労働者派遣法の改正 「常時雇用する労働者」の意味
■「常時雇用する労働者」とは
労働者派遣法改正は、「常時雇用する労働者でない者について労働者派遣を行ってはならない」と定めます。つまり、常用雇用労働者のみ労働者派遣をすることができる(大きな例外は専門26業務ですが)。
この常用雇用者については、業務要領には、有期雇用であっても、「過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者又は採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者」で良いとされています。その結果、有期雇用派遣労働者が広く認められるものとなり、抜け穴として批判されるべき点です。
ところで、この点について、hamachanは次のような興味深い指摘をされています。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/post-81ee.html
重要なことはこうです。
法律上の文言には、上記現行業務取扱要領の3つのどれかであれば「常時雇用」に当たるなどという規定はありません。「常時雇用」といえば、上記要領のいうように「雇用契約の形式の如何を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている」ということであり、それをこれから派遣事業を始めるという入口ではなく、雇止めされてしまったという出口において、どのように解釈すべきか、という問題は、答は出ていないということです。
少なくとも、入口で許可が必要か届出でかまわないかという判断のためだけに用いられてきた基準を、雇止めされたという出口でそのまま使えるかどうかについては、裁判所の判断はまだされているわけではありません。
■出口段階(雇い止め段階)での「常時雇用する労働者」の意義
hamachanによれば、派遣事業の出口時点、つまり、有期雇用派遣労働者が派遣元会社から労働契約を雇い止めをされて,単純に打ち切られた場合には、「事実上期間の定めなく雇用されている者」ではなかったということになり、違法派遣として派遣先に対して労働契約申し込みの見なし制度が適用されるということになると言うのです。なるほど。
確かに「事実上期間の定めのなく雇用されている者」である以上、派遣労働者は、雇い止めに対して解雇権濫用の法理(労契法16条)を類推適用されることになります。事実上期間の定めのなく雇用されているという事実関係は、解雇権濫用法理が類推適用されるという効果を生じさせます。
もし、裁判所ないし労働審判委員会が、「事実上期間の定めなく雇用された者」ではないという判断をすると、違法派遣として派遣先に労働契約申し込みみなしが適用されることになるということです。
では、「事実上期間の定めなく雇用されている者」ではないが、「雇用継続に合理的な期待を有している者」であると判断をした場合には、どうなるのでしょうかね。
前者は東芝柳町工場事件最高裁判決の類型、後者は日立メディコ事件最高裁判決の類型として異なる契約類型と解釈されてきました。そうすると、後者だと、事実上期間の定めなく雇用された労働者でないと言えそうですね。(ただ、裁判所は実質的には同一趣旨だとするでしょうが、・・・法文上ははっきししてません。)
また、いわゆる専門26業務の登録型派遣については、雇用継続の期待を肯定するという影響を与えることになるのでしょうか。法改正があったとしても、登録型派遣だと、最高裁いよぎんスタッフ事件判決のようにおよそ雇用継続の期待はないという考えは変わらないのかもしれません。
どちらにしても、裁判所あるいは労働審判委員会が、解雇権濫用法理を類推適用(事実上期間の定めのない契約だとした)上で、雇い止めが有効であるとした場合には、労働契約申し込み見なしの適用はされないということになるのでしょうね。
■国会審議
このあたり、裁判所の判断の前に、国会で、上記最高裁判決を念頭に置いた上で、「常時雇用する労働者」とは「事実上期間の定めなく雇用されている者」であるといことの確認、また、その具体的内容を確認しておくことが大変に重要な問題になりそうです。
このあたり、民主党など与党でなく(与党質問しそうになさそうだから)、野党の質問に期待したいところです。野党は、「常時雇用労働者を期間の定めのない労働者に限定すべきである」という要求だけの質問に終始しないように期待したいものです。
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詳細は下記ブログをご参照下さい
◆“人事総務部ブログ”
http://www.xn--3kq4dp1l5y0dq7t.jp/
投稿: 人事総務部 | 2010年4月 7日 (水) 10時46分