有期雇用の規制について 濱口桂一郎さんのコメントに対して
濱口さんの「新しい労働社会-雇用システムの再構築へ」について、読書日記で感想を書いたところ、濱口さんからコメントをいただきました。私が有期雇用の金銭調整制度について疑問を呈したことに対してです。
金銭解決はだめで職場復帰という判例法理は、有期雇用の雇い止めについては事実上絵に描いた餅に等しい状態になっており、それにこだわって「現状の規制よりも後退」などというのは、圧倒的に多くの有期労働者にとっては、ほとんど無意味なものになってしまうという判断があります。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/post-6377.html
■判例は金銭解決はだめで職場復帰しか認めないか?
前提となる事実認識が違うのかもしれません。実際には有期労働者側は、訴訟や労働審判においては、(和解ないし調停にて)金銭解決か地位確認かを自らが選択しており、現実には8割以上の有期労働者は金銭解決を選択していると思います。けっして「金銭解決はだめ」というのは判例法理ではありません。でも職場復帰を求める人(例えば、労組に加盟したアクティブな労働者)も存在します(いすゞ有期労働者事件などの例)。
■有期雇用の金銭支払いという制度はどういうものか?
あるいは、濱口さんが提言する「一定期間を超えた有期契約の雇止めという事態に対して、勤続期間に応じた一定率の金銭の支払い義務といった効果を与える法制度」と、私のイメージが違うのかもしれません。
私は、濱口さんが提言する雇止めに関する法制度とは、解雇権濫用法理が類推適用される場合に一定の金銭を支払うという制度だと受け止めました。経営法曹会議が提言する有期労働契約と雇止めの金銭的解決制度は、このような制度です(平成16年12月1日「今後の労働契約法制の在り方について」経営法曹会議「労働契約法制研究プロジェクトチーム」)。
http://www.keieihoso.gr.jp/teigen-200503.pdf
もし、このような制度を前提とすれば、その効果は現状とさして変わらないでしょう。多くの有期労働者は異議申立ができないのですから。逆に、有期労働者が、せっかく異議を申し立てて、解雇権濫用の立証に成功しても、得られるのは「一定の金銭」だけということになり、救済の効果は後退することになります。
■雇止めの退職手当制度
でも、濱口さんの提言は、すべての有期雇用について一定の期間雇用継続したり、一定の回数を更新した場合には、雇止めする場合には、すべて一定率の金銭を支払うという制度を提言しているのかもしれません。いわば、雇止めの退職手当制度のようなものなのでしょう。
例えば、「1回以上更新し、3年以上雇用継続した有期労働者を雇いどめする場合には3ヶ月分以上の平均賃金を支払うという義務を課す」とかです。
この場合には、確かに、異議申立をしない労働者も、金銭支払いを受けられるというメリットはあるのでしょう。
しかし、こういう制度だと使用者は金銭支払義務が生じる前に一斉に雇止めをしてくるのでしょうね。それを防ぐ手段はあるでしょうか。別の労働者を有期労働として雇い入れる場合には、脱法手段として支払い義務を認めることになるでしょう。
有期雇用契約の規制の在り方をどうすべきか、これから検討していきたいと思います。
| 固定リンク
「労働法」カテゴリの記事
- フリーランス新法と労働組合(2023.04.28)
- 「労働市場仲介ビジネスの法政策 濱口桂一郎著(2023.04.13)
- 「フリーランス保護法」案の国会上程(2023.02.26)
- 働き方開殻関連法の労組向け学習会(出版労連)(2018.10.07)
- 改正民法「消滅時効」見直しと年次有給休暇請求権の時効(2018.06.06)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント