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2009年10月15日 (木)

民法(債権法)改正と労働法(その4)

債権法改正の「事情変更の制度化」と民主党の労働契約法案、連合総研の試案の比較

■事情変更の要件と効果
民法(債権法)改正の事情変更の原則について以前、次のブログで触れました。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2009/06/3-e4e5.html

この民法(債権法)改正検討委員会の提案は、労働契約についても、例えば経済変動による事情変更が生じた場合には、当事者は、再交渉の申し入れ、再交渉義務、協議が調わない場合には、契約の解除、契約の変更、金銭的調整を裁判所に求めることができるという制度です。

■民主党の労働契約法案
民主党と連合の労働契約法案の労働契約変更請求権と比較してみましょう。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2007/10/post_fdca.html

第24条 当事者の一方が、労働契約の内容を維持することが困難な事情が生じたため相手方に労働契約の変更を申し込んだ場合において、当事者間の協議が調わないときは、当該変更を申し込んだ者は、別に法律で定めるところにより、当該労働契約の変更を裁判所に請求することができる。

■連合総研の労働契約法試案
他方、連合の労働契約法試案は次のとおりでした。

http://www.rengo-soken.or.jp/houkoku/itaku/sian_jobun.pdf

(労働契約変更請求権)
第41条1項 当事者の一方が契約内容を維持することが困難な事情が生じたために,相手方に契約の変更を申し入れた場合において,当事者間の協議が調わないときは,裁判所(労働審判委員会を含む。以下同じ)に契約内容の変更を請求することができる。

(統一的労働条件の変更と労働契約)
第42条 使用者が当該事業場における労働者の全員又は一部に適用を予定する就業規則その他の統一的労働条件を変更する場合には,労働者代表と協議しなければならない
2 使用者は,前項の協議を経て作成された統一的労働条件に基づき労働者の契約内容の申し入れを行う場合には,4週間を下回らない一定期間内に諾否の回答を求めることができる。右期間内に意思を表明しない者は承諾したものとみなす。承諾を拒否した労働者に対しては,前条に定めるところに従い,契約内容変更請求権を行使することができる。

■労働契約変更請求権
この二つの案と債権法改正試案の「事情変更の効果」と比較すると、契約の変更を申し出る当事者側が、裁判所に変更を訴え出るという点で共通をしています。他方、改正試案は、労働契約の解除、つまり解雇(と金銭調整)を命じることができるとする点で異なります。

民法で事情変更の原則を創設するのであれば、民主党案と連合試案を基本としつつ、労働契約法の抜本的改正を行うべきだと思います。

現状は、使用者の一方的な圧力のもと、労働契約の変更が労働者に押しつけられています。そうであれば、契約変更の明確な法定ルールを定めるほうが良いと思います。

■労働組合はどうするのか
労働契約変更請求権については、集団的労使関係との関係を考慮しない点が問題です。特に労働組合や労働者代表との誠実交渉を義務づけないという欠陥をもっていると思います(連合試案は検討されているが)。

つまり、難問は労働組合との関係をどうするかです。労働契約変更が全て裁判所の法的手続で行われるようになれば労働組合の存在意義がなくなってしまいかねません。

今後も、あくまで労働組合が少数派であり続けるとしたら、かえって一定規模以上の企業に法定の労働者代表委員会の設置を義務づけて、労働組合はその委員の選挙に立候補して活動するくらいの発想の転換があっても良いのかもしれません。

■債権法改正から、労働契約法の抜本的改正へ
事情変更の原則を導入するのであれば、労働契約法の抜本的改正も検討すべきだと思います。労働者代表の意見をどう組み入れるのか、公労使の三者協議で検討すべきでしょう。

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