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2010年11月25日 (木)

労使関係研究会の開始

厚労省の政策統括官付労政担当参事官室を事務方として、労使関係研究会が設けられました。

第1回労使関係法研究会の開催について

 経済社会の変化に伴い、集団的労使関係法上も新たな課題が生じてきており、労使関係の安定を図る観点から、
学識経験者による労使関係法研究会を開催し、今後の集団的労使関係のあり方について検討を行います。

 近年、労働者の働き方が多様化する中で、業務委託、独立事業者といった契約形態下にある者が増えており、
労働組合法上の労働者性の判断が困難な事例も見受けられます。最近では、これらの者の労働組合法上の労働者性について、中労委の命令と裁判所(下級審)の判決で異なる結論が示されたものもあります。

 このため、本研究会では、当面、労働組合法上の労働者性について検討を行い、報告書をとりまとめることを予定しています

詳細は下記のHPで表示されています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000w1rl.html


注目すべき動きですね。当面、労組法上の労働者性が課題ですが、労使委員会というものも視野に入ってくるのかもしれません。荒木教授や山川教授は、この手の研究会の常連ですが、またまたメンバーです。

要注目の研究会です。

新国立劇場、INAX、ビクターの三事件が最高裁に継続中ですが、あと1~2年以内に判決が出るというタイミングですが、その前に報告書がまとまるでしょうか。

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2010年11月21日 (日)

外国人実習生事件 労働弁護団賞

■労働弁護団総会(54回)

今年11月12日、13日、広島の宮島で日本労働弁護団総会が開催されました。特別講演は、名古屋大学の和田肇教授に、「労働契約と民法(債権法)改正」をテーマに講演していただきました。

■労働弁護団賞

労働弁護団賞というものがあり、労働事件を担当した弁護士に対して、労働者の権利確立に特段に寄与した活動を行った弁護士を表彰するものです。

今年は、JR不採用事件弁護団と外国人実習生事件弁護団(三和サービス事件弁護団、スキール事件弁護団)が対象となりました。

JR不採用事件では、国労不採用弁護団の石井将弁護士にスピーチしていただきました。また、外国人実習生事件では、若手の小野寺信勝弁護士に弁護団を代表してのスピーチをしてもらいました。

労働弁護団賞っていっても賞金が出るわけでもない表彰なのですが、対象となった弁護団のスピーチを聞いて、実は私はいつも感銘をうけています(労働弁護団総会の秀逸のイベントだと個人的には楽しみにしています。・・・表彰状を書くのが大変なのですが。・・・ちなみに「幹事長報告」なんかは誰も聞いていないのだと思いますが)。

■外国人実習生のおかれた過酷な状況

外国人研修生事件の小野寺信勝弁護士のスピーチには、現代の日本で外国人実習生が「女工哀史」のようなひどい取扱いを受けているということを知り、あらためて衝撃を受けました。同時に、多くの若手の弁護士が全国各地で奔走されていることを知り、感銘を受けました(近頃の若い奴は・・・ってオヤジ愚痴を言うのは辞めます。)

JITOの統計では、1992年から2009年までに241名が死亡、うち76名が脳・心臓疾患、24名が自殺とされています。
詳細は、熊本の小野寺信勝弁護士のブログを是非、ご参照下さい。

http://ononobu.exblog.jp/

小野寺信勝弁護士の担当された事件で、中国人実習生が9名が狭い部屋に閉じ込められ縫製業に従事させられていた。ネズミの糞が散乱し、テレビさえない部屋に閉じ込められていました(外出は、月1回の買い物のみ)。与える食事は、養豚場の豚の餌の飼料を与えられていたといいいます。パスポートもとりあげられ、救済を求めることもできません。この場所の写真も見せてもらいました。縫製業や農業など中小零細企業が、格安の労働力として使用しており、古典的な搾取と収奪です。奴隷的な強制労働といって良いと思います。

そのような労働条件の中で、上記のように、20歳~30歳代の若い外国人労働者が、241名も死亡し、うち76名が過労死、24名が自殺しているという事実は、私にとっては衝撃でした。

■外国人実習生救済のネットワークと弁護士

このような外国人実習生を救済するために全国各地にNPOがあり、それに協力する若い弁護士が全国(九州から北海道)で奔走し、全国のネットワークを作っていることを、遅ればせながら知りました。この活動は若手の弁護士を中心に発展しています。外国人実習生制度の抜本的な改善が実現するにちがいないと思います。

表彰状

 ↓
外国人実習生事件弁護団

「roubengaikokuzin.doc」をダウンロード


JR不採用事件

「roubbnJR.doc」をダウンロード

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2010年11月19日 (金)

軍隊は暴力装置って、なぜ問題発言?

