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2009年8月22日 (土)

総選挙と責任力

■総選挙

総選挙を予想する世論調査が次々と発表されています。

民主党が300議席を超える勢いです。まるで振り子が一方から一方に振れるようです。アメリカでは「現代選挙の特徴は、株式市場の乱高下の同様になるということだ」と言われていますが、日本も、そういう時代になったということですね。

この手のひらを返したような日本の有権者の反応は、「なんだかなあっ」ていう気もします。小泉郵政選挙を熱狂的に支持した若い世代や都市有権者層が今度は民主党を支持しているのでしょうか。

古い世代である私なんかは、「こんな不安定な民意は政治的成熟度の低さのあらわれ。ポピュリズムが行き過ぎればファシズムに足をすくわれるのでは・・・」なんて心配してしまいます。

■責任力

というわけで、テレビは、ニュースを含めてできるだけ見ないようにしているのですが、家人が麻生首相のテレビの党首討論会を見て、感想を言っていました。

何で麻生首相って、こんなに偉そうなのかしら。
今までの自民党の政策の結果、日本が今のような酷い状況になっているのに、民主党の揚げ足とりだけして。
自民党こそ、今までの責任をどうとるつもりなの?

なるほど、自民党の「責任力」って、今までの自らの失政を責任をとるということなのね。

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2009年8月 9日 (日)

個別労働紛争事件の増加と民事第1審事件

■労働関係訴と労働審判の新件数

個別労働紛争に関する手続別新受件数が概要が分かりました。
平成20年度(平成20年4月~平成21年3月)には、2417件と平成19年度の1.5倍も増加しています。労働事件が急増しています。

  訴訟 仮処分 労働審判 総数
平成15年度 2443 704   3147
平成16年度 2449 627   3076
平成17年度 2317 626   2943
平成18年度 2006 424 1163 3593
平成19年度 2149 377 1563 4089
平成20年度 2559 458 2417 5434

Gurafu_3

■民事訴訟全体の中での労働関係訴訟と労働審判の位置づけ

最高裁は、裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第3回)を発表しています。これを読む機会がありました。

http://www.courts.go.jp/about/siryo/jinsoku/hokoku/03/hokokusyo.html

労働関係訴訟というのは、民事訴訟事件の極く一部でマイナーな件数だと思っていましたが、この報告書を読んで必ずしもそうではないと感じました。

平成20年の地裁民事第1審訴訟の事件数は19万2246件で、そのうち5割近くが過払い金返還訴訟と思われるということです。その過払金等の返還訴訟を除くと8万7256件となり労働関係訴訟は2131件だそうです。売買代金訴訟3139件、交通事故損害賠償訴訟7435件、医療過誤訴訟は955件です。

労働関係訴訟2131件、労働審判2052件を合計すると4183件となりますから、両者を合計すると売買代金訴訟や交通事故訴訟に準じる規模となります。

民事訴訟は、過払金返還訴訟以外は減少傾向にありました。しかし、労働審判手続のように利用しやすい司法手続が導入されれば訴訟事件は劇的に増加するようです。

上記報告書では、医療過誤、建築関係、知財、労働関係の各訴訟類型ごとの概要を掲載しています。これを一般民事事件と比較すると面白い特徴が見えます。4類型とも当事者の対決が激しく、判決(対席)の割合も高く上訴率も高いにもかかわらず、同時に和解率が高いのが特徴なのです。和解率が高いのは、訴訟代理人の存在が大きいのではないでしょうか。

平成20年1月から12月までの地方裁判所の既済事件

訴訟類型 民事第1審
(過払金等以外)
医療
過誤
建築
関係
知財 労働
関係
事件数 87,256 955 23,835 559 2,131
平均審理期間 8.1月 24.7月 15.6月 13.1月 12.3月
審理期間が2年を超える事件の割合 5.8% 41.6% 33.4% 14.1% 8.5%
判決終局事件のうち対席事件の割合 62.2% 98.9% 97.2% 90.6% 89.6%
和解した割合 35.6% 51.1% 40.0% 44.7% 53.5%
双方訴訟代理人事件の割合 39.8% 85.1% 81.5% 73.9% 72.5%
上訴率 14.6% 36.9% 36.5% 41.7% 39.3%
平均期日回数 4.5回 11..8回 10.6回 8回 7.3回
平均争点整理期日回数 2.3回 8.4回 7.2回 6.1回 4.3回
争点整理実施率 37.60% 86.2% 82.0% 73.2% 69.2%
平均期日間隔 1.9月 2.1月 2.1月 1.6月 1.7月
人証調べ実施率 19.5% 60.0% 35.6% 11.8% 39.3%
平均人証数 0.5人. 1.9人 1.1人* 0.4人 1.3人
人証調べ実施事件の平均人証数 2.8人 3.1人 3.0人* 3.2人 3.4人
鑑定実施率 19.6% 4.6%

