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2010年7月12日 (月)

日本IBM会社分割事件最高裁判決H22.7.12

■最高裁平成22年7月12日第二小法廷判決

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100712111131.pdf

日経記事は次のように報道していました。

会社分割巡る従業員転籍、事前協議なければ無効 最高裁
http://www.nikkei.com/tech/news/article/g=96958A9C93819695E3E0E2E3918DE3E0E2E5E0E2E3E29180E2E2E2E2;da=96958A88889DE2E0E2E5EAE5E5E2E3E7E3E0E0E2E2EBE2E2E2E2E2E2

 会社分割で新会社に転籍することになった日本IBMの従業員が、同社に転籍の無効の確認などを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(千葉勝美裁判長)は12日、「会社が分割に関して従業員との協議や説明をまったく行わなかった場合には、転籍は無効となる」との初判断を示した。

■事案の概要

簡単に言えば、日本IBMが不採算部門であるハードディスク事業を会社分割(新設分割)して、新会社(ST社)を設立し、ハードディスク事業に所属した労働者を全て新会社に承継させた事件である。新会社になれば、日立製作所グループと統合され、賃金等の労働条件が切り下げられることが予想され、また、不採算部門であるから新会社の将来は不安定と思わざる得ません。IBMの労働者の賃金は30%切り下げられるだろうと会社幹部が発言をして、労働者は不安におちいっていました。

■労働者の主張

労働者は、会社分割による労働契約承継に異議を唱え、労働組合(JMIU日本IBM支部)に加入して、分割される新会社の経営状況、労働条件の維持・保障等について個別協議をしました。ところが、会社は、会社分割後の新会社の経営状況については回答できないとしてきました。

労働組合は、会社分割前に分割先である日立製作所に対して、経営状況・労働条件について団体交渉を申し入れましたが、日立側はまだ労働契約が発生していないとして団体交渉を拒んだのです(神奈川労働委員会に救済申し立てをした)。そして、会社分割が実行され、労働者は新会社に労働契約が承継されてしまいました。

■提訴

そこで、労働者は、日本IBMに対して、地位確認と損害賠償を請求する訴訟を提起しました。労働者側の主張は次の二点。
(A)労働者は会社分割無効の訴えによることなく、商法附則5条個別協議及び労働契約承継法7条の協議義務に反した場合には労働契約承継の無効を訴えることができる。
(B)労働者は、職業選択の自由の一環として、また契約の自由の一つとして、「使用者選択の自由」を有しており、労働契約承継を拒否する権利(承継拒否権)を有する。と

■争点

争点は次の3点となりました。
①会社分割無効の訴えによらず労働者は労働契約承継の有効性を争えるか。②労働契約承継を無効とする事由はどのような場合か。③労働者に承継拒否権があるか。

■第1審判決

第1審(横浜地裁)は、①は認めましたが、②については、「会社分割の無効事由が認められない限り、会社分割の効果である労働契約の包括承継自体を争う方法なはい」として、商法附則5条協議、あるいは労働契約承継法7条措置を「全く行わなかった場合又は実質的にこれと同視し得る場合」には労働契約承継が無効となるとしました。そして、この協議は行われているとしました。③については、使用者選択の自由については、労働者は、退職するという選択肢があるから、使用者選択の自由を制約しているとは言えないと判断しました。

■控訴審判決

控訴審(東京高裁)は、②の無効事由としては、「5条協議を全く行わなかった場合もしくは実質的にこれと同視し得る場合、または、5条協議の態様、内容がこれを義務づけた趣旨を没却するものであり、そのため、当該労働者が会社分割より通常生じると想定される事態がもたらす可能性のある不利益を超える著しい不利益を被ることとなる場合に限って」、労働契約承継の効果を争うことができると判示しました。その上で、IBMは、労働者と実質的に協議を行っているとして控訴棄却でした。

■最高裁判決

最高裁は、上告受理申立理由のうち、労働契約承継についての解釈、事実評価の誤りの2点について受理して判決をしました(承継異議申立権については、上告棄却及び上告不受理決定した)。

商法附則5条1項の個別協議は、「労働契約の承継いかんが労働者の地位に重大な変更をもたらし得るものであることから、…承継される営業に従事する個々の労働者との間で協議を行わせ、当該労働者の希望等を踏まえつつ分割会社に承継の判断をさせることによって、労働者の保護を図ろうとする趣旨である」

これを踏まえて次の規範(基準)を明らかにしまた。

「5条協議が全く行われなかったとき」、「また、5条協議が行われた場合であっても、その際の分割会社からの説明や協議の内容が著しく不十分であるため、法が5条協議義務の違反があったと評価してよく、当該労働者は承継法3条の定める労働契約承継の効力を争うことができる」

この基準は第1審判決、控訴審判決よりも広げた内容になっているとは言えます。しかし、具体的なあてはめは、不当と言うしかありません。

特に、最高裁は「被上告人は、ST社の経営見通しなどにつき上告人らが求めた形での回答は応じず、上告人らを在籍出向等にしてほしいという要求にも応じていない」ことを認めながら、説明や協議の内容が不十分であったとは言えないと判断しました。これは納得がいかない点です。

この最高裁判決は、結論は不当ですが、商法附則5条を労働者保護の趣旨であることを正面から認め、5条協議違反の場合には、分割会社の責任を追及できる道があることを明らかにした点では重要な意義があると思います。

今や、会社分割は大手企業だけでなく、中小企業でも実施されており、泥舟会社分割事案(事業を分割して、即、分割会社や新設会社などが破綻する事案)も発生しています。なかには慰謝料を認めた判決も出ています。最高裁判決の積極面を生かすように取り組むことが重要だと思います。

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