■仙谷官房長発言のどこが不適切発言

自衛隊が「暴力装置」って、当たり前の話しですよね。警察、軍隊などはすべて暴力装置であって、「非暴力装置」だったら役に立ちません。

■暴力装置=暴力団?

それとも、「暴力」装置っていうと、「暴力団」を連想するからいけないのかね?

これって、完全に言葉狩りですね。社会学や政治学では、当たり前の術語だって、突っぱねれば良いのに。

■「暴力」を扱う組織だからこそ生まれる自制

また、自衛隊がまさに「暴力」を扱う組織だからこそ、その権力行使には慎重さと自制が求められるし、また自覚が生じるものだと思います。

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2010年11月14日 (日)

新司法試験 既習者 合格率7割

■新司法試験の累積合格率

二弁の紫水会30周年記念シンポにて、庭山正一郎弁護士(元日弁連副会長、元二弁会長)から、法曹養成制度につき問題提起がされました。その中で、新司法試験の合格率について、次のような庭山先生の分析結果が報告されました。

ロースクール生の新司法試験の合格率を、毎年の全体の合格率ではなく、既習者(2年コース)と未習者(3年コース)ごとに、累積合格率(3回受験の枠内での合格率)を見ると、既習者の第1期生(修了者2176名)の初年度合格率は46.36%でした。しかし、5年経過した1期生の5年間での合格者合計数(累積合格)は1518名で、累積合格率は69.76%になっています。2期生、3期生の既習者の累積合格率も、それぞれ64.21%、65.97%です。

1期既習者(修了者2176名)の合格者の推移

初年度合格者1009名、合格率46.36%
2年目合格者396名、累積合格1405名、累積合格率64.56%
3年目合格者99名、累積合格1504名、累積合格率69.11%
4年目合格者8名、累積合格1512名、累積合格率69.48%
5年目合格者6名、累積合格1518名、累積合格率69.76%

つまり、ロースクール制度のころ、「合格率7割」などとマスコミが取り上げていたのですが、既習者について見ると、この合格率は達成しているということになります。

ところが、未習者については、1期生(修了者2563名)の初年度合格率は、24.81%、累積合格率は39.01%となっています(累積合格者数は1717名)。2期生は27.81%、3期生はまだ初年度合格率で17.26%となっています。

未習者については、3年経過しても、1期生で39%しか合格しておらず、既習者と大きな格差があるとの結果になっています。そのため、法律事務所の就職難ともあいまって、社会人経験者や非法学部出身者のロースクール入学者が次のように減少しているとのことです。

2004年度
 志願者7万2800人、社会人経験者2792名(48%)、非法学部1998名(34%)

2010年度
 志願者2万4014人、社会人経験者933人(24%)、非法学部868名(21%)

ロースクール設置の目的である非法学部出身や社会人経験者などの多様経歴な人を多く法曹界に迎えるという目的は十分うまくいっていないということです。

■とはいえ7割合格率

法学部出身者はロースクールに入学すれば、合格者数が2000名程度にとどまっていても、約7割が新司法試験に合格できるということになります。

しかも、未習者コースでさえ3割程度が合格します。もっとも、未習者コースにも、法学部出身者が数多くいるのが実態ですから、非法学部出身者の合格率がどうなのかは不明ですが。

旧司法試験だと、短答式試験合格者の最終合格率は約15%程度だったと思います。ロースクール合格者は昔の短答試験合格程度だと考えるべきですから、これと比較すれば司法試験は、ずいぶん合格しやすい試験になっています。

