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2010年7月28日 (水)

労働法と債権法改正(その9) 使用者の地位の移転

■法務省の検討事項から

債務引き受けと使用者の地位の移転に関して、法制審議会部会にて、検討事項(詳細版)(部会資料9-2.71頁)に次のような考え方が紹介されていました。

「特定の財産の譲渡に伴い移転する場合には、その移転すべき契約は相手方の人的要素でなく、対象財産に着目して締結されたものと考えられ」、「この場合には契約の相手方の承諾が不要である」とし、「賃貸不動産の譲渡に伴う賃貸人たる地位のほか、事業譲渡に伴う労働契約の使用者たる地位の移転」を承諾不要とする

■使用者の地位の移転には労働者の承諾が必要

 使用者の地位の移転については、現行法では、判例・通説ともに労働者の承諾が必要と解釈しています。現行民法625条1項は、「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。」と定めているからです。これは労働契約の人的な契約関係から見て当然のこととされている。

 基本方針も【3.2.12.03】(労務給付請求権の譲渡性・NBL389頁)で、「①使用者は労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。」としています。

■労働契約承継法

 会社分割(平成12年商法改正、平成17年会社法改正)では、適法な手続きを経れば、労働者の同意を得ることなく承継会社への労働契約の承継が認められています。しかし、この場合でも改正商法附則5条1項にて労働者との個別協議が義務づけられるとともに、労働契約承継法によって、承継事業に主として従事しない労働者(従たる労働者)には承継についての異議申立権が認められています(同法5条)。
 このように会社分割の場合でさえ、従たる労働者に分割先への会社への承継拒否(異議申立権)が付与されていることから見ても、事業譲渡に伴う場合の使用者の契約上の地位に移転につき労働者の承諾が不要とする立法を行うことはバランスを失します。

■あまりに無造作・無頓着

安易に事業譲渡にともなう使用者の地位の移転(労働契約の承継)について、労働者承諾不要とするのは、あまりに無造作というか、無頓着にすぎるのではないでしょうかね。

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2010年7月19日 (月)

労働審判5年目シンポ7月24日(土)

■労働審判5年目シンポジウム

2006(平成18)年4月に労働審判制度が施行されました。年間申立件数は、2009年では3468件に達しました。労働審判制度の成果と実績を踏まえて、今後の課題を議論するシンポジウムを日弁連が主催します。【入場無料・事前申込不要】

http://www.nichibenren.or.jp/ja/event/100724.html

7月24日(土) 午後1:00~5:00 弁護士会館クレオ 霞ヶ関駅

個別労働紛争の本訴・仮処分・労働審判の新受件数(全国)

  訴訟 仮処分 労働審判 合計
平成16年 2480 652   3132
平成17年 2410 619   3029
平成18年 1983 466 877 3326
平成19年 2176 388 1494 4058
平成20年 2359 404 2052 4815
平成21年 3125 655 3468 7248

シンポジウムの出席者は次のとおりです。

基調報告を東京地裁判事の早田尚貴氏がこの間の実績と課題を、私が日弁連の労働審判利用者アンケート結果と各地の運用状況を踏まえた今後の課題を報告します。

パネリストには次の5名が参加されます。

東京地裁労働部の渡辺弘判事
労使からの審判員の各1名
使用者側の石﨑信憲弁護士
労働者側の鵜飼良昭弁護士

コーディネーターは、菅野和夫東大名誉教授(中労委会長)

■利用者アンケートの結果

日弁連が利用者アンケートとして、当事者及び代理人に労働審判についてのアンケートを実施しました。回収した数は少ないため(本人71人、代理人219人)に、統計的な数値としては余り意義はないと思われますが、興味深い結果も出ています。私が注目したのは次の2点です。

(1)労働審判制度の前に利用した手続として、労働行政の紛争解決手続(労働局、労基署、労働委員会等)が多かったという点です。

(2)、当事者は労働審判制度の判定的機能への期待が高いという結果が出た点です。

詳細は、7月24日に報告したいと思いますので、興味ある方は是非、シンポにご参加下さい。

■労働局個別労働紛争あっせん手続と労働審判

6月にJILPTから、「個別労働関係紛争処理事案の内容分析」(労働政策研究報告書№123)を送付していただきました。この内容も大変に興味深く読ませてもらいました。特に、雇用終了事案の分析は詳細で、かつ実態に即したもので、大変に参考になります。

この労働局紛争あっせん処理で解決できなかったケース(あっせんで合意成立したケースは約3分の1)を、どう労働審判の司法手続に橋渡しするかも重要な課題だと思います。労働審判ができないので労働局の個別紛争あっせん手続をする当事者も、そこで解決しない場合には、労働審判に申し立てることを検討します。そして、現に、労働審判の利用者に、そのような人が多い。