建築関係の*は、瑕疵が主張されている事件の数値

■労働訴訟は専門的知見を要する訴訟か否か。

司法改革論議の際に、裁判所は、労働関係訴訟は専門的知見が必要でなく、専門訴訟とは言えないと強く主張していました。(したがって、労働参審制等の新しい制度は不要である!)。この点が司法制度改革審議会労働検討会の一つの争点でした。
 しかし、本報告書では、どうやら最高裁も労働関係訴訟も一定の専門性があることを認めたようです。労働訴訟では合理性、相当性等のいわゆる「規範的要件」が問題となり、その前提として、「法令、判例、通達等に関する専門的知識、昇給制度や賃金制度等の雇用に実態等に関するりかいも必要となる。」と既済されています。そして、東京地裁の労働専門部では「専門的知識、審理方法等に関するノウハウが蓄積されている」として、その成果として平均審理期間が短縮していると評価しています。

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2009年8月 2日 (日)

加藤雅信教授の講演「民法改正と近時の動向」を聞いて

■二つの民法改正に向けての研究会

 2009年7月31日、東京の三弁護士会主催で、上智大学法科大学院の加藤雅信教授の講演を聞きました。
 民法改正については、二つの研究会があります。内田貴教授(東京大学教授・法務省民事局参与)の「民法(債権法)改正検討委員会」(内田研究会)と加藤教授の「民法改正研究会」(加藤研究会)です。
 内田研究会は、法務省の参事官らが事務局を担当しており、私的研究会と言いながらセミオフィシャルな研究会です。この内田研究会は、今年の4月29日に「債権法改正の基本方針」を発表しています(別冊NBL126号)。
 加藤研究会は、判例タイムズで日本民法改正試案を昨年に発表しています。しかも、加藤教授は、内田研究会にも参加されています。

■民法改正の必要性

 明治時代につくられた民法が現代に合致していないことは明白です。また、判例によって多くの部分が修正されており、判例を調べなければ民法だけを読んでもわかりません。また特別法によって民法が修正されています。一般の市民が民法を読んでも、民法を理解することはできず、かえって誤解することになりかねません。
 ですから、民法典を改正する必要性があることは多くの法律家が認めるところでしょう。

■二つの研究会の改正の方向性について

 二つの研究会は上記の民法改正の必要性については一致していると思いますが、その改正の方向性は異なるようです。加藤教授は、二つの研究会の改正についての基本的考え方の特徴を説明されています。

 加藤研究会の改正方針を、内田研究会の基本方針と比較すると次のようになるのだそうです。
 ①簡明な法典     VS. 「多条文」化
 ②日本民法との連続性 VS.ヨーロッパの民法改正との同一化
 ③民法の簡明・単純化  VS.  規範の詳細化
 ④レファランス方式  VS.民法に一部を直接規定

■確かに

 確かに内田研究会の債権法改正試案と、加藤研究会の改正案を比較すると加藤研究会の改正案とは考え方が違うかもしれません。
 内田研究会の債権法改正の基本方針は、条文ではないということですが、詳細な条文となり、条文数も相当、増加するようです。
 しかも、現行民法との連続性を意識せず、新たな概念を取り入れようとしてます。例えば、債務不履行についての「債権者の責めに帰すべき事由」という概念を放棄して、「債務を引き受けた」という概念で構成しようとしています。
 また、消費者契約法を統合化しようとしており、民法内部に消費者契約法を入れ込もうとしています。

 これに対して、加藤研究会は、現行民法との連続性を重視し、消費者法や労働契約法との関係では、次のようにレファランス方式をとることを提案してます。

 消費者法との関係では、「変動が激しい消費者法をとりこむことにより、民法典の安定性をそこない、民事の基本法としての性格を失わせることをおそれたため」に、消費者法を直接とりこむことはしない。

 雇用についても、同様の考えか方をとり、民法典の私法総合的性格(民法を見れば基本的に私法の全体像がわかる)を維持するために、解雇権濫用法理を民法にも定め、他方で、雇用については、労働契約法と労働基準法が適用されることをレファランス方式で明示することにするというものです。

 特別法から民法に取り込むべきものは取り込みつつ、時代にあわせて改正が予想される消費者契約法や労働契約法については、レファランス方式が適切だと、私も思います。

■穂積陳重にかえれ

  加藤教授は、明治民法典の制定に関わった穂積博士の論文を引用して次のように強調されています。

「難解の法文は専制の表徴である。平易なる法文は民権の保障である」(穂積陳重『法律進化論 第二冊』)

「法律の明確なるは、人民の権利の一大保障たるや知るべきのみ」とし、「民をして依らしむべし、知らしむべからず」とするのは古政策であり、法治の新主義のもとでは、「民をして知らしむべしよらしむべし」である旨を説いている(穂積陳重『法典論』)

 確かに、現行民法との連続性を重視し、法的安定性を重視した民法改正を行うべきだと思います。秋からは法制審での議論が開始する予定と言われています。拙速でなく、より広く意見を聴取しながら4年程度の時間をかけて民法を改正すべきだと思いますね。

 労働法からの視点からみた民法債権法改正の基本方針案についても注目していきたいと思います。

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