民法(債権法)改正と労働法(その2)
■NBL別冊126号 債権法改正の基本方針
以前に、民法改正と労働法の関連でコメントしましたが、その後、ずいぶん状況が変わったようです。
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2009/01/post-7211.html
民法(債権法)改正検討委員会がとりまとめた「債権法改正の基本方針」が発表されました(NBL別冊126号)。
上記改正検討委員会の事務局長・法務省民事局参与である内田貴教授によれば、この検討委員会は「学者の有志によって自発的に組織された全くの私的な研究グループであり、今後に想定される法制審議会でのオフィシャルな立法プロセスで参照されるべき資料の一つに過ぎない」だそうです(旬刊金融法務事情1867号)。しかし、周知のように、同検討委員会の事務局には法務相民事局付のメンバーが大量に入っており、単なる私的研究会と言われて真に受ける人はいないでしょうねえ。
内田教授は、どこかの弁護士会での講演で、「雇用の部分については今回の改正では触れない」と明言していると聞きました。しかし、それでも今回、発表されたものをみても労働法の重要な部分とかぶるところがあります。
■期間の定めのある労働契約の黙示の更新
一つは、日経でも報道された期間の定めのある労働契約の更新です。別冊NBL126号によれば、この点ついて次のように改正されるそうです。
雇用の期間が満了した後、労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件(期間を除く。)で更に雇用をしたものと推定する。
現行法は次のようになっています。
(雇用の更新の推定等)
民法629条
雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第627条の規定により解約の申入れをすることができる。
現在の労働法の通説や下級審裁判例では、更新した後も有期雇用契約になると解釈されています。法文上は、現行法が「同一の条件で更に雇用をしたものと推定する」としているので、同一の条件には、期間も含まれるということになります。
ところが、今度の改正では、(期間を除く。)とわざわざ明記することになるので、無期契約となります。そのように解釈するのが我妻民法です。ただ、そうなると、労契法16条の解雇権濫用法理がそのまま適用されることになります。我妻民法時代は、未だ、解雇自由の原則の時代ですから、随分状況が違います。
NBL別冊126号の解説を読んでも、労働法との接合は何ら触れていませんでした。まあ、労働者にとっては、有期よりも無期のほうが有利ですから、それで結構なわけですけれど、100年降りの民法改正作業という一大事業のわりは結構、無造作ですね。
■賃金請求権の消滅時効の延長
あと、債権の消滅時効もそうです。
何だか、債権の消滅時効の短期消滅時効を廃止して、3年だか5年に統一する案が出されています。
現在、周知のとおり、賃金請求権の民法上の消滅時効は1年です(民法174条)。これを労働基準法は、労働者保護の趣旨で、2年に延長しています(労基法115条)。労基法は労働条件の最低基準を設定した労働者保護法ですからね。
ところが、民法で債権の消滅時効を3年とか5年に延長した場合には、労基法も3年や5年に延長しなければならなくなります。なぜなら、労働者の最低労働条件を定めた労基法が民法よりも短い時効期間を定めるなんて背理ですから。
したがって、民法の消滅時効期間を延長するなら、労基法の消滅時効を民法にあわせて延長しなければなりません。これも労働者にとっては大歓迎な改正です。しかし、企業は猛反対するでしょうね。
■債務不履行責任の客観化と安全配慮義務
また、債務不履行責任についても、過失は廃止して、契約違反を中心に再構成するとの提案が出されています。労働法分野では、安全配慮義務についても影響が大です。
などなど、民法改正は要注目です。労働法に大きな影響を与えるようになると想います。
6月13日には日弁連も民法改正のシンポジウムを予定しています。
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)
最近のコメント