« 2009年4月 | トップページ | 2009年6月 »

2009年5月31日 (日)

民法(債権法)改正と労働法(その2)

■NBL別冊126号 債権法改正の基本方針

以前に、民法改正と労働法の関連でコメントしましたが、その後、ずいぶん状況が変わったようです。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2009/01/post-7211.html

民法(債権法)改正検討委員会がとりまとめた「債権法改正の基本方針」が発表されました(NBL別冊126号)。

上記改正検討委員会の事務局長・法務省民事局参与である内田貴教授によれば、この検討委員会は「学者の有志によって自発的に組織された全くの私的な研究グループであり、今後に想定される法制審議会でのオフィシャルな立法プロセスで参照されるべき資料の一つに過ぎない」だそうです(旬刊金融法務事情1867号)。しかし、周知のように、同検討委員会の事務局には法務相民事局付のメンバーが大量に入っており、単なる私的研究会と言われて真に受ける人はいないでしょうねえ。

内田教授は、どこかの弁護士会での講演で、「雇用の部分については今回の改正では触れない」と明言していると聞きました。しかし、それでも今回、発表されたものをみても労働法の重要な部分とかぶるところがあります。

■期間の定めのある労働契約の黙示の更新

一つは、日経でも報道された期間の定めのある労働契約の更新です。別冊NBL126号によれば、この点ついて次のように改正されるそうです。

雇用の期間が満了した後、労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件(期間を除く。)で更に雇用をしたものと推定する。

現行法は次のようになっています。

(雇用の更新の推定等)

民法629

 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第627条の規定により解約の申入れをすることができる。

現在の労働法の通説や下級審裁判例では、更新した後も有期雇用契約になると解釈されています。法文上は、現行法が「同一の条件で更に雇用をしたものと推定する」としているので、同一の条件には、期間も含まれるということになります。

ところが、今度の改正では、(期間を除く。)とわざわざ明記することになるので、無期契約となります。そのように解釈するのが我妻民法です。ただ、そうなると、労契法16条の解雇権濫用法理がそのまま適用されることになります。我妻民法時代は、未だ、解雇自由の原則の時代ですから、随分状況が違います。

NBL別冊126号の解説を読んでも、労働法との接合は何ら触れていませんでした。まあ、労働者にとっては、有期よりも無期のほうが有利ですから、それで結構なわけですけれど、100年降りの民法改正作業という一大事業のわりは結構、無造作ですね。

■賃金請求権の消滅時効の延長

あと、債権の消滅時効もそうです。

何だか、債権の消滅時効の短期消滅時効を廃止して、3年だか5年に統一する案が出されています。

現在、周知のとおり、賃金請求権の民法上の消滅時効は1年です(民法174条)。これを労働基準法は、労働者保護の趣旨で、2年に延長しています(労基法115条)。労基法は労働条件の最低基準を設定した労働者保護法ですからね。

ところが、民法で債権の消滅時効を3年とか5年に延長した場合には、労基法も3年や5年に延長しなければならなくなります。なぜなら、労働者の最低労働条件を定めた労基法が民法よりも短い時効期間を定めるなんて背理ですから。

したがって、民法の消滅時効期間を延長するなら、労基法の消滅時効を民法にあわせて延長しなければなりません。これも労働者にとっては大歓迎な改正です。しかし、企業は猛反対するでしょうね。

■債務不履行責任の客観化と安全配慮義務

また、債務不履行責任についても、過失は廃止して、契約違反を中心に再構成するとの提案が出されています。労働法分野では、安全配慮義務についても影響が大です。

などなど、民法改正は要注目です。労働法に大きな影響を与えるようになると想います。

6月13日には日弁連も民法改正のシンポジウムを予定しています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年5月28日 (木)

ノ・ムヒョン弁護士の死と「民弁」

■民主社会のための弁護士会(韓国)

ノ・ムヒョン氏は、韓国の民弁(民主的な社会のための弁護士会)のメンバーです。日本で言えば、自由法曹団、あるいは労働弁護団という感じだと思います。

「民弁」をはじめて知ったのは、15年ほど前でしょうか。労働弁護団の故藤本正弁護士が韓国に訪問して、労働争議を支援する弁護士団体があると興奮気味にお話しをされたのを聞いたときです。

