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2009年6月 7日 (日)

読書日記 「21世紀の歴史」ジャック・アタリ著

作品社

2008年8月30日発行

2009年4月15日読了

(フランスでは2006年11月出版)

■空想社会科学小説

<超帝国>→<超紛争>→<超民主主義>の三題噺を中心とした、空想科学小説(SF)ならぬ、空想社会科学小説(SSF)です。

■資本主義の歴史「中心都市」の東から西へ 変遷

資本主義の歴史を、港から発達した「中心都市」が東から西に移り発展することを描いています。ブルージュ→ヴェネチア→アントワープ→ジェノバ→アムステルダム→ロンドン→ボストン→ニューヨーク→ロスアンジェルスと。現在、ロスアンジェルスは、インターネットに象徴される情報技術のもとで世界の中心都市となった。

ちなみに、1980年代、著者も、東京がこの中心都市になるのではないかと想像したが、結局は、そうならないと結論づけています。

しかし、実際には、日本は銀行・金融システムの構造問題を解決する能力がなく、また膨張した金融バブルを制御する能力にも欠けていることが、まもなく明らかになった。また、自国通貨である円の大幅な切り上げを回避することが、労働市場の流動化を図ることもできず、サービス部門や「ホワイトカラー」の労働生産性を向上させることもできなかった。特に、日本は世界中からエリートを自国に引き寄せることができなかった。そして、「中心都市」に求められる個人主義を推進することもなく、覇権国であるアメリカの呪縛から逃れることもできなかった。(114頁)

しかし、そのアメリカも終焉を迎えるそうです。ロスアンジェルスも2025年頃には終末を迎えるというのです。

■21世紀の中心都市

次の「中心都市」は、アジアにうつることが示唆されているが、具体的にどこかとの指摘はされません。ただ、日本でないことは間違いないようです。21世紀前半の日本について次のように記述しています。

将来的なテクノロジーに関しては抜きんでているとしても、個人の自由を主要な価値観にすることはできないであろう。また、日本を取り巻く状況はますます複雑化する。例えば、北朝鮮の軍事問題、韓国製品の台頭、中国の直接投資の拡大である。こうした状況に対し、日本はさらに自衛的・保護主義的路線をとり、核兵器を含めた軍事を増強しながら、必ず軍事的な解決手段に頼るようになる。こうした戦略は、経済的に多大なコストがかかる。2025年、日本の経済力は、世界第5位ですらないかもしれない。(146頁)

これに対して、二つの危機さえを回避すれば、「韓国は、新たな経済的・文化的モデルになり、その卓越したテクノロジーと文化的ダイナミズムによって世界を魅惑する。」と高く評価しています。その二つの危機とは、北朝鮮の崩壊による南北統一と北朝鮮との軍拡競争だそうです。

■独裁国家は70年を超えると崩壊する

中国については、中国共産党が崩壊すると断言しています。民主主義がない社会には市場が発展することがあり得ないことは歴史が証明している。今後、中国は共産党独裁が崩壊して内戦状態になり、軍事的な暴発(台湾侵略やシベリア侵略)に出る危険が高いとします。

2025年には、いずれにせよ中国共産党の76年間にわたる権力に終止符が打たれるであろう。(70年以上にわって権力を握り続ける政権は世界中どこにも存在しない)。

確かに、ソビエト連邦は1917年から1989年の72年間、日本の戦前天皇制独裁国家は1868年から1945年の77年間で、それぞれ崩壊していますね。

■<超帝国>と<超ノマド>

いずれにしても、市場民主主義が、アジア諸国にも拡大し、アジア諸国も多極化する。そして、世界は混沌とし、民主主義なき市場が世界を覆う。国境なき市場が生まれ、政府や国家さえ破壊する。これが<超帝国>であり、市場がすべてを制覇し、その市場を操るのが超ノマド=超帝国の支配者だと言います。この「ノマド」っていうのは「遊牧民」という意味だそうです。これに対するのが「定住民」、昔は農民だが、現代では福祉国家の国民たちということです。

超ノマドとはクリエーター階級(未来企業の戦略家、保険会社や娯楽産業の経営者、ソフトウェアの発明者、金融業者、法律家、デザイナー等々)です。

この<超帝国>に対する<超紛争>が起こると予想します。国家自体が崩壊し(ソマリアやイラクみたいに)、膨大な下層ノマドが生み出され、「海賊」が世界中に横行する。そして想像を絶する兵器を使っての世界中で紛争を起こす。

■アーサー・C・クラークばり

このあたりからは先は、アーサー・C・クラークのSF小説「2061年宇宙の旅」、「3001年宇宙の旅」を読んでいるようです。確か、イタリアで宗教団体による核爆発テロがあったというストーリーがありあました。

しかし、著者は、大まじめに<超帝国>の出現と、<超紛争>の凄惨な地獄絵のような世界の招来は不可避であると予言しています。そこで、人類の滅亡を避けるためには、人々は<超民主主義>を生みだし、調和的な世界を築かなければならないと言うのです。

最後に、「人類は自滅から逃れられるか?」と次のようなに述べます。

現在、市場資本主義は、「資本論」の著者がほぼ予想したとおりの道筋を歩んでいる。一方で、社会主義は、マルクスが警鐘を鳴らした袋小路に迷い込んでしまった。また社会主義では、持続的な自由の保障、幸福、多様性、公正、人間の尊厳を担保することが不可能であることが判明した。現在では社会主義を再考することさえ時間の無駄であると思える。(284頁)

(しかしながら、…)現在、我々は前述のかの社会主義者と同様に、信念に基づいた行動を我々の未来のためにあえて起こす必要がある。(285頁)

ジャック・アリタは、フランスの社会党政権・ミッテラン大統領の特別補佐官を務めた政治家で、1991年にはヨーロッパ復興開発銀行の初代総裁になったという人物です。1943年生まれで今年63歳だそうです。キリスト教的な世界観、最後の審判、メシアの登場、千年王国っていう感じです。

この本はフランスでは2006年に出版されており、2008年9月以降の世界金融崩壊の前に書かれています。

■暗い21世紀 

この本に書かれたように、21世紀は<超紛争>の時代になるのかもしれません。ソマリアやイラクのように国家が崩壊する地域が、アフリカ、中東、中国に多数出現して、海賊や山賊らが跋扈する悪夢の世界。環境破壊による資源や食糧争奪戦が勃発し、核テロもきっと起こるという暗い予想に満ちています。

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