁止しています。日本は自由権規約を批准しています。
民主党の2009年マニフェストには、この自由権規約に関連して個人通報制度を定めた選択議定書を批准すると公約しています。つまり、最高裁判決で思想良心の侵害を仮に認めなかった場合には、日本が選択議定書を批准すれば、国民が自由権規約委員会に日本国の人権侵害を通報することができます。
現に、自由権規約及び選択議定書を批准している韓国では、エホバの証人が徴兵制の拒否をして刑罰に処せられたケースで、個人通報がなされ、国連自由権規約委員会は、2007年に良心的兵役拒否制度を認めず、代替的役務制度を持つこともせずに、通報者を有罪としたことは、規約18条1項に違反すると判断しています。
国際人権先例には、国旗国歌に関する義務付けに関しての先例はないようですが、日本のケースが選択議定書が批准されれば通報されることは間違いありません。
国連自由権規約委員会がどのような判断をするか。米国連邦最高裁のバーネット判決のように、国旗国歌への起立斉唱を強制することは違憲だとする可能性は高いと思われます。(先進国の中では米国と日本だけが選択議定書を批准していませんが)。
もっとも、民主党政権がいつまで持つかということも気がかりですが。
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