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2009年6月14日 (日)

民法(債権法)改正と労働法(その3)

■日弁連 6.13 「民法(債権法)改正シンポ

内田貴教授(法務相経済関係民刑基本法整備推進本部参与)、潮見佳男教授(京都大学大学院法学研究科)を招いて、日弁連司法制度調査会の民法(債権法)改正シンポジウムが開催されました。

■事情変更による契約解除又は改訂請求権

今回の「債権法改正の基本方針」(別冊NBL126号)には「事情変更」を新たに立法することが提案されています(同書155頁)。

【3.1.1.91】(事情変更の要件)
<1> 契約締結に当たって当事者がその基礎とした事情に変更が生じた場合でも、当事者は当該契約に基づいて負う義務を免れない。
<2>ただし、事情の変更が次の要件を満たすときは、当事者は【3.1.1.92】の定める請求をすることができる。
<ア> 当該事情の変更が、契約当事者の利害に著しい不均衡を生じさせ、または契約を締結した目的の実現を不可能にする重大なものであること
<イ> 当該事情の変更が、契約締結後に生じたこと、かつ
<ウ> 当該事情の変更が、契約締結時に両当事者にとって予見しえず、その統御を越えていること

上記<2>の要件がある場合には、当事者は事情変更による契約変更を申し出ることができ、再交渉がととのわないときには、裁判所に契約の解除を請求(金銭調整も可)すること、または契約の改訂を求めることができる制度を創設するとしています。

【3.1.1.92】(事情変更の効果)

<1> 事情の変更が【3.1.1.91】<2>の要件を満たすときは、当事者は契約改訂のための再交渉を求めることができる。当事者は再交渉の申出を遅滞なく行わなければならない。
<2> 再交渉の申し出がされたときは、相手方は、交渉に応じなければならない。
<3> 両当事者は再交渉を信義に従い誠実に行わなければならない。

(甲案)
(4) 当事者が<2>または<3>に定められた義務に違反したことにより、または再交渉を尽くしたにもかかわらず、契約改訂の合意が成立しない場合には、当事者(ただし<2>または<3>に定められた義務に違反した者は除く)は、

<ア> 裁判所に、当該契約の解除を求めることができる。ただし、<イ>に従い裁判所により契約改定が合理的と認められる場合はこのかぎりでない。裁判所は、解除を認めるに際して、当事者の申し出た適切な金銭調整のための条件を付することができる。

<イ> 裁判所に、改訂案を示して契約の改訂を求めることができる。裁判所は、当該改訂案の内容が変更した事情および契約に照らして合理的であると判断するときにかぎり、当該改訂案に基づいて契約の改訂を命じることができる。ただし、裁判所は、両当事者から求められた改訂案の内容がいずれも合理的であると判断するときは、より合理的であると認める改訂を命じることができる

(乙案) 省略

■事情変更の効果は雇用契約(労働契約)にも適用される

午後の質問コーナーで、潮見教授に、「上記の事情変更の規定は雇用契約(労働契約)に適用されると思うが、債権法改正検討委員会では、労働契約法の制定過程で、厚労省労働政策審議会の研究会が労働契約変更請求権、変更解約告知について議論してきたことを参照にしているか」と質問しました。

潮見教授は、一般論としては雇用にも適用されることになること、労働契約法の制定過程での研究会の議論は承知していること、ただ雇用(労働)との関係については今後、さらに検討を深める旨の回答をされました。

事情変更の法理は、従来は、契約締結時に想定されていない特別な例外的な場合と解釈され、労働契約の場合には事情変更の法理はほとんど適用がないと考えられてきたと思います。だからこそ、労働法分野ではその代替策として、就業規則変更による労働条件変更、あるいは変更解約告知が議論されてきたのだと思います。

しかし、上記のように、民法にて、裁判所での事情変更による、契約解除+金銭調整、又は契約改訂権が制度化されれば、事情変更が認めれるケースは従来よりも格段に広がると思います。

この事情変更の効果規定が新設されれば、労働契約の場合にも、使用者が労働者に対して、想定外の事情が発生したとして、労働条件の変更の再交渉を申し入れ、再交渉がまとまらなければ、労働契約の解除(解雇)又は、契約の改訂を裁判所に請求することができるということになります。

この事情変更の規定の新設は、労働契約法にも大きな影響を与えることになると思います。仮に、この事情変更の法理(効果)が民法に導入されるとなると、労働契約法で議論された労働契約変更請求権や変更解約告知がまた再浮上することは十分に考えられます。

■「雇用」はいじらないって言うけれど

潮見教授は、労働契約については、民法に取り込まないで、将来は労働契約法に統合すると述べられていました。消費者契約法は自立支援を法理念とするが、労働契約法は労働者の保護を法理念としており、一般法である民法に統合するのは適切でないという趣旨のお話しをされていました。また、内田教授も、他の講演会で、雇用は現行法のままにするとお話しされていたと聞いています。

しかし、上記以外にも、労働契約に影響を与える部分は結構あります(公序良俗の暴利行為の規定の具体化、不実表示の取消、損害賠償の免責、債権時効、有期雇用契約の黙示の更新規定)。やはり、今後、注目していかなければなりません。特に、労働組合のナショナルセンターは見落としがないようにお願いしたいと思います。

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