当時は、韓国政府は労働組合を弾圧していた。韓国の労働法は、一つの企業の中でも、A工場の組合がB工場の組合の争議を支援すると刑罰を課されるということでした。

韓国の争議に対する刑事弾圧に民弁の弁護士が弁護に奔走していることを藤本先生から聞いたものです。

ドイツで言うと、IGメタルの顧問弁護士みたいな感じでしょうね。ドイツに行ったとき、IGメタルに訪問したとき、通訳してもらったドイツ留学していた労働省関係の方が、「ドイツでIGメタルって、日本でいうと赤旗っていう感じの左翼です」って言っていました。

■それから、ノ・ムヒョン大統領

しかし、それから15年経過した2008年に韓国を訪問したとき、「民弁」の弁護士はソウル弁護士会の会長になったと聞きました。まったくメジャーの団体になっていました。

ノ・ムヒョン弁護士は、高卒だそうです。独学・苦学して、日本と同じように「現代の科挙」と言われる「司法試験」に合格し、しかも、「ブル弁」や「町弁」になるのではなく、「民弁」に参加した労働弁護士です。そのような弁護士が大統領になった聞いて、時代は変わると感銘を受けました。ちょうど、オバマ大統領の誕生と同じような印象でした。

そのノ・ムヒョン前大統領が非業の死。

妻や家族が大金をもらっていたことは事実のようです。

ノ・ムヒョン氏がそれを大統領当時、知っていたいのか否かが、韓国の法廷で争われることが予想されていました。そんな中の自殺・・・・。何があったかは、すべて藪の中です。

ノ・ムヒョン大統領誕生のニュースを聞いて感銘を受けた私としては、ノ・ムヒョン氏の無念を想い、彼の冥福を祈りたいと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年5月21日 (木)

定年制は、定年までの有期雇用?

■正社員は、定年までの有期雇用か?

いわゆるわが国の正社員の「終身雇用」って「定年までの有期雇用」という考え方(おそらく比喩)という説明があることを知りました。

実は、私も大学生のころ、定年制が定まっているのに、何故、期間の定めのない契約なのかって、とても不思議に思ったことを覚えています。

当時、次のように考えて、自分としては納得しました。

■期間と期限

民法に期間と期限、条件について定められています。期間は、1時間とか、60分とか、30日とか、1年という一定の時間を定めたものです。そして、その期間の計算方法は、民法138条から143条に厳格に定められています。

他方、条件と期限について、民法127条から137条に定められています。そして、条件とは将来の事実であるが、生じるかどうかが不明な事実である。期限は、将来の事実であるが、必ず生じる事実である、と定義されています。

ということで、年齢65歳を定年とするというのは、あくまで期限を定めたものであって、期間ではないということになります。

■40年間と雇用期間を定めたらどうなるのか?

他方、25歳の労働者を雇用するときに、「40年間にわたり雇用する」と契約すれば期間を定めた労働契約ということになるのでしょう。ところが、民法626条1項は、雇用期間が5年を超えた場合又は終身続くと定めた場合には、5年を超えたらいつでも自由に解約できるとしています。

労働基準法14条は、ご承知のとおり、労働契約期間を原則3年としています。で、これに反した期間は、労基法の強行的効力により、3年と規制されます。

というわけで、65歳になったら労働契約を終了すると定める定年制は、期間の定めのある労働契約ということは民法や労基法の規定上、間違いということになると思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年5月20日 (水)

裁判員制度と企業の労務管理セミナー

■東京都労働相談情報センター池袋事務所にて

5月19日、使用者向けセミナーとして、「裁判員裁判と企業の労務管理セミナー」で同テーマについて講義をしてきました。

http://www.hataraku.metro.tokyo.jp/ibento/kyoiku/seminar/09003/index.html

100名くらいの企業の人事担当者の方々が参加されていました。盛況なのにおどろきました。労基法7条、裁判員法100条など基本的なことを解説しました。2時間のうち3分の1は、刑事裁判手続(無罪の推定の原則や検察官の立証責任)や、裁判員裁判の趣旨を話しました。そして、労働者が裁判員になった場合に、企業がどう対応すべきか、次のようなQをたてて話しました。私もこのテーマで話すのははじめてでした。

