個別労働紛争事件の増加と民事第1審事件
■労働関係訴と労働審判の新件数
個別労働紛争に関する手続別新受件数が概要が分かりました。
平成20年度(平成20年4月~平成21年3月)には、2417件と平成19年度の1.5倍も増加しています。労働事件が急増しています。
訴訟 | 仮処分 | 労働審判 | 総数 | |
平成15年度 | 2443 | 704 | 3147 | |
平成16年度 | 2449 | 627 | 3076 | |
平成17年度 | 2317 | 626 | 2943 | |
平成18年度 | 2006 | 424 | 1163 | 3593 |
平成19年度 | 2149 | 377 | 1563 | 4089 |
平成20年度 | 2559 | 458 | 2417 | 5434 |
■民事訴訟全体の中での労働関係訴訟と労働審判の位置づけ
最高裁は、裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第3回)を発表しています。これを読む機会がありました。
http://www.courts.go.jp/about/siryo/jinsoku/hokoku/03/hokokusyo.html
労働関係訴訟というのは、民事訴訟事件の極く一部でマイナーな件数だと思っていましたが、この報告書を読んで必ずしもそうではないと感じました。
平成20年の地裁民事第1審訴訟の事件数は19万2246件で、そのうち5割近くが過払い金返還訴訟と思われるということです。その過払金等の返還訴訟を除くと8万7256件となり労働関係訴訟は2131件だそうです。売買代金訴訟3139件、交通事故損害賠償訴訟7435件、医療過誤訴訟は955件です。
労働関係訴訟2131件、労働審判2052件を合計すると4183件となりますから、両者を合計すると売買代金訴訟や交通事故訴訟に準じる規模となります。
民事訴訟は、過払金返還訴訟以外は減少傾向にありました。しかし、労働審判手続のように利用しやすい司法手続が導入されれば訴訟事件は劇的に増加するようです。
上記報告書では、医療過誤、建築関係、知財、労働関係の各訴訟類型ごとの概要を掲載しています。これを一般民事事件と比較すると面白い特徴が見えます。4類型とも当事者の対決が激しく、判決(対席)の割合も高く上訴率も高いにもかかわらず、同時に和解率が高いのが特徴なのです。和解率が高いのは、訴訟代理人の存在が大きいのではないでしょうか。
平成20年1月から12月までの地方裁判所の既済事件
訴訟類型 | 民事第1審 (過払金等以外) |
医療 過誤 |
建築 関係 |
知財 | 労働 関係 |
事件数 | 87,256 | 955 | 23,835 | 559 | 2,131 |
平均審理期間 | 8.1月 | 24.7月 | 15.6月 | 13.1月 | 12.3月 |
審理期間が2年を超える事件の割合 | 5.8% | 41.6% | 33.4% | 14.1% | 8.5% |
判決終局事件のうち対席事件の割合 | 62.2% | 98.9% | 97.2% | 90.6% | 89.6% |
和解した割合 | 35.6% | 51.1% | 40.0% | 44.7% | 53.5% |
双方訴訟代理人事件の割合 | 39.8% | 85.1% | 81.5% | 73.9% | 72.5% |
上訴率 | 14.6% | 36.9% | 36.5% | 41.7% | 39.3% |
平均期日回数 | 4.5回 | 11..8回 | 10.6回 | 8回 | 7.3回 |
平均争点整理期日回数 | 2.3回 | 8.4回 | 7.2回 | 6.1回 | 4.3回 |
争点整理実施率 | 37.60% | 86.2% | 82.0% | 73.2% | 69.2% |
平均期日間隔 | 1.9月 | 2.1月 | 2.1月 | 1.6月 | 1.7月 |
人証調べ実施率 | 19.5% | 60.0% | 35.6% | 11.8% | 39.3% |
平均人証数 | 0.5人. | 1.9人 | 1.1人* | 0.4人 | 1.3人 |
人証調べ実施事件の平均人証数 | 2.8人 | 3.1人 | 3.0人* | 3.2人 | 3.4人 |
鑑定実施率 | - | 19.6% | 4.6% | - | - |
建築関係の*は、瑕疵が主張されている事件の数値
■労働訴訟は専門的知見を要する訴訟か否か。
司法改革論議の際に、裁判所は、労働関係訴訟は専門的知見が必要でなく、専門訴訟とは言えないと強く主張していました。(したがって、労働参審制等の新しい制度は不要である!)。この点が司法制度改革審議会労働検討会の一つの争点でした。
しかし、本報告書では、どうやら最高裁も労働関係訴訟も一定の専門性があることを認めたようです。労働訴訟では合理性、相当性等のいわゆる「規範的要件」が問題となり、その前提として、「法令、判例、通達等に関する専門的知識、昇給制度や賃金制度等の雇用に実態等に関するりかいも必要となる。」と既済されています。そして、東京地裁の労働専門部では「専門的知識、審理方法等に関するノウハウが蓄積されている」として、その成果として平均審理期間が短縮していると評価しています。
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