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2010年11月 9日 (火)

尖閣問題のDVD流出

■海上保安庁の衝突映像の流出

日本政府が、衝突映像の公表を控えたのは、中国船の乱暴な行為に、日本世論が反発を強めて、勾留から起訴すべきとの意見が強まり、政府が中国との事を荒立てることをひかえて解決するのにマイナスになるからだったのでしょう。

しかし、国民に情報を提供すべきなのは民主主義社会にとってが当然のことです。「国民の知る権利」の尊重ということです。日本政府は、本来は公表すべきだったでしょう。

■では公務員がDVDを公表して良いのか

とはいえ、公務員が捜査資料を勝手に公表してよいかどうかは別問題です。国家公務員は国公法100条1項は、「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。」と定めて、違反者には一年以下の懲役又は50万円以下の罰金をかしています。

この職務上知ることのできた秘密とは、「実質秘」とされており、「形式的な秘扱の指定をしただけでは足りず、右秘密とは、非公知の事項であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいう」と最高裁は判決しています(徴税虎の巻事件、外務省秘密漏洩事件判決など)。

この衝突ビデオですが、これは捜査情報であり、刑事事件の証拠にあたりますから、それが公務員の勝手で、捜査途中で公開されてしまえば、捜査や刑事裁判に支障をきたしますから、刑罰で保護に値する「実質秘」であることに間違いないでしょう。国会で上映されても、あくまで国会の中での公表しないものとしての上映ですから、公知にはなりません。

したがって、捜査情報である以上、これを公表することは国家公務員法100条1項の職務上知り得た秘密を漏らしたことにほかならない。

■不起訴処分が決まっている情報

しかし、本件の場合には、捜査情報とはいえ、中国人船長は処分保留で釈放され,国外退去している以上は、不起訴となることは100%間違いないわけです。とすると、DVDを公表しても、捜査や刑事裁判に実際上、支障を与えることはない。もはや、捜査資料として秘密として保護するに値すると認められないのではないかとの疑問もでそうです。

不起訴処分であれば、捜査情報は、第三者のプライバシー侵害をしない限り、それを知った公務員が自由に公表をして良いと考えるのはおかしな話です。捜査資料については、不起訴になった被疑者のプライバシーという利益もありますから、公務員の一人の恣意的な判断で公表すべきではないでしょう。やはり、実質秘にあたると考えるべきでしょう。

■違法性阻却

次の問題は違法性阻却にあたるか否かですが、国家行為の違法行為(この場合には、例えば海上保安庁が違法な逮捕行為をした場合など)を公にするという内部告発的な側面があれば、違法性阻却になる可能性もあります。

今回は、政府が映像を国民に秘密にしていることが「違法行為」と言えれば、違法性阻却の余地もありますが、この映像を公表するかどうかは、違法か適法かという問題でなく、政治的な判断(当・不当)の問題ですから、DVD公表が違法性阻却されて適法となるとは言い難いのではと思います。結局は、政府が政治的批判(最終的には選挙で)責任を問われるかどうかの問題です。

公務員が違法な行為をした証拠であれば、それが捜査情報であっても、公にしても秘密漏泄にはあたらないでしょう。例えば、村木厚労省局長事件で、大阪地検の検事が証拠ねつ造したいたことを、検察事務官や同僚検察官が、公表することは、違法性が阻却されて適法になると思われます。

■グーグルの捜索差し押さえ

グーグルに検察庁が令状により、捜索差し押さえしたとのこと。その投稿者だけの情報をピンポイントで押さえたのでしょうか。通信の秘密との関係では興味深い法律論が出てきそうです。

■ナショナリズムの危険なにおい。

中国と日本がナショナリズムの応酬で思わぬほど対立が拡大しているという感じです。

ちなみに、広州アジア大会で、サッカーU-21代表が中国に3-0での勝利。これは当然の勝利で驚くべきことではありません。しかし、私でさえ、勝利が常よりも、うれしいく、胸がすっとする気持ちに少しなりました。
・・・いかん。・・・だから、ナショナリズムは怖いです。

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コメント

ちょっと疑問なのですが、教えてください。公開を前提に作成した資料が、捜査上の証拠として採用された場合、いつまで秘密として扱われることになるんですか?
裁判中は出せないのであれば、最高裁判決が出るまで秘密とされるのですか?
逆に不起訴で終わったら、明示的に秘密解除されないまま、とか考えてしまうのですが。

投稿: ゆうすけ | 2010年11月16日 (火) 12時48分

刑事訴訟法は、第53条で「何人も、被告事件の終結後、訴訟記録を閲覧することができる。但し、訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるときは、この限りでない。」としています。

起訴をされて裁判が、確定すれば誰もが閲覧が可能となります。

不起訴になった検察記録がどうなるのかは知らないです。検察関連法規に保管のルールはあるのでしょうが、公表するルールはおそらくないでしょう。情報公開法でも、刑事裁判関係記録は除外しています。

ただ、国会の国政調査権の行使として公開を求めるという方法があるのではないでしょうかね。(国会法104条)

投稿: 水口 | 2010年11月20日 (土) 06時54分

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