松下PDP偽装請負事件について、2009年12月18日、最高裁は労働者敗訴の判決を言い渡しました。
最高裁HPではもう判決文が見られます。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=38281&hanreiKbn=01
原審の大阪高裁は、偽装請負として派遣されていた労働者と、派遣先企業(松下PDP・現パナソニックPDPが企業)と労働者との黙示の労働契約関係を認めていました。しかし、最高裁は、請負契約は違法は労働者派遣契約であると認定しながら、派遣先と派遣労働者との間に黙示の労働契約関係は成立しないとしたのです。
この法律論については議論百出でしょう。私には、専門的な判例評釈をする力量はありません。そこで、感想だけ述べておきたいと思います。
■派遣先と派遣労働者の黙示の雇用契約を一切否定したものではない
最高裁も、違法派遣の場合、派遣先との労働契約の成立を一切否定したわけではありません。最高裁は、少なくとも、派遣先が派遣労働者の採用に関与(採用面接での派遣先従業員の立会)していたり、給与額を派遣先が事実上決定したいたという事情が存在したり、あるいは、派遣先と派遣元との間に資本関係や人事関係があるとか、専ら派遣だとかという事情がある場合には、(派遣元と派遣労働者の間の雇用契約が無効にならなくとも?)、派遣先と労働者との間の雇用契約関係が黙示的に成立すると言っているようです。
最高裁の上記「要件」は狭すぎると思います。全国各地でたたかわれている派遣労働者の地位確認の裁判でよって、是非、最高裁を克服して欲しいと思います。
■全体として見て「正義」に反するじゃないか。
最高裁でさえ、本件について次のような事実があったことを確認し、しかも松下PDPに対して損害賠償支払いを認容認めているにもかかわらず、労働者の地位確認を認めなかったということです。まさに「木を見て森を見ず」、「全体として不正義」、「合理的な愚か者」というか・・・
①松下PDPは、違法な派遣労働者を受け入れていたこと(いわゆる偽装請負)を認めたこと。
②松下PDPは、派遣法違反の申告(内部告発)をした労働者を敢えて有期の労働契約を締結したと認定していること。
③有期労働契約は更新を予定しない短期のもので、しかも、労働局申告(内部告発)したことの報復として、リペア作業という過酷な作業を担当させ、更新を予定しない有期契約を締結して雇止めをしと認めていること。
今井功裁判官は、この点を次のように的確に整理しています。
「上告人は、被上告人が、大阪労働局に偽装請負であるとの申告をしたことに対する報復として、被上告人を直接援用することを認める代わりに、業務上必要のないリペア作業を他の従業員とは隔離した状態で行わせる旨の雇用契約を締結したと見るのが相当である。」
ところが、この今井裁判官も、「大阪労働局への申告に対する不利益取扱いとして、不法行為を構成する」とするにとどまるというのです。その理屈は、有期契約は更新を予定されていない契約だという形式論だけなのです。
松下PDPとしては、たかが90万円程度の金を払って、会社の施策に楯突いた青年労働者を企業から放逐できたのですから、誠に万々歳でしょうね。企業は派遣法規制を脱法しようとしていたわけです。このような悪巧みを最高裁は、金を払えば人は放逐しても仕方がないと容認したというわけです。
しかし、司法に携わる裁判官が、上記の不条理な事態(労働者の地位を向上しようと内部告発をした労働者を、あえて過酷な作業に従事させ、有期雇用を締結して、最後は端金を払って切り捨てるという日本企業の十八番芸)を容認すべきなのでしょうか。
これは法律解釈の問題ではなく、司法の使命を、裁判官がどう考えるのかという裁判官の哲学の問題です。
最高裁判決を見れば、形式的な契約論に拘泥して、全体として不正義を容認した判決だと思います。まさに、官僚司法裁判のお手本のようです。
裁判所に期待できないとなると、やはり派遣法に違法派遣の直接雇用みなし制度を立法化する必要性が高まったということになります。
戦後直後の下級審裁判官たちは、民法で解雇自由とされてきた中でも、労働者の訴えを受け止めて、解雇権濫用法理を確立しました。そして、今や、この解雇権濫用判例は、労働契約法16条として立法化されました。今の最高裁判事や裁判官連中には、そのような気概も時代感覚もないのでしょうか。
我が国の最高裁判所裁判官は、もはや「保守の牙城」になったというべきです。長年、自民党と蜜月であった司法官僚が事実上、任命してきた者たちですから。
民主党政権に、司法官僚、行政官僚や保守的な企業法務弁護士も排除して、社会の実態を踏まえた新しい判断ができる最高裁判事を任命してもらいたいものです。
【追記】
日本労働弁護団が最高裁判決についての声明を出しました。
「PPDPsaikouhanketu091218.pdf」をダウンロード
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