有期労働契約研究会報告書の気になる点 解雇規制緩和
■多様な正社員と解雇規制
有期労働契約研究会の報告書につぎのような一節があります(24頁)。
無期労働契約への転換により雇用の安定を図りつつ、「勤務地限定」、「職種限定」の無期労働契約など、多様な雇用モデルを労使が選択し得るようにすることも視野に入れた環境整備を検討することが求められる。この場合、勤務地限定等の無期労働契約については、勤務場所の閉鎖等の際の雇用保障の在り方について、その契約の下で働く労働者の職務内容や勤務地等の制約の度合いに応じ、どこまで雇用が保障されるのか等について、様々な意見がある。何よりもまず、労使間での自主的な問題解決が図られるよう、契約内容についてあらかじめ明確に合意しておくことが必要であるが、これらのルールの在り方については、労使の自主的な取組、実例や裁判例の集積の状況も注視しつつ、検討が必要である。
■多様な正社員の解雇規制緩和?
報告書は、有期労働契約の濫用を防止し、公正かつ適切な活用を打ち出しています。その基調は、正社員と有期契約労働者との中間に、「勤務地限定正社員」とか「短時間正社員」という中間的なカテゴリーをもうけて、有期契約労働者のうちの一定部分(恒常的業務従事者など)を、この中間的な正社員として、無期労働契約とするというものです。
ところが、「ぴかぴかの正社員」とは別に、勤務地や職種を限定したり短時間労働の無期契約労働者(第2正社員?)を位置づけて、整理解雇の法理についての要件を緩和する方向性を示唆しています。
■現在でもある多様な正社員
本田一郎しの「主婦パート 最大の非正規雇用」(集英社文庫)によれば、現在も多様な正社員制度が導入されています。
現在は、このような地域限定や職種限定であったとしても、適用される解雇ルール(整理解雇法理)は同一です。ただし、解雇回避努力や人選基準などの適用の際に、職種限定や地域限定の要素が考慮されることはあるでしょう。でも、地域限定労働者だから、職種限定労働者だから、解雇回避努力をしなくて良いということはならない。事業所廃止の場合にも、地域限定社員に対しても他事業所への配転の機会をまったく与えない場合には解雇回避努力を尽くしていないとなります。
■経営側への配慮か
経営側は、有期労働契約の法規制をするなら、解雇規制の緩和が絶対必要というスタンスです。報告書は、これを見こして、第2正社員というべき労働者に対する整理解雇法理の緩和を用意するというサインのようです。
■立法的に区別することの困難さ
しかし、整理解雇法理の立法化さえされていない現状で、法律によって上記の整理をすることは極めて困難でしょう。しかも、第2正社員には整理解雇は緩和されるということは法文に書きようがありません。
とすると、おそらく、有期労働者の大臣告示のような行政通達などの、いわゆる「ソフト・ロー」の活用を考えているのでしょう。
このような告示は、最終的には整理解雇の告示を目指すのでしょうか。経営者側の要望を考慮して、解雇権濫用法理は維持しつつ、整理解雇を緩和するという方向の流れが強まりつつあるようです。
■第2正社員の受け皿は
また、報告書は、有期契約労働者が第2正社員になるということを想定しているのでしょうが、「ぴかぴかの正社員」を、「第2正社員」にしようとする使用者も出てくること(副作用・濫用事例)への対応も念頭におくべきでしょう。
■正社員化よりも、先ず無期化
とはいえ、多様な正社員。幹部候補生的な正社員(職務職能給や成果主義賃金)と別に、地域限定正社員や、職務限定正社員、短時間正社員(皆、職務給でしょう)をもうけて、無期契約労働者を増やすことには賛成です。
そこから雇用平等も、雇用改善も、労働組合への組織化もはじまると思います。
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コメント
夜分に失礼します。
働きはじめて2日目で経済不振が理由で契約条件の変更命じられて、それが無理なら自主的に退職するしかないと言われてしまいました。
普通ならこうゆう事は1ヶ月前に言ってくれないといけないんでは?と問いただしましたがしょうがない処置と言われました。
解雇でばないから本当にしょうがないんでしょうか?
投稿: 五十嵐 | 2010年11月26日 (金) 15時30分
私は、メールでの相談には原則のっていません。(時間がないのと、間違える危険性が高いからです)
ただ、ご相談の件ですが、無期労働契約か、有期労働契約によってアドバイスがだいぶちがってきます。
有期労働契約の中途での契約変更は、原則として許されません。それを拒んだ場合に解雇というのは労契法17条に反する可能性があります。
無期労働契約の場合には、就業規則などで配転等の労働条件の変更は、業務上の必要性や合理性があれば緩やかに認められる傾向があり、これを拒むと業務命令違反により解雇される危険があります。
働き始めて2日後の出来事ということで、試用期間の問題もでてきているかもしれませんね。
どちらにしても、弁護士や行政機関に相談されるのが良いと思います。
無料の電話相談は労働弁護団のホットラインがあります。
木曜日の15:00~18:00
http://roudou-bengodan.org/hotline/hotline.php
また、今週土曜日には全国の一斉電話相談を行いますので、電話で弁護士に相談をしてみたらどうでしょうか。
http://roudou-bengodan.org/hotline/detail/20091201_200912.php
投稿: 水口 | 2010年12月 1日 (水) 10時00分