【Q】選任手続で、当社の労働者は、午前中で終了しました。にもかかわらず、午後、会社に戻らず、帰宅してしまいました。このような場合には、当該労働者を無断職場放棄として懲戒処分してもよろしいでしょうか。
【Q】派遣社員が裁判員で休むと言ってきました。認めなければならないのでしょうか。この場合に使用者は派遣先ですか、それとも派遣元でしょうか。
【Q】有給休暇の取得などの計算にあたって、裁判員裁判で欠勤した日を出勤したものとみなさなければならないのか。
【Q】賞与の出勤率の計算では、裁判員として欠勤した場合に欠勤控除して良いか。
【Q】労働者が裁判員裁判への出頭等の理由を会社に届け出ることは問題ないか。
【Q】裁判員裁判で休むという労働者に対して、裁判員になった証明書を見せろと言ったところ、裁判員法101条で禁じられていると言われたが、呼び出し状や証明を要求してはいけないのか。
【Q】わが社で、鈴木君が初めて裁判員裁判に選ばれました。社長が朝礼で、鈴木は裁判員になって、休むが、立派に務めを果たしてきて欲しいと激励をしたいと言っています。許されますか?
【Q】
裁判員裁判にて欠勤した場合に賃金を支払わなければならないのか。
【Q】当社では裁判員有給休暇制度を定めましたが、裁判員として裁判に参加した証明書の提出を義務づけたいと思いますが、証明書を裁判所は発行してくれるのでしょうか。
【Q】当社では裁判員の有給休暇制度を定めたのですが、労働者は裁判所から日当が出るそうです。有給なので、その日当を会社に納めろと請求しても良いでしょうか。
【Q】また、会社から有給をもらう労働者が日当を得るのは二重取りで許されず、日当は国に返還すべきと思いますがどうでしょうか。
【Q】
裁判員裁判で休暇を申し出た労働者に対して、業務の都合上で裁判員裁判を辞退するようにと指示することができるか。

【Q】労働者が裁判員で裁判所に出頭すると言ってきたので、年次有給休暇の申請をしろと命じたいと思いますが、問題ありませんか。

今日、使用したレジュメです。

「saibanintoroumukanri.doc」をダウンロード

■生協労連の「裁判員休暇制度」の労使協定書

ちなみに、裁判員の特別休暇制度の就業規則もテーマになりました。生協労連が「裁判員休暇制度」の労使協定書(労働協約)の案をインターネットで発表しています。大変に参考になりますので、次をご覧下さい。

http://cwu.jp/assertion-cms/files/2008/11/seisaku_014.pdf

519aamv75ql__sl500_aa240_

////////////////////

また、弁護士安西愈先生の「社員が裁判員に選ばれたらどうするか?」(労働調査会)を参考にさせていただきました。

//////////////////////

■無罪の推定

ちなみに、無罪の推定を説明をしたときに使用した図です。これは被告人・弁護側と、検察官を天秤にのせて、どっちの言い分が正しいかを考えるというのでは無罪の推定ではありません。最初から、被告人が無罪というように天秤は傾いています。他方の天秤に検察官が正しい証拠を積み重ねていき、被告人・弁護人が批判をしても、十分な重さがあるかどうかを見極めるのが裁判員の仕事というわけです。

Tenbin2

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2009年5月16日 (土)

労働法学会中止!

神戸市(神戸大学)で予定されていた、今週土日の労働法学会大会が中止です。

http://wwwsoc.nii.ac.jp/jlla/

例の豚インフルエンザの人・人感染の疑いが理由のようです。大会の中止は、本当に、残念です。

【蛇足】

この件につき、ある弁護士は、「労働法学会中止は、偽装請負などを課題とするシンポがあったので、当局の弾圧じゃないか」と主張しています(たぶん、ジョークだと思う)。私は、そこまで全く考えが及びませんでした。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年5月11日 (月)

読書日記「共生経済が始まる」 内橋克人著 朝日新聞社

内橋克人氏の新著作です。市場主義市場主義を早くから批判してきたジャーナリストです。規制緩和という悪夢、悪魔のサイクルなど、10数年前からの批判を続けてきました。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2006/10/post_0ef8.html

■いざなぎ超えの好景気で太ったのはグローバルズだけ

グローバルズは、日本型多国籍企業のことです。

今では、トヨタ自動車が内部留保(利益剰余金)約12兆4100億円、キャノン約2丁9000億円、ソニー約2丁6000億円など見事なまでの巨資を有しています(いずれも08年)。また、グローバルズの海外現地法人の内部留保として積み上げた残高は17兆2000億円以上(06年度)。日本国内に還流させず、海外に滞留させたままの資金がまた巨額にのぼっている姿に驚かされます。