ネックになるのは、代理人として弁護士をつける点です(弁護士探しと弁護士費用)。

■労働審判手続と弁護士代理人

この点については次の3つの論点(課題)があると思います。

(1)労働審判手続は、弁護士をつけることを原則とする手続とするのか、本人申立でも利用できる制度とするのか。

(2)弁護士費用負担をどう軽減するか。

(3)労働審判手続を習熟した弁護士をどう育てるか。

(1)の問題は、理念(建前)としては、弁護士がつかなくても利用できる制度であるべきでしょう。しかし、3回以内手続で解決するためには、予想される争点を明示して説得的かつ論理的な申立書を書かなければならないし、労働法の知識も必要です。使用者側がほとんどが弁護士をつけているので、労働審判でのやりとりを考えると労働者の本人申立は一般論としては労働者に不利です。

とすれば、(2)の弁護士を求める労働者にできるだけ負担を少なくして、弁護士を依頼する手続をもうける道を充実させなければなりません。その点で、法テラスが受け皿の一つでしょう。弁護士会には労働審判弁護士斡旋制度が作られているところもあり、そこから弁護士に紹介し、法テラスを利用するという方法があります。

これとは別に、最近は神奈川などで、労働審判や労働訴訟を申し立てる労働者に基金を貸し付ける基金がスタートしたことを聞きました。この貸付は、弁護士を通して申し込み、労働弁護士に貸付けて、勝訴すれば回収するとう仕組みだそうです。

この神奈川の基金は、労働組合員に限らないというのが特色です。組合員であれば、労働弁護士を紹介し、費用も貸し付けるという労組は珍しくないですが、非組合員をも対象とする制度は今までなかったと思います。この基金の場合も当然、審査がありますが、労組と労働弁護士が審査をしますので、労働事件に習熟した弁護士か否かは分かります。

(3)最後に、労働法に習熟した弁護士をどう育てるかという問題ですが、弁護士は専門的自営業ですから、最後は各人の努力ということですから、私も勉強を続けるしかありません。

ただ、労働弁護士は多くは共同事務所に(最初は)所属していることが多いので各法律事務所の中でのOJTがあります(準備書面の添削や証人尋問の実施)。また、各地の労働弁護団の事例検討会や研修会がありますので、事務所を超えた検討を行います。

このように複数の弁護士で労働事件を検討・担当していくなかで、知識と経験を蓄積していくということです。どの法分野でもこの点は変わらないとは思いますが。

(あと実は、弁護団会議や労組との打ち合わせの後の飲み会こそ「奥義」や「奥の手」が語られる・・・。もっとも最近の若手は呑まなくなりましたので、この手の昔ながらの「伝授の場」は少なくなりつつあります。)

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2010年7月12日 (月)

日本IBM会社分割事件最高裁判決H22.7.12

■最高裁平成22年7月12日第二小法廷判決

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100712111131.pdf

日経記事は次のように報道していました。

会社分割巡る従業員転籍、事前協議なければ無効 最高裁
http://www.nikkei.com/tech/news/article/g=96958A9C93819695E3E0E2E3918DE3E0E2E5E0E2E3E29180E2E2E2E2;da=96958A88889DE2E0E2E5EAE5E5E2E3E7E3E0E0E2E2EBE2E2E2E2E2E2

 会社分割で新会社に転籍することになった日本IBMの従業員が、同社に転籍の無効の確認などを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(千葉勝美裁判長)は12日、「会社が分割に関して従業員との協議や説明をまったく行わなかった場合には、転籍は無効となる」との初判断を示した。

■事案の概要

簡単に言えば、日本IBMが不採算部門であるハードディスク事業を会社分割(新設分割)して、新会社(ST社)を設立し、ハードディスク事業に所属した労働者を全て新会社に承継させた事件である。新会社になれば、日立製作所グループと統合され、賃金等の労働条件が切り下げられることが予想され、また、不採算部門であるから新会社の将来は不安定と思わざる得ません。IBMの労働者の賃金は30%切り下げられるだろうと会社幹部が発言をして、労働者は不安におちいっていました。

■労働者の主張

労働者は、会社分割による労働契約承継に異議を唱え、労働組合(JMIU日本IBM支部)に加入して、分割される新会社の経営状況、労働条件の維持・保障等について個別協議をしました。ところが、会社は、会社分割後の新会社の経営状況については回答できないとしてきました。

