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2011年1月10日 (月)

基礎データのチェックの重要性  JALの人件費は高いのか?

■マスコミや世論の「空気」に抗する

同調傾向の強い私たち日本人は、「みんながそう言っている」、「マスコミがそう言っている」からと「長いものに巻かれる」ことになりかねません。そんなとき基本的データを確認すると「空気」で物事を判断する傾向にブレーキをかけてくれます。

■日本では少年凶悪犯罪は増えているのか?

その手の有名な話しはマスコミや保守派が大騒ぎする「少年犯罪の増加と凶悪化」という「常識」です。少年犯罪の増加や凶悪化という「常識」は、統計的にはまったく事実に反しています。実際には日本の凶悪犯罪は減少しており、世界的に見て最も安全な国というデータあります。

少年人口1万人当たりの殺人は1960年に0.4人でピークを迎え、近年では0.1を切る年も珍しありません。強姦に至っては、4.1人/万人(1958年)から、0.2人/万人(2004年)とまさに激減しているのです。(飯田泰之著「ダメな議論ー論理思考で見抜く」ちくま新書)。

「いかがわしい漫画やアニメが横行するから少年犯罪が増加する」という東京都の立論は、データには根拠づけられていません。

■日航が「倒産」したのは人件費が高いからか?

これと同じ「常識」は、日航が倒産したのはパイロットや客室乗務員の人件費が高いからというものがあります。東京大学の醍醐聡教授によれば、次のように、1998年の時点でも海外他社との比較で見れば高くなく、アメリカ大手3社と比較すればはるかに低い水準にあったそうです。

JALの人件費(社外委託費を含む)が営業費用総額に占める割合は1991年度から98年度までの間に29.2%から25.3%へと、3.9%低下

同時期にアメリカの大手航空会社3社では営業費用に占める人件費の割合は、ユナイテッド航空は31~36%の間で漸減していましたが、アメリカン航空は33.3%(92年度)から37.7%へ、ノースウェスト航空は31.1%(94年度から)35.3%に増加し、…英国航空は30.9%から27.8%に、ドイツのルフトハンザ航空は28.8%から25.0%に減少していましたが、絶対額ではそれぞれ1.56倍、1.07倍と増加していました。

また、醍醐教授は、2008年度の航空会社の運航営業費の国際比較をされています。これによれば営業費用における人件費の比率は次のとおりだそうです。(2010年4月号「経済」)

日本航空 15.6%(社外委託費を除く)

アメリカン 25.9%

ユナイテッド 19.6%

デルタ 21.3%

英国航空 27.5%

私も、これは意外でした。

じゃあなぜ、JALが会社更生にまで至ったのか。醍醐教授は、ドル買い為替予約で2200億円もの損失を出した経営陣の失態(監査役の意見を無視した)。ホテルリゾートの事業の失敗。航空券販売システムの代理店コストなどが原因だと指摘されています。

どちらにしても、人件費が高いからJALが債務超過になった、会社更生に至ったという「常識」は誤りということになります。

マスコミの「空気」や「常識」を疑い、チェックすることは重要ですね。

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コメント

客室乗務員だった頃、「心ない乗客に、あんたたちの給料が高いから会社がダメになったんだよ」と何度か言われ、つらい思いをしてましたが、やはり、きちんとした情報を発信し、伝達して頂いくことがいかに大切か、よくわかりました。
本当に溜飲が下がりました。ありがとうございます。

投稿: ようちんママ | 2011年1月12日 (水) 12時22分

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