好調とされた景気のさなか、輸出は年率平均で11.4%も伸び続けましたが、国内の個人消費はわずか1.5%の伸びにとどまり、雇用者報酬(賃金と企業内福祉の合計)にいたっては逆にマイナス0.3%に終わった。雇用者報酬の減少は総額で2兆円にも達しているのです。

一言で言えば、「いざなぎ超え」景気で太ったのはグローバルズだけ。ローカルズも家計もともにやせ細った。

■二重構造

一人当たりの人件費にみますと、大企業とそれ以外で次のようにあまりに大きな格差が生まれています。一人当たりの人件費(年間平均)でみなすと、こうなっています。

大企業(資本金10億円以上)-740万円
中小企業(1000万円~1億円)-380万円
零細企業(1000万円以下)-280万円
(2003年度「法人企業統計年報」)

軽視できないのは、中小零細企業の従業員が全体の72%以上も占めていることです。

■共生経済とは?

著者が提言するFEC自給圏は、フーズ、エナジー、ケアを形成する考え方です。地域(ローカル)に根ざした浪費亡き成長をです。あまりに理想主義的に思えます。「菜の花」経済圏などの「匍匐前進」の地域共生経済に期待をかけています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年5月 8日 (金)

検索ワード・フレーズの集計

アクセス数が22万件を超えました。ありがとうございます。

ニフティのココログは、検索ワード・フレーズを集計することができます。この4ヶ月間に検索ワード・フレーズの多い順を見ると、次のようになっています。

1 水口洋介   234
2  宮本太郎    87
3  民法改正   75
4  労働審判 判例 63
5  マッキャンエリクソン事件 62
6  小嶌典明  57
7  水口洋介弁護士  55
8  債権法改正 52
8  マクドナルド事件  52
10 法曹人口 38
11 大竹文雄  37
12 証人尋問 民事 36
13 日本マクドナルド事件35
14 政治資金規正法 30
14 自殺率 国際比較  30
16 黙示の労働契約 29
16 堀尾輝久  29
18 解雇 裁判28
19 労働三法 27
19 会社分割 在籍出向  27

私の名前を検索する数が多いです。これは私が会った多くの人が、私のブログを見ているということですね。ときどき、「見てますよっ」て声をかけられることもあります。

何故、時間をつかってまで、実名でブログを作成するのかを改めて考えてみました。何よりも、文章にまとめてみると、自分の考えが整理されるというメリットがあります。日記につけるのでは、面白みがなく、長続きしません。ブログにアップして公表することで、アクセスや、反応があることで、モチベーションがあがります。

また、自分の考えを記録しておく備忘録にもなります。何か考えをまとめるときの出発点として使えます。例えば、労働法学習会のレジュメや原稿を書くときの素材にしています。数年前の自分の書いたものを読むのも一興です(もっとも、進歩がないなあと思うことの方が多いですが)。

実名を出すのは、一応、真剣に文章をつづらざるをえないということでしょうね。それでも、つたない文章で、ご批判を受けることも多いですが。

実名ブログについては、久米伸行氏の次の記事が面白いことを紹介されています。

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20080408/298256/?ST=system&P=1

アメリカでは、HPやブログは実名を明らかにして書くのが一般的。人に会うときは、まずHPやブログを検索してから会うのがビジネスでは当たり前で、ブログをもっていない場合には存在しないのと同様だとされるというのですから、驚きです。まさに、アメリカ的です。

ちなみに、宮本太郎教授が検索ワードの二番目になり、私のブログにくる人が多いのには、びっくりします。

宮本教授にふれたブログ記事は、確か1、2件だけなのですが。例の朝日新聞や週刊誌報道で、宮本教授の父親が著名な方だったと報道された波及効果なのでしょうかね。マスコミで話題になる方は、それだけインターネットで検索されるということなのですね。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年5月 3日 (日)

「百年に一度」の大不況 への違和感

■1929年世界恐慌は80年前

現在の世界的不況について、「百年に一度の大不況」と良く言われています。でも、このフレーズには違和感があります。

1929年の世界恐慌は、100年前でなく、80年前の出来事ですよね。百年に一度って、世界恐慌より、今回の大不況の方が深刻だということが含意されているように思います。

でも、現在の大不況は1929年の世界恐慌より深刻な状況なんでしょうか。少なくとも現時点では、そこまでの悲惨な状況にはなっていないようです。(もっとも、今後、さらに悲惨な状況におちこむのかもしれませんが・・・・)