労働組合は、会社分割前に分割先である日立製作所に対して、経営状況・労働条件について団体交渉を申し入れましたが、日立側はまだ労働契約が発生していないとして団体交渉を拒んだのです(神奈川労働委員会に救済申し立てをした)。そして、会社分割が実行され、労働者は新会社に労働契約が承継されてしまいました。

■提訴

そこで、労働者は、日本IBMに対して、地位確認と損害賠償を請求する訴訟を提起しました。労働者側の主張は次の二点。
(A)労働者は会社分割無効の訴えによることなく、商法附則5条個別協議及び労働契約承継法7条の協議義務に反した場合には労働契約承継の無効を訴えることができる。
(B)労働者は、職業選択の自由の一環として、また契約の自由の一つとして、「使用者選択の自由」を有しており、労働契約承継を拒否する権利(承継拒否権)を有する。と

■争点

争点は次の3点となりました。
①会社分割無効の訴えによらず労働者は労働契約承継の有効性を争えるか。②労働契約承継を無効とする事由はどのような場合か。③労働者に承継拒否権があるか。

■第1審判決

第1審(横浜地裁)は、①は認めましたが、②については、「会社分割の無効事由が認められない限り、会社分割の効果である労働契約の包括承継自体を争う方法なはい」として、商法附則5条協議、あるいは労働契約承継法7条措置を「全く行わなかった場合又は実質的にこれと同視し得る場合」には労働契約承継が無効となるとしました。そして、この協議は行われているとしました。③については、使用者選択の自由については、労働者は、退職するという選択肢があるから、使用者選択の自由を制約しているとは言えないと判断しました。

■控訴審判決

控訴審(東京高裁)は、②の無効事由としては、「5条協議を全く行わなかった場合もしくは実質的にこれと同視し得る場合、または、5条協議の態様、内容がこれを義務づけた趣旨を没却するものであり、そのため、当該労働者が会社分割より通常生じると想定される事態がもたらす可能性のある不利益を超える著しい不利益を被ることとなる場合に限って」、労働契約承継の効果を争うことができると判示しました。その上で、IBMは、労働者と実質的に協議を行っているとして控訴棄却でした。

■最高裁判決

最高裁は、上告受理申立理由のうち、労働契約承継についての解釈、事実評価の誤りの2点について受理して判決をしました(承継異議申立権については、上告棄却及び上告不受理決定した)。

商法附則5条1項の個別協議は、「労働契約の承継いかんが労働者の地位に重大な変更をもたらし得るものであることから、…承継される営業に従事する個々の労働者との間で協議を行わせ、当該労働者の希望等を踏まえつつ分割会社に承継の判断をさせることによって、労働者の保護を図ろうとする趣旨である」

これを踏まえて次の規範(基準)を明らかにしまた。

「5条協議が全く行われなかったとき」、「また、5条協議が行われた場合であっても、その際の分割会社からの説明や協議の内容が著しく不十分であるため、法が5条協議義務の違反があったと評価してよく、当該労働者は承継法3条の定める労働契約承継の効力を争うことができる」

この基準は第1審判決、控訴審判決よりも広げた内容になっているとは言えます。しかし、具体的なあてはめは、不当と言うしかありません。

特に、最高裁は「被上告人は、ST社の経営見通しなどにつき上告人らが求めた形での回答は応じず、上告人らを在籍出向等にしてほしいという要求にも応じていない」ことを認めながら、説明や協議の内容が不十分であったとは言えないと判断しました。これは納得がいかない点です。

この最高裁判決は、結論は不当ですが、商法附則5条を労働者保護の趣旨であることを正面から認め、5条協議違反の場合には、分割会社の責任を追及できる道があることを明らかにした点では重要な意義があると思います。

今や、会社分割は大手企業だけでなく、中小企業でも実施されており、泥舟会社分割事案(事業を分割して、即、分割会社や新設会社などが破綻する事案)も発生しています。なかには慰謝料を認めた判決も出ています。最高裁判決の積極面を生かすように取り組むことが重要だと思います。

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2010年7月 4日 (日)

首都圏建設アスベスト訴訟 森裕之教授証言

■建設作業従事者のアスベスト被害

石綿が含まれる建材を使用したことで、石綿疾患(肺がん、中皮腫、石綿肺等)に罹患した建設作業者(大工、配管工、解体工等)が、国と石綿建材メーカーに対して損害賠償を求めた裁判が続いています。東京地裁(1次訴訟、2次訴訟)の合計原告は約300名です。

