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2009年9月29日 (火)

リゾートソリューション(旧エタニットパイプ) アスベスト訴訟解決

リゾートソリューション株式会社(旧エタニットパイプ)の高松工場で働いた労働者とその家族のアスベスト被害の損害賠償請求事件について、控訴期限の9月28日、解決の合意をしました。双方とも控訴をしないでの解決です。

会社は、高松地裁の判決を真摯に受け止め社会的責任を認め原告ら全員に謝罪をし、和解金(約5億4200万円)を原告らに全員に一括して支払うという内容です。

時事通信記事

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2009092900996

読売新聞記事

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/kagawa/news/20090929-OYT8T01337.htm

現在の裁判所の損害賠償の水準を踏まえた解決になったと思います。

高松地裁判決は、時効対象となった2名の原告について、会社の時効援用は権利の濫用だとして、時効消滅を排斥して、原告を救済した点では高く評価できます。

ただ、昭和33年以前に退職した労働者については石綿肺の予見可能性がなかったとして、また家族原告らについては、工場からの飛散した石綿粉じんによる健康被害の可能性は否定しがたいといいながら、具体的ば曝露の実態が証拠上明らかにでないとして請求棄却した点は、原告らにとっては当然、不満でした。

しかし、控訴審で争うと、さらに訴訟が長引くことになり、高齢となった原告らの救済が遅れることになります。早期解決を優先しての解決です。1審判決直後に合意による解決ができて、ほんとうに良かったと思います。

原告団・弁護団声明

「seimei09928.rtf」をダウンロード

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2009年9月21日 (月)

有期雇用の規制について 濱口桂一郎さんのコメントに対して

濱口さんの「新しい労働社会-雇用システムの再構築へ」について、読書日記で感想を書いたところ、濱口さんからコメントをいただきました。私が有期雇用の金銭調整制度について疑問を呈したことに対してです。

金銭解決はだめで職場復帰という判例法理は、有期雇用の雇い止めについては事実上絵に描いた餅に等しい状態になっており、それにこだわって「現状の規制よりも後退」などというのは、圧倒的に多くの有期労働者にとっては、ほとんど無意味なものになってしまうという判断があります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/post-6377.html

■判例は金銭解決はだめで職場復帰しか認めないか?

前提となる事実認識が違うのかもしれません。実際には有期労働者側は、訴訟や労働審判においては、(和解ないし調停にて)金銭解決か地位確認かを自らが選択しており、現実には8割以上の有期労働者は金銭解決を選択していると思います。けっして「金銭解決はだめ」というのは判例法理ではありません。でも職場復帰を求める人(例えば、労組に加盟したアクティブな労働者)も存在します(いすゞ有期労働者事件などの例)。

■有期雇用の金銭支払いという制度はどういうものか?

あるいは、濱口さんが提言する「一定期間を超えた有期契約の雇止めという事態に対して、勤続期間に応じた一定率の金銭の支払い義務といった効果を与える法制度」と、私のイメージが違うのかもしれません。

私は、濱口さんが提言する雇止めに関する法制度とは、解雇権濫用法理が類推適用される場合に一定の金銭を支払うという制度だと受け止めました。経営法曹会議が提言する有期労働契約と雇止めの金銭的解決制度は、このような制度です(平成16年12月1日「今後の労働契約法制の在り方について」経営法曹会議「労働契約法制研究プロジェクトチーム」)。

http://www.keieihoso.gr.jp/teigen-200503.pdf

もし、このような制度を前提とすれば、その効果は現状とさして変わらないでしょう。多くの有期労働者は異議申立ができないのですから。逆に、有期労働者が、せっかく異議を申し立てて、解雇権濫用の立証に成功しても、得られるのは「一定の金銭」だけということになり、救済の効果は後退することになります。

■雇止めの退職手当制度

でも、濱口さんの提言は、すべての有期雇用について一定の期間雇用継続したり、一定の回数を更新した場合には、雇止めする場合には、すべて一定率の金銭を支払うという制度を提言しているのかもしれません。いわば、雇止めの退職手当制度のようなものなのでしょう。

例えば、「1回以上更新し、3年以上雇用継続した有期労働者を雇いどめする場合には3ヶ月分以上の平均賃金を支払うという義務を課す」とかです。

この場合には、確かに、異議申立をしない労働者も、金銭支払いを受けられるというメリットはあるのでしょう。

しかし、こういう制度だと使用者は金銭支払義務が生じる前に一斉に雇止めをしてくるのでしょうね。それを防ぐ手段はあるでしょうか。別の労働者を有期労働として雇い入れる場合には、脱法手段として支払い義務を認めることになるでしょう。

有期雇用契約の規制の在り方をどうすべきか、これから検討していきたいと思います。

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2009年9月16日 (水)

リゾートソリューション アスベスト訴訟 9.14勝訴判決 高松地裁

■高松地裁のアスベスト訴訟 勝訴

リゾートソリューション(旧日本エタニットパイプ)の高松工場で働いていた元労働者29名と労働者の妻4名が、アスベスト被害にあったとして会社を訴えた裁判で元労働者25名の勝訴判決が出されました。