1929年の世界恐慌は、その後、ブロック経済、ファシズム、第二次世界大戦と、全世界を破局まで引きづりこみました。今回の「百年の一度の大不況」って言う人は、そのような事態を予測して言っているのでしょうか。そう発言する人も、そこまで覚悟して言っているようにも思えません。

■政府と経営者の便利な言い訳

「百年に一度」ってフレーズは、大企業経営者や政府の言い訳になっているんじゃないでしょうか。「百年に一度の大変なことなんだから、どうしようもないですよ。私のせいじゃない。」というエクスキューズのようです。

そもそも、資本制経済(市場経済)なんて、不安定なんだから、不況と好景気があって当たり前なのです(それが発展の原動力でもあったりします)。恐慌が繰り返されることも、ごく自然なことなのでしょう。経営者と政府は、「百年に一度あるかないかの大不況」なんて言い訳などしてないで、しっかりやるべき対策をしろって言いたいですね。

他方で、「それみろ。資本主義はやっぱりダメだ。」って、左翼的に、はしゃがないように自制したいと思います。

■雇用と福祉に関する「社会的合意」の形成

当面の失業・貧困対策のための緊急対策の実務的取り組みを強めながら、今回のような構造的な不況が続いても、失業や貧困に陥らないような雇用システムと福祉システムの社会的な合意を形成し、その合意内容を実現していくべきなのしょう。

その社会的な合意がなかなか・・・

正規労働者と非正規労働者の対立をあおって、またぞろ「解雇を自由化しろ。」なんて言う人が復活しつつあるようです。彼ら・彼女らは、「同一価値労働同一賃金の原則の実現こそが重要だ」なんて付加価値をつけてヴァージョンアップしています。目くらましにあう人も出るのかもしれません。(株主と企業経営者こそが「痛み」を負担しろってならないのが不思議です。)

合意の内容(政策)で一致すれば、今の政治的条件の下では、合意成立は可能のように思います。問題は、その合意内容をすりあわせるのが難しいのでしょうね・・・

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年5月 2日 (土)

野川忍著 「労働判例インデックス」 商事法務

明治大学法科大学院教授の野川忍先生から、「労働判例インデックス」をご送付いただきました。

41l5xon2snl_sl160_aa115_

労働訴訟実務において、周知のとおり、労働判例の果たす役割は大きい。下級審判例の個々の結論はともかく、裁判官の思考枠組みを規律しているように思います。

160件の代表的な判例、かつ最新の判例を載せています。

このようなハンディなものとして、労働判例百選があります。私が今、持っている最新のものは、第7版ですが2002年発行です。最近は、重要な判決、しかも高裁、最高裁レベルのものが目白押しです。新しい判例を網羅したこの本は便利です。

判例のポイントのみを見開き2頁で示し、図解もあります。さらに、便利なのは、「さらに理解を深める」というコーナーで、野川先生の労働法だけでなく、菅野本、西谷本、水町本の教科書のページまで指摘してあります。

最近の労働法学習する学生は便利になったものです。何だか手取り足取りのような気がします。昔は、難解な教授の本を読んで、判例時報を読んだり、自分でサブノートを作ったり、図解をしたりするのが司法試験の勉強だったんですけどねえ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年5月 1日 (金)

読書日記「小林多喜二-21世紀にどう読むか」ノーマ・フィールド著

岩波新書2009年1月20日発行 4月30日読了

■メーデーの日に

新書だと、長くても2、3日で読んでしまうのですが、この本を読了するのに約1ヶ月かかりました。

でもって、今日はメーデーということで、記念に「蟹工船」を青空文庫からダウンロードして印刷し往復の通勤電車の中で読みました。高校生のときに読んで以来です。

■ノーマ・フィールド本は

41wnvvt9il_ss500_

/////////////////////////////////////////

教科書的な知識しかなかった小林多喜二について、その人間性に触れた気持ちになりました。

銀行員であったことは知っていましたが、貧しい境遇から叔父の援助をうけてエリートコース(小樽高等商業学校)にのり、北海道拓殖銀行に入行したことは知りませんでした。

■タキと多喜二

何よりも驚いたのは、銀行員になった21歳のときに、「ヤマキ屋」という小料理屋の酌婦である田口瀧子(タキ)と知り合い恋におちて身請けまでしていることです。酌婦といっても、要するに売春婦であったということです。その小料理屋に行ったのも、どうやら「まれに見る美女がいる」との話しにのせられて遊びにいったようなのです。