新司法試験の合格水準は高くないと言われていますから、法学部出身の若者にとっては、ロースクールに入る学力と(親の)資力がありさえすれば、法律家になるのは極めて容易ということになります。合格率上位の法科大学院では、90%以上の累積合格率ではないでしょうかね。(これでも合格できなければ法律家に向いていないということです。)

とすると、法科大学院制度は、既習者コースに限って見れば、一応、初期の合格率の目標は達成していることになります。ただし、非法学部出身の多様な人材を法曹界に注入するという目的は十分に成功していないということになります。

■庭山構想

そこで、庭山弁護士は、法科大学院はすべて3年コースにして、大学3年から入学できる制度にかえるというアイデアを出されていました。法学部生で法曹を目指す人は2年のときに法科大学院を受験して、3年から法科大学院に入る。非法学部の学生も、法曹になりたい人は法科大学院に入れる。そうすると、法学部出身者と非法学部出身者でそれほど法学の格差はつかない。他学部出身者は、大学4年後に法律家になりたいと思う人が、法科大学院に入る。そこにいる法学部生は、2年までしか法学部に入っていないから、それほど法律の勉強が進んでいない。そこで、スタートラインが近くなっており、未習者ももっと多く合格するというわけです。また、法学部2年から進んだ者も年齢的にまだ若いからロースクールを出ても企業などの組織に入る可能性も広がる。

なるほど魅力的な案です。問題は文科省を説得できるかどうかですが。

■新司法試験の合格水準

シンポでは、この点も議論となっていましたが、採点基準を過去に比べて緩やかにしても、現在は2000名程度しか合格水準に達する人がいないという意見が多数でした。これより緩和すれば、最低限の学力のない者が法律家になるという意見が多いようです。これが教官経験者や試験委員経験者の実感のようです。

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2010年11月 9日 (火)

尖閣問題のDVD流出

■海上保安庁の衝突映像の流出

日本政府が、衝突映像の公表を控えたのは、中国船の乱暴な行為に、日本世論が反発を強めて、勾留から起訴すべきとの意見が強まり、政府が中国との事を荒立てることをひかえて解決するのにマイナスになるからだったのでしょう。

しかし、国民に情報を提供すべきなのは民主主義社会にとってが当然のことです。「国民の知る権利」の尊重ということです。日本政府は、本来は公表すべきだったでしょう。

■では公務員がDVDを公表して良いのか

とはいえ、公務員が捜査資料を勝手に公表してよいかどうかは別問題です。国家公務員は国公法100条1項は、「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。」と定めて、違反者には一年以下の懲役又は50万円以下の罰金をかしています。

この職務上知ることのできた秘密とは、「実質秘」とされており、「形式的な秘扱の指定をしただけでは足りず、右秘密とは、非公知の事項であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいう」と最高裁は判決しています(徴税虎の巻事件、外務省秘密漏洩事件判決など)。

この衝突ビデオですが、これは捜査情報であり、刑事事件の証拠にあたりますから、それが公務員の勝手で、捜査途中で公開されてしまえば、捜査や刑事裁判に支障をきたしますから、刑罰で保護に値する「実質秘」であることに間違いないでしょう。国会で上映されても、あくまで国会の中での公表しないものとしての上映ですから、公知にはなりません。

したがって、捜査情報である以上、これを公表することは国家公務員法100条1項の職務上知り得た秘密を漏らしたことにほかならない。

■不起訴処分が決まっている情報

しかし、本件の場合には、捜査情報とはいえ、中国人船長は処分保留で釈放され,国外退去している以上は、不起訴となることは100%間違いないわけです。とすると、DVDを公表しても、捜査や刑事裁判に実際上、支障を与えることはない。もはや、捜査資料として秘密として保護するに値すると認められないのではないかとの疑問もでそうです。

不起訴処分であれば、捜査情報は、第三者のプライバシー侵害をしない限り、それを知った公務員が自由に公表をして良いと考えるのはおかしな話です。捜査資料については、不起訴になった被疑者のプライバシーという利益もありますから、公務員の一人の恣意的な判断で公表すべきではないでしょう。やはり、実質秘にあたると考えるべきでしょう。

