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2010年3月11日 (木)

債権法改正と労働法(その5) 約款と就業規則法理

■約款についての基本方針

基本方針では約款について次のように改正案を提案しています。

【3.1.1.26】(約款の組み入れ要件)
<1> 約款は、約款使用者が契約締結時までに相手方にその約款を提示して(以下、開示という)、両当事者がその約款を当該契約に用いることに合意したときは、当該契約の内容となる。ただし、契約の性質上、契約締結時に約款を開示することが著しく困難な場合において、約款使用者が相手方に対し契約締結時に約款を用いる旨の表示をし、かつ、契約締結時までに、約款を相手方が知りうる状態においたときには、約款は契約締結時に開示されたものとみなす。
<2> <1>の規定にもかかわらず、約款使用者の相手方は、その内容を契約締結時に知っていた条項につき、約款が開示されなかったことを理由として、当該条項がその契約の内容とならないことを主張できない。

 つまり、約款を契約内容にするためには、①約款の開示、②約款を契約に組み入れることの合意(組入れ合意)を2要件が必要としています。

■労働契約法の就業規則と約款法理との関係

これに対して、労働契約法7条は次のように定めています。

労働契約法7条
 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。

 つまり、労契法は、就業規則が労働契約の内容になるためには、①就業規則の周知、②合理的な労働条件の定めの二つの要件でよいということです。
 となると、就業規則を約款の一種としてとらえると、労契法7条は民法の約款理論に反することになります。

就業規則の定型契約説と約款法理の矛盾

 使用者が一方的に作成する就業規則が、労働契約の内容になり、労働者を拘束することには強い批判があるところです。これに対して、就業規則が労働契約の内容になるという事実たる慣習があるとか、労働者が黙示の承諾をしているとして、約款類似の考え方の定型契約であるというのが菅野説など有力説です。

 しかし、事実たる慣習や黙示の承諾というのは、フィクションです。入社(労働契約締結)する前には、就業規則を見るということは事実上、不可能です。にもかかわらず、これを合意があったとするのは無理があると思います。
 民法でさえ、約款を契約の内容にするには、約款を契約内容にする合意あることが必要ですから、労契法7条は約款に反することになります。

■東京弁護士会の意見書

 東京弁護士会の「民法(債権法)改正に関する意見書」(平成22年3月9日)では、この問題について、「約款を用いた取引に対する規制を行う場合には、就業規則がこれに含まれないこと、または労働契約が適用外であることを明確にすべきである」としています。実務をかえないという点では、このとおりでしょう。

■就業規則法理の再検討の浮上

 約款について基本方針のような改正がされた場合には、労契法7条が民法の特別法として優先的に適用されると解さざるをえないと思います。現状の実務を前提とするかぎり。

 しかし、このことは、就業規則法理の根本的欠陥を白日の下にさらすことになります。

 なぜ、就業規則が労働者を拘束できるのか。これを定型契約で説明した学説は、民法の約款法理にも反するものであり、合意原則では説明がつきません。もはや、就業規則kの契約内容効力を当事者の合意で説明することはできなくなるのではないでしょうか。

 となると就業規則は労契法7条によって特別な効力を付与されているという解釈がもっとも自然だと思います。しかし、この法規範説も本来はおかしな話です。(法律がなんで、労働者を拘束するような効力をもっているのか。まるで身分契約ではないか。)

 就業規則は使用者が一方的に定めるものです。ですから、就業規則は本来は、使用者自身を拘束するにすぎない。労働者に対して拘束力は生じないはずです。労働者が承諾した場合のみ労働契約の内容になるにすぎないはずです。

合意原則を尊重するかぎり、使用者が、労働者に就業規則を周知し、承諾をとらなければ、労働契約の内容にはならないということになります。入社前でも当然に労働者に就業規則を示すべきという結論になります。契約内容にる以上は、使用者が一方的に就業規則を変更して労働条件を不利益に変更することも、(労働者の承諾がない限り)できないのがスジです。そして、労契法12条のような緩やかな基準では変更はできないはずです。

参照 事情変更の原則と雇用継続型契約変更制度

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2009/10/post-fe60.html

■将来の労働契約法へのインパクト

 このようなスジをとおすためには、就業規則変更法理を使わなくても、労働契約の内容を変更する制度がなくてはなりません(継続的契約であれば、契約の変更は不可避です)。ですから、基本方針が提案する「事情変更の効果」の労働契約版(雇用継続型契約変更制度)が適切に制度化されれば、就業規則法理・変更法理(労契法7条、10条)をを廃止することができるのでしょう。

 もし基本方針のような民法(債権関係)改正が実現すれば、労働契約法を包括的な法律にする大きなインパクトになることは間違いないのでしょう。

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