小林多喜二は、彼女に熱烈に手紙を書き教育を与えようとして、とうとう身請けして、結婚まで申し込んでいる。ノーマによれば、瀧子は、小林多喜二の名誉のために身を引いたということのようです。

天皇制を否定する「アカが嫌い」だったとの説もありますが、瀧子は、「そうではない。」と戦後になってきっぱり否定しているそうです。瀧子曰く「共産主義がどういう思想なのか研究することもなかったし、必要もなかった。小林が悪いことをするはずがなかった。絶対的に信用していた。」と述べたそうです。

■小樽第2回メーデー

小樽では1927年第2回メーデーが開催され、参加者は約3000人と東京以北最大規模なものだったそうです。小樽では、激烈な富良野の磯野小作争議、小樽港湾争議があった。どうやら、小林多喜二は、拓殖銀行に勤めながら争議に参加して生き生きと活動したようです。

■蟹工船

久しぶりに蟹工船を読んでみて、昔のように冷笑的にはなりませんでした。田舎くさい演出だと思った箇所も、ノーマ・フィールド本を読むと、小林多喜二がいかに労働者が小説を読んで自分の生活を描いているのかと思わせるように、こころを砕いていたことを理解できた気がします。

確かに、お高くとまっている風情はありません。露骨な「猥談」も書かれています。劇画的な筋立てて、クライマックスとラストが単純だが力強いことは間違いありません。きっと、昭和初期の労働者たちにうけたのでしょう。

その小林多喜二のアピール力を恐れて、日本警察は僅か一日で拷問で殺したのです。

■あまり「ゴリゴリ原則的」でないところがよい

小林多喜二は、共産党員によく見られるゴリゴリの原則論者ではなかったようです。警察に捕まった労働者(登場人物)に次のように語らせているそうです。

「お前ら達幹部みたいに、警察さ引っ張られて行けば、それだけ名前が出て偉くなったり、名誉になったりすんのと違うんだ」

■今もある「蟹工船」的職場

小林多喜二が描いた蟹工船の職場は今の日本にもあります。

それを一番感じるのは、日本まで来て働いているブラジル日系人の労働相談を受けたときです。いわゆる3Kの職場。食肉、弁当、飲料、菓子などの工場(それぞれ東証一部上場企業の立派な大工場。名前を出したいくらいです。判決文になったものは後で公表しましょう。)で、彼ら・彼女らは労災に罹災しています。おまけに偽装請負です。

安全装置を停止した食肉処理機にまきこまれて右腕に重症を負う女性労働者。フォークリフトの荷物運びに巻き込まれて怪我をする男性労働者。フォークリフトの回転にあたって転落して頸椎損傷を受けた男性。多くの人は日本語は片言しかできません。彼ら・彼女らへの安全教育や安全対策が行われていません。日本の安全教育テキストを、ただローマ字のフリガナをつけて配布して読ませている。ポルトガル語に訳されたのかと思うと、ただ日本語をローマ字表記しているだけなのです。「読めても、日本語がわからない」と彼らは言っています。これが日本の現実です。

裁判にすれば、あたかも、「詐病だ。わざと労災を起こした。」などと主張をする経営者側弁護士たちがいます。日系人に対する差別意識丸出しの先生たち。まあ偉そうなことったらありゃしねえ。みんな東証一部上場企業の顧問弁護士。お偉い「ブル弁」先生たちです(小林多喜二ならそう言うしょうね)。

まさに、「蟹工船」的世界です。

日本人の非正規労働者も同じ境遇なのでしょう。このことは、小樽商科大学の蟹工船読書感想文コンクールにあらわれています。(私たちはいかに『蟹工船』を読んだか。)51wfyk8dyyl_ss500_

///////////////////////////////////////////////////

■個別労働紛争から集団的労働紛争への回帰。労働運動の再生へ

世界恐慌に比較されている今回の大不況。

個別労働紛争の法論理だけでは、この大波は乗りこえられないのではないでしょうか。整理解雇の4要件であろと、4要素であろうと、世界恐慌並みの不況となれば労働者に不利です。

個別労働関係の法理では、限界があります。これから「労働者の団結と連帯の力」こそ求められる時代になったと思います。

小林多喜二は、何よりも非正規労働者の若者らに「蟹工船」が読まれていることを喜んでいることでしょう。

特高に殺された彼への最高の贈り物です。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2009年4月 | トップページ | 2009年6月 »