昭和33年から、アスベスト(石綿)の危険性は予見できたとして、会社に元労働者に対する安全配慮義務違反を認めました。石綿肺の重傷度(管理区分)に応じて1000万円から2500万円までの損害賠償を命じました。

しかし、昭和33年以前に退職していた労働者4名については請求棄却です。ただ、2名の時効対象者については、会社の時効援用を権利濫用として退けました。

また、4名の労働者の妻が、夫のアスベスト(石綿)粉じんにまみれた作業着を洗濯したことによってアスベスト疾患に罹患したという点は、工場からのアスベスト粉じんによる被害である可能性は否定しきれないが、証拠上は明白でないこと、また、近隣曝露や作業着の洗濯などの間接曝露によって家族に被害がでると予見できる時期は昭和50年だとして、安全配慮義務ないし不法行為責任(民法709条)、工作物責任(民法717条)を否定しました。

不服の点はありますが、集団訴訟で、裁判上の最高水準の損害賠償金額、時効についての権利濫用を認めた点など、画期的な勝訴判決です。

判決要旨

「etapaihanketu090914.pdf」をダウンロード

声明

「seimei09914.jtd」をダウンロード

■会社の責任を断罪と全面解決

29名の原告のうち半数は遺族原告であり、提訴後に患者生存原告のうち4名が死亡されており、生存原告は現在12名となってしまっています。命あるうちの早期の解決をする責任が企業にはあると思います。

命あるうちの早期解決を求めて、判決を契機にして、原告団は全面解決をもとめて要請行動や交渉を続けているところです。一日も早い解決を目指しています。

■ちなみに予見可能性の時期

高松地裁判決は、企業の石綿粉じんの危険性の予見可能性を昭和33年としました。その根拠は当時の労働省が「職業病予防のための労働環境の改善等の促進について」「労働環境における職業病予防に関する技術指針」(昭和33年5月26日付基発338号)を発していたことを根拠にしています。

他方で、戦前からの国の石綿粉じんの危険性を調査した結果は重要としながら、これが公刊されていないことから、企業の予見可能性の証拠としてはできないとしています。他方では、国の予見可能性については、昭和33年より遡ることを示唆していることになります。

国家賠償請求訴訟では、国の予見可能性はもっと早くからということになります。古い時代の国家賠償請求を求めている泉南アスベスト国家賠償請求について、大阪地裁はどう判断するか、注目されます。

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2009年9月13日 (日)

読書日記「新しい労働社会」濱口桂一郎著

「新しい労働社会」-雇用システムの再構築
2009年7月 発行 岩波新書
2009年9月 読了

■現実的・漸進的な改革
著者の基本的スタンスは、本書の「はじめに」に端的に記述されています。「現実的なバランス感覚」で本書は書かれています。

本書は、日本の労働社会全体をうまく機能させるためには、どこをどのように変えていくべきかについて、過度に保守的にならず、過度に急進的にならず、現実的で漸進的な改革の方向を示そうとしたものです。

■非正規労働者の本当の問題は何か?
著者は第2章で持論を展開しています。

○「偽装請負は本当にいけないのか?」という「刺激的」な見出しのもと、請負労働や派遣労働は「労働力需給システム」の問題だとして、二つに整理して提言しています。

労働者が請負元=派遣元の常用労働者である三者間労務供給システムについては、雇用契約関係が請負元=派遣元との間に常時存在することから、このような就労形態それ自体に対して規制を行う必要性はそもそもあまりないと思います。」(78頁)

「これに対して、請負元=派遣先=供給先=紹介先での就労が開始されるまでにおいて、当該労働者と請負元=派遣先=供給先=紹介先の間に雇用関係が存在せず、登録という一定のメンバーシップが存在するだけの三者間労務供給システムについては、…供給契約の存在する限りで存続する特異な使用関係が請負先=派遣先との間で成立すると構成すべきでしょう」(79頁)この場合、「基本的にすべて(雇用終了に係る部分を除き)請負先=派遣先=供給先~紹介先が使用者としての責任を持つと考えるべき」とし、ただし「この使用関係は請負契約=派遣契約=供給契約=紹介契約が存在する限りで存続する特異なものですから、解雇保護(雇止め規制)はここでの労働者保護には含まれません」(80頁)

著者は、派遣労働法制の方向性をEUの派遣労働指令を紹介しつつ、業務限定や製造業務派遣禁止論に与せず派遣労働者の均等待遇を条件とすることで現行法を基本的に容認するようです。(このあたりは労働側としては、戸惑い反発するところでしょう。)

○そして、著者は「偽装有期労働にこそ問題がある」とします。EUの有期雇用規制を紹介した上で、日本の法制度について次のような提案をします。

一定の労働法上の制度の適用において一定の要件を充たす有期契約を期間の定めのなき契約とみなすという制度を導入するべきではないでしょうか。

一定の期間を超えた有期契約の雇止めという事態に対して、勤続期間の金銭の支払いといった法的効果を与える法制度を作ってしまう方が、曖昧模糊とした判例法理に依存し続けるよりもはるかに有期労働者の救済に資するのではないでしょうか。