■違法性阻却

次の問題は違法性阻却にあたるか否かですが、国家行為の違法行為(この場合には、例えば海上保安庁が違法な逮捕行為をした場合など)を公にするという内部告発的な側面があれば、違法性阻却になる可能性もあります。

今回は、政府が映像を国民に秘密にしていることが「違法行為」と言えれば、違法性阻却の余地もありますが、この映像を公表するかどうかは、違法か適法かという問題でなく、政治的な判断(当・不当)の問題ですから、DVD公表が違法性阻却されて適法となるとは言い難いのではと思います。結局は、政府が政治的批判(最終的には選挙で)責任を問われるかどうかの問題です。

公務員が違法な行為をした証拠であれば、それが捜査情報であっても、公にしても秘密漏泄にはあたらないでしょう。例えば、村木厚労省局長事件で、大阪地検の検事が証拠ねつ造したいたことを、検察事務官や同僚検察官が、公表することは、違法性が阻却されて適法になると思われます。

■グーグルの捜索差し押さえ

グーグルに検察庁が令状により、捜索差し押さえしたとのこと。その投稿者だけの情報をピンポイントで押さえたのでしょうか。通信の秘密との関係では興味深い法律論が出てきそうです。

■ナショナリズムの危険なにおい。

中国と日本がナショナリズムの応酬で思わぬほど対立が拡大しているという感じです。

ちなみに、広州アジア大会で、サッカーU-21代表が中国に3-0での勝利。これは当然の勝利で驚くべきことではありません。しかし、私でさえ、勝利が常よりも、うれしいく、胸がすっとする気持ちに少しなりました。
・・・いかん。・・・だから、ナショナリズムは怖いです。

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2010年11月 7日 (日)

裁判所と司法修習生給費制(2)

■なぜ最高裁は司法修習生給費制維持に反対するのか。

最高裁が、司法修習生給費制の維持について、日弁連に敵対的に反対論陣をはった理由について、ある人は、貸与制免除制度をつくって、ローファームにいく、「優秀な修習生ないしロースクール生」をつなぎとめるという計画があるという意見があります。

http://blog.goo.ne.jp/henahena007/e/3344475e49775fddb0a27f3a36f04090

私は、それは違うと思います。300万円程度の貸与免除では、そもそも裁判所とビジネスロイヤーとは勝負になりません。

その程度で、裁判官になるか、ビジネスロイヤーになるかって、悩むなんて余りに侘びしいですなあ。
いくらなんでも、法曹界はそこまでひどくないのでは?

裁判官になる連中は少なくとももっと志が高いのではなないでしょうか。少なくとも、ビジネスロイヤーとしては、300万円どころかもっと稼ぐという志が高いことは間違いないとおもいます。(5年たてば、所得では10倍はらくちんでしょう。売り上げじゃないですよ。)

■任官志望者は多い。

今の経済情勢から言えば、裁判官志望者は減っていません。75人クラスで1人くらいしか裁判官になれませんから、狭き門です。最高裁は、へんな人は任官させたくないでしょうから、門戸を広げるつもりはありません。300万円くらいで勧誘しよう(でjきる)なんて思っていないでしょうね。

■でも、そもそも任官志望者や、ローファームの弁護士が優秀なの?

(町弁、ロー弁の下々のひが目からだけど)

そもそも、任官志望者やローファーム入所者が「優秀」であるということを疑いもなく前提とするのがおかしいでしょう。彼らは、確かに「優秀」です。東大出身者を筆頭として、「受験秀才」として、とびきり「優秀」でしょう。

まあ、ローファームに入る若手弁護士は知りませんが、主要事務所にパートナーに残る連中の傾向いうか、ノリというものは、私たちのような「労弁」と余り変わりない感性を感じます。人物が問われるというか。裁判所の中枢にも共通しますが、曰く言い難い、旧い世代共通の感性を感じます。

法律知識や実務経験はもちろんですが、熱意というか、情熱というか、人柄というか、思想というか、リーダー気質というか、つまり依頼者その他への説得力(コミュニケーション能力)という観点からは、左右の指向性全然別でも、共通性があるなあと・・・。