■森裕之教授の証人尋問

立命館大学の森裕之教授(財政学・都市経済論)に、日本での建設アスベスト被害と国・建材メーカーの責任について証人尋問(120分)が東京地裁で実施されました。

公共経済学の立場から我が国のアスベスト建材の被害拡大と政府と企業の責任について、詳細の意見書を作成していただき、それを踏まえて詳細に証言していただきました。

日本が輸入した石綿のうち7割が建材に使用され、我が国では建設業に大量の石綿疾患被害者が発生していることを数値に基づいて明らかにされています。

■ダブル・スタンダード

特に、アスクなどの日本の代表的石綿建材製造企業が、石綿規制が厳しい海外には、ノンアスベストの製品を輸出しながら、規制がなかった日本では石綿含有建材を従来どおり新製品も含めて販売していることを、会社側の資料に基づき明らかにされました。

アスベスト代替化は可能であり、きちんと公的規制があれば、アスベスト代替品開発を企業に促し、早期の脱アスベスト化は可能であったと証言されました。

この証言には、裁判長や右陪席裁判官が、頷きながらメモをとっていたのが、印象的でした。

■訴訟は中盤の山場を迎えて

泉南アスベスト訴訟で敗訴した国は、3名の証人申請をしてきました。原告側は、後半戦の原告患者・遺族による被害立証にはいっていきます。いよいよ後半戦に入っていくことになります。生存している患者原告も重症の石綿疾患です。一日も早い判決、解決が求められています。

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2010年7月 2日 (金)

解雇権濫用法理と整理解雇は別法理か?

整理解雇は解雇自由であるが、個別的理由による解雇は、解雇権濫用法理の適用があるという主張を時々、耳にします。

先日、有名な労働法学者が「スウェーデンは解雇規制があるが、経営上の解雇は自由なんだ」とコメントしていたのを聞きました。

なかには、さらに進めて、日本でも、解雇権濫用の法理(労働契約法16条)は個別的理由による解雇(つまり、労働者側の事情、たとえば、能力、態度、非行等による解雇のこと)に限定して、整理解雇の4要件(要素)は破棄すべきという意見も散見します。

でもね。

日本の現実では、名ばかり整理解雇がいかに多いことか。

前年度より売り上げが減少しただけで整理解雇だなどと主張する使用者及びその代理人が多いですね。つまり、整理解雇と言って、恣意的な解雇をしてくる使用者が多いということです。(実は、当該労働者が気に入らないだけ)

本当の意味で、整理解雇かどうか、をチェックする必要性が高いと思います。その意味では、解雇権濫用法理の一内容として、整理解雇は位置づけられるはずです。

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南アW杯 パラグアイ戦 0-0 PK負け 凡戦

延長戦でも0-0で、OK戦で5-4の敗戦。

日本選手も本気のパラグアイ相手に、よく守りました。

でも、両チームとも超守備的な戦術で、ワールドカップの決勝トーナメントとは思えないほどの「凡戦」でした。Jリーグでこんな試合をしていたら、「金返せ。」と言われるでしょう。

「日本人とパラグアイ人しか見ない試合」と本田選手がコメントしたそうですが、まったく同感です。

にもかかわらず、テレビでは、「善戦」「快挙」「世界を驚かせた」とか、果ては「日本人は一体感が大切だ」「大和魂は、やっぱり『和をもって尊し』だ。」というコメントが溢れています。これには「なんだかなー・・・」という気分にさせられます。

2,3日前、NHK・BSでオランダのクライフのドキュメンタリーが放映されていました。クライフ曰く、「代表チームは勝敗だけが問われる。それでは夢のある、楽しいサッカーはできない」と言っていました。

岡田監督は、「私にも理想のサッカーがある。でも、日本代表監督として勝つことにこだわった」とコメントしていました。結局、2年半、監督をやってみたが、見ていて楽しい理想のサッカーでは日本チームは勝てないというのが現実なのでしょう。

次の監督は、このような超守備的なサッカーでなく、見ていて楽しいわくわくするチームで、4年後のブラジルW杯でたたかってほしいです。

2014年のブラジル大会には是非、現地に行ったみたい。そのためには、日本代表が地区予選を突破し、楽しいサッカーで勝てるように成長してもらいたいものです。

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南アW杯 デンマーク戦 3-1 歓喜

デンマーク相手に快勝です。
最初の10分はいつ点を入れられるかと冷や冷や。

フリーキックの2発で勝利をつかみました。

デンマークの攻めをよくしのぎ、攻撃のときは全員で攻めていました。
こんな快勝をするとは予想もしていませんでした。

日本チームの現実的な戦い方がはまった勝利です。

決勝トーナメント進出。快挙です。

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