つまり、著者の提案する有期労働規制は、雇用を保障する(雇止め無効・地位確認)の現行法理ではなく、金銭的に補償するということです。その代わりに、次の均衡処遇を適用するという方向にいくのです。

○均衡処遇がつくる本当の多様就業社会
著者は、EUの非正規労働規制の焦点は均等待遇原則にあるとして、日本型雇用システムにおいて均等待遇原則をどう妥当させるかを検討しています。

・均衡原則
職能資格制度を採用している企業では、「職務の内容、職務の成果、意欲、能力または経験を勘案し、その賃金を決定する」(改正パート法)をパート労働者やフルタイムの有期労働者や派遣労働者にも適用するとの方向を提示しています。

・期間比例原則
職能資格制度を採用していない場合には、「期間比例原則」の考え方を日本に適用することができるとします。この考え方について、次のようにわかりやすく提案しています。

いわば正社員について制度上、想定しうる最低レベルの処遇を非正規労働者に確保しようという発想です。具体的には、非正規労働者が就労を開始したときの水準は正社員の初任教を下回らないものとし、その後は定期昇給の最低ラインを下回らないものとするという形になるでしょう(103頁)。

著者は、日本において賃金制度を短期的に職務給とすることは事実上不可能であることを前提として、何も変えられないよりも、「現行の賃金制度を前提にした改革の道」をさぐり「実施可能な政策を提起すべき」とします(105頁)。期間比例原則として、均衡処遇を広く適用することは魅力的です。(丸子警報器パート事件での和解基準は同じ発想だったと思います。)

■格差解消のために
著者は、非正規労働者の低賃金や劣悪な労働条件を改善するためには「社会保障制度総体」を改善すること(第3章)と、「産業民主主義の再構築」(第4章)が必要だとします。

「重要なのは正社員と非正規労働者の間で賃金原資をどのように再配分し、両者に納得できるような共通の賃金制度を構築していくかという問題」であるとし、そのためには「現在の企業別組合をベースに正社員も非正規労働者もすべての労働者が加入する代表組織を構築していくことが唯一の可能性がある」とします。その理由を次のように述べています。

この問題は、白地に絵を描くことができるのであれば話しは簡単なのですが、現に企業別組合が正社員に限ってではあっても労働者代表組織としての性格をもって存在している以上、その存在意義を否定する方向への改革は事実上不可能です。

労働者間の利害調整などでは問題は解決しないという諦めであり、「正しい」賃金制度を組合の抵抗を押し切って労働者に強制するしか道はないという一種の「啓蒙専制主義」であり、つまり産業民主主義の否定です。(187頁)

労働者全体が加入した労働者代表機関を創設して、労使の集団的合意を形成していこうとう提案です。これは大企業の職場を想定しているのでしょうが、「そりゃ無理でしょう」というのが素直な感想です。正社員が自らの賃金を任意に削って非正規労働者の労働条件をあげることは普通あり得ないでしょう。法的に「規制」する方が現実的のように思います。

■疑問
戦後日本社会で形成された「日本型雇用システム」は変容しました。一方では、「左右」を問わず「労使」を問わず、「終身雇用、年功序列賃金、企業内組合の『日本型雇用システム』が良い」という人々がいます。他方で、社畜を作り出した「日本型雇用システム」を克服したいと考え、「同一価値労働同一賃金の原則」に基づいた「新しい公正な雇用システムの構築」を主張する人々もいます。著者は、後者の論者として、八代尚宏教授だけでなく、後藤道夫教授や木下武男教授も発想は同じだと位置づけているようです。

著者は、上記のどちらでもなく、EUの労働規制を念頭におきながら、現実を踏まえた実施可能な制度を模索すべきだとしています。そして、派遣労働を禁止しても、派遣労働者は現状の不安定で低賃金の有期労働契約になるだけだと指摘し、有期労働契約の規制こそが必要だと提案します。もっともです。

有期労働者に均等待遇原則を適用することは大いに賛同できますが、しかし、雇用保障の部分は現状の規制よりも後退させて雇用終了(解雇・雇止めを含めて)については金銭的調整で処理しようことは賛同できません。

何故、金銭調整でなければならないのでしょうか。有期労働に雇用保障をすると、経営者は労働者を有期であってさえ雇わなくなるという「経済学」の影響でしょうか。それとも、均等待遇原則の導入のひきかえに、金銭調整を導入しないと経営者が譲歩しない現実論なのでしょうか。この点は著者には明確に理由が書かれていないように思います。

そういえば、厚労省に有期労働契約の研究会が昨年立ち上がりました。そして、民主党政権になりました。有期労働契約が労働法制(労働契約法の改正)の問題として、近い将来、浮上してくるかもしれません。

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