「協同労働の協同組合法」案について
■超党派議連の法案
超党派の議員立法で協同労働の協同組合法案が検討されていると新聞報道がありました。この「協同出資・協同経営で働く協同組合法を考える議員連盟」(会長 坂口力衆議院議員)は、民主、自民、公明、共産、社民、国民新党、新党日本、みんなの党の超党派で構成しています。この議連の法案要綱案を見ました。
この「協同労働の協同組合法」案は、労働者の自主的事業等に法人格を付与するもので、基本的には長年にわたり労働組合や生活協同組合、ボランティア団体などが求めてきた法案です。理念としては、素晴らしいものです。イタリアでは労働者協同組合が活発だそうです。
■事業に従事する組合員は労働者か?
組合員の就労条件等については次のように定めています。
1 就労規程
(1) 協同労働の協同組合は、就労規程を作成し、次の事項について定めなければならないものとする。
① 就労時間、休憩、休日及び休暇に関する事項
② 従事した業務に対する報酬の基準その他組合事業に従事した程度に応じてする分配に関する事項
(2) 労働基準監督署長は、就労規程で定める組合員の就労条件が、労働者の労働条件について労働基準法が定めている基準に達しない場合には、その就労規程の変更を命じることができるものとすること。2 労働保険への加入等
(1) 組合員(役員を除く。)は、労働者災害補償保険法及び雇用保険法の適用事業にしようされる労働者とみなすものとする。
(2) 組合員の安全及び衛生については、労働安全衛生法の規定を準用する者とすること。
組合員が労災保険や雇用保険については労働者と「みなす」ということは、要するに組合員は、「労働者」ではないということです。
つまり、労基法が適用されないということです。就労規程が労基法の基準に達しない場合に変更を命じることができるだけで、労基法違反として労基署は監督することができないという構造です。また、最低賃金法の適用もないということになるのでしょうね。
協同労働の協同組合法で、わざわざ、従事組合員が労働者でないということを決める必要があるのでしょうか。組合事業に従事する個々の労働者の実態に応じて労基法などが適用されればよいはずです。
■イタリアの労働者協同組合
イタリアの労働者協同組合(ローマのレガコープ等が有名)でも、労働組合が存在しているそうです。なぜ、日本の場合には、従事組合員が労働者であることを否定するのでしょうか? 不思議なことです。
組合員である労働者が協同で決定するから労使関係はないっていう理念でしょうか? しかし、そんな「建前」や「理念」が間違いのもとだっていうことが、1989年のソ連・東欧の崩壊で明確になっているはずなのに。
労働者であることを否定すると、協同労働の協同組合という美しい理念のもとで、劣悪な労働条件や雇用の不安定が法認されることにならないか危惧します。なんだか、いろいろな輩が協同組合として入ってくる弊害が心配です。
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コメント
日本労働協同組合(ワーカーズコープ)連合会センター事業団が制作した、映画「ワーカーズ」を観ようと思っています。
チラシを見ると「あたらしい働き方のはなし」や「労働者で経営者」「生きがい」「ハタラキガイ」「キズナ」というような言葉がちりばめられています。ブラック企業が横行し、メンタル不全になるまで過重労働をしている若者や、正社員という名の奴隷のような労働者や、一方では何度も何度も面接を重ねても採用されず自信を失っていく学生などの現状を考えれば、資本を持っていない労働者が共同で経営するワーカーズは一見理想的に見えるのですが、なにかしら一抹の不安が付きまといネット検索をしましたら、水口弁護士のブログにたどり着きました。
私は医療関係の労働組合の仕事をしていますが、介護施設からの労働相談が最近よくあります。考えられないような低賃金(月収13万円)で月に4~5回の一人夜勤をこなし14~15日の日勤で働いている方々です。日勤8時間、夜勤は16時間の勤務をしながら休憩はほとんど取れないような状況です。経営者と話をすると「こんな小さな施設が少ない介護報酬で、どうやって労働基準法を守れというのですか」と開き直りです。たしかに介護報酬は少なく、小さな施設ほど大変な経営状況であることは知っています。だからといって、法律を守れない事を前提で施設運営をすることは間違っていると思いますが。
そのような介護の現場のことを考えたとき、「ワーカーズ」なるものが介護施設を経営したらどうなるのだろう、と思ってしまいました。みんなが経営者だから休憩が取れなくても、休みがなくても、賃金がいくら安くても、法律では補完されず、経営者としての「責任」と「キズナ」で働き続けるしかないのであればなんと残酷、生き地獄。
介護報酬がもっと上がり、労働者の賃金や労働条件をまともに保証できる制度作りが必要なのに、絶対そういう方向には進んでいかない、いわば社会保障の充実をを足踏みさせるまたは後退させる足かせになりはしないか、と思うのです。
映画「ワーカーズ」」のちらしをながめていると、こんなことを考える私はひねくれものなのだろうか、とも思ったりもしていたのですが、水口弁護士の法制定に関するブログを読んで、あながち間違ってはいないと納得できました。
でも・・・でも・・・「雇用の創出」という点だけで考えれば、「ワーカーズ」もありなのだと思います。そこであたらしい法律を制定する政治家の皆さんの「見識」が重要になるわけですが、期待できるものでしょうか。水口弁護士のブログを読むとそれも期待はできないようで、困ったものです。自分でも海外の状況を勉強してみようと思いますが、今後も水口弁護士のブログに注目し読ませていただきます。
投稿: 中嶋啓子 | 2013年9月 5日 (木) 04時35分