■しかし、法律実務家なら受験秀才の限界はみな知っているでしょう

法律実務家なら、ご承知のとおり、受験秀才だけな人物ほど、役に立たない人種はいないです。
もちろん、受験秀才で、かつ法律実務家として卓越した才能を発揮する人はいます。

でも。逆はまた真ならず。

■最高裁も品がないよね。

最高裁は給費制が維持されれば、司法予算獲得にマイナス要素になると考えて、品もなく反対質問書を出したのでしょうね。

これが民主党政権に対する最高裁の評価と見るべなのです。つまり、司法予算を増額する力も思想も、民主党にはないと最高裁が見ているということなのです。

そんなことを、最高裁が日弁連の質問書に出すなんて、品がないよね。

まあ、受験秀才の牙城のようなところですからね、最高裁事務総局は・・・、

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2010年11月 5日 (金)

裁判所と司法修習給費制

■最高裁はなぜあそこまで日弁連の給費制維持に反対したのか。

唯一考えられるのは、修習生の給費制を維持されれば、裁判所の給費制が財務官僚によって削減されるということです。この理由以外考えられません。民主党では、給費制を維持しても、司法予算を維持増額することにはならないと見切られたということです。つまり、民主党の法制部門会議の力がない、財務部門会議の力のほうが強い、いや、財務省の力が強い(ギリシャのように国家破産すると大騒ぎした馬鹿総理をみてそう思ったのでしょう)。

この司法予算が本当の理由だと思います。最高裁事務総局の、天敵は、日弁連ではなく、財務省と与党政治家です(日弁連なんか眼中にないです)。裁判員裁判や労働審判の予算を裁判所が獲得するのに、財務省の官僚を模擬裁判の傍聴につれてきたって苦労話しを複数の方々から聞いたものです。(だから東大卒ネットワークは貴重なのでしょう。)

■青山某教授のおかしさ、

青山某教授が、「3000人合格が先決」「司法改革と3000人合格は三位一体」と言っていますが、まったくの誤りです。

まず、日弁連が反対しているから、3000人合格が実現しないのではありません。

ロースクール出身で、合格水準に達する者が少ないということです。せいぜい下駄を履かせても2000人程度しかいないというのが法曹界の定説です。したがって、青山教授の3000人合格を達成しろというのは、合格水準の卒業生を出せないロースクールにこそ向けられる批判であって、日弁連に向けられるのは筋違いというものです。

しかも、司法試験合格者の人数を決めているのは司法試験委員会であり、委員会には日弁連は全く影響力はありません。司法試験委員会は、完全に成績ベース(答案の出来不出来)で判断をしています。弁護士にとって裁判(ー刑事事件以外)は起案能力は必須(訴訟の勝敗に直結する)です。裁判官は民事刑事すべてに起案能力は必須です(上訴審があるから)。

また、給費制維持の有無が法曹人口の問題とからめて議論されるのはおかしな話です。

法曹人口増加を阻止したいから、給費制を維持する要求を日弁連はしているというのは全く誤解です(宇都宮会長の発言が、そのような誤解を招いているのでしょうか)。それとこれは切り離して考えるべきです。

■給費制維持の論拠

私は、司法修習生給費制維持の唯一の論拠は、経済的にめぐまれない階層(階級)の出身者が法律家になる道を狭められることは不合理だ、という点だと考えています。

給費制があるから、人権擁護をするとか、公益活動をするとかというのは自らを貶めることでしかないと思いますし、実態にも反しています。もっと人間の思想的というか、人間的なものであり、国からもらう金のことではありえまえん。

(追加)給費制があるから、人権擁護活動するとか公益活動する、借金が多くなれば弱者相手の実入りの悪い仕事は市内と発言する修習生の声を聞いたことがありますが、こういう発言をする人は、給費制が維持されようとされまいと、実入りの悪い仕事はしないものです。

■とすれば

日弁連が最低限獲得すべきは、貧困階層が法律家になるための障害をできるだけ取り除くということです。

今後は、給費制の維持か廃止かのオール・オア・ナッシングではなく、最低限、貧困階層出身者の負担を軽減する免除制度を早期に確立する道筋をつけることを望みます。

そうでないと、苦労しらずのお坊ちゃんやお嬢ちゃんばかりの法曹界になります。まっ、今でもそうだけど。

心配なのは、弁護士よりも、裁判官たちですね。裁判官になる社会的階層が偏ることは全国民の損失ですよね。弁護士なんて、まだ競争で切磋琢磨されるけど、裁判官の世界は競争はないですし(最高裁事務総局の人事管理しかありません)。

ロースクール卒業時点で、例えば200万円以上の債務を負っている者については、貸与金の返還を免除するという制度は、最低限、実現してほしいものです。この点は、自民党から共産党、そして、生き残りをはかる泡沫ロースクールまで一致するところでしょう。

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2010年11月 4日 (木)

読書日記「デフレの正体」藻谷浩介著 角川ONEテーマ21

読書日記「デフレの正体」-経済は「人口の波」で動く-藻谷浩介著

2010年6月10日発行
2010年11月2日読了

■国際経済競争の勝者・日本
GDPは、とうとう日本は中国に抜かれ今年、世界第3位になりそう。日本の国際競争力は凋落してきたものと漠然と思い込んでいました。

ところが、この著書では、日本はあいかわらず国際競争の勝者という事実がデータをもとに明らかにされています。

日本の貿易黒字01年に8兆円だったのが、資源高がピークに達した07年には12兆円ですから、今世紀頭の7年間に5割も増えたのです。 ちなみに世界同時不況になった08年には4兆円に急落しましたが、「21世紀に入った頃から減少基調」なのではありません。むすろ日本の貿易黒字は、中国の台頭と資源の著しい高騰にもかかわらず年々増加傾向にあったし、世界の景気が良くなればまた回復するのです。事実日本の輸出は09年1月を底に再び伸び始め、貿易黒字もまた拡大基調に戻っています。

対中国貿易も黒字

多くの方が、日中貿易は日本の赤字だと決めつけています。ところが08年の日中の貿易収支は、日本が2.6兆円の黒字でした。…この数字は、対中国と対香港の合計です。

対中国だけでは赤字だが、対香港を加えると大幅な黒字になり、中国が栄えると日本の貿易収支は黒字になるという関係にあるそうです。、

しかも、韓国、台湾との関係でも、

韓国、台湾からも、07年、08年と続けてそれぞれ3兆円前後の貿易黒字をいただいているのです。

おまけに日本は債権大国として外国から金利を稼いでいると言います。

外国から稼ぐ金利配当が、外国に支払う金利配当を超えた分を所得黒字といいます。この所得黒字はバブルの頃は3兆円程度でした。それが07年には16.3兆円と5倍以上に増えたのです。

こんなに外国から稼いだお金はどこにいったのでしょうね。

■日本経済の病気は「内需の縮小」

著者は、今の日本の現状は、「国際競争に負けた結果ではありません。国際競争にいくら勝っても、それとはまったく無関係に進む日本経済の病気、『内需の縮小』の結果です。」と言います。この「内需の縮小」の最大の原因は、生産年齢人口(15歳から64歳)の減少による消費の縮小と結論づけます。

確かに統計で見ると、生産年齢人口は1995年に約8700万人をピークに、2008年に約8200万人と500万人も減少しています。また、統計局の労働力調査で見ると、15~64歳の就業者人口は、1997年で約6100万人だったのが、2010年で5700万人まで減少をしています。

今後の推計では、つるべ落としのように、どんどん生産年齢人口が減少し、2020年で約7300万人、2030年で約6700万人と予想されています(国立社会保障・人口問題研究所のHP)。

そこで、著者は、日本経済を良くするための目標として次のことをあげます。

個人消費が生産年齢人口減少によって下ぶれしてしまい、企業業績が悪化してさらに勤労者の所得が減って個人消費が減るという悪循環を何とか断ち切ろう。
 ① 生産年齢人口が減るペースを少しでも弱めよう。
 ② 生産年齢人口に該当する世代の個人所得の総額を維持し増やそう。
 ③ (生産年齢人口+高齢者による)個人消費の総額を維持し増やそう。

労働生産性をあげるとして「人員削減」や「解雇の規制緩和」をしても、「内需の減少」をさらに後押しするだけのようです。

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