« 政治資金規正法の虚偽記載の故意とは? | トップページ | 法曹増員問題 - 三つの視点 »

2009年3月15日 (日)

不正競争防止法の改正案は「内部告発」を抑圧する

■不正競争防止法の一部改正案

先週土曜日大阪で開催された労働弁護団の全国幹事会に久しぶりに参加しました。そこで、2009年2月27日、「不正競争防止法の一部を改正する法律案」が今の通常国会に提出されていることを聞きました。同改正案の内容の要点は次の二点です。

①現行法の「不正競争の目的」(2条7号、21条1号等)から「図利・加害目的」(「不正の利益を得る目的」又は「保有者に損害を与える目的」)に改める

②現行法が営業秘密の「開示」・「使用」行為の時点で処罰するとした原則(法21条1号)を改め、その前段階での「不正取得」ないし「不法領得」の時点で処罰する

■労働者の権利行使に萎縮効果を与える

「営業秘密」(秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう)を取得して、権利行使として使用する場合は、けっこうあります。

労働者が、残業代請求をする場合、タイムカードが手元にない場合には、自己が使っていた営業報告書とか、営業日誌、電子メールのログ記録などを使って残業時間を証明しようとします。

解雇事件で、解雇の理由がないことを証明するために、営業報告書や顧客に提出した稟議書などを証拠として提出することもあります。

これらも営業秘密にあたります。これを裁判などに証拠として提出したり、弁護士に相談したさいに提供した場合に、不正競争防止法違反だということになりかねません。

今までなら、「不正競争の目的」とはいえないということになります。ところが、「保有者に損害を与える目的」という要件に変われば、残業代請求も、保有者(使用者)に残業代支払い義務を負わせる=損害を与える目的ということになり、目的要件は充足してしまいます。

営業報告書などが手続的に秘密として指定されており、そのコピーを会社のコピー機でコピーして持ち出していたなら、領得行為として、罰則が適用されかねません。裁判の証拠で使用する以上、そんなことはないという人は多いでしょう。それは確かにそうです。

でも、実際には、会社内では、「持ち出し行為は不正競争防止法で刑罰を課す」と徹底すれば、労働者を萎縮させるのに十分です。弊害が大きい。

■公益通報も、不正競争防止法違反になりかねない

労働者は、公益通報をしようとする場合には、一定の情報(営業秘密)を取得(領得)した上で行うのが普通です。

改正案のように不正競争防止法の目的要件を「不正競争の目的」を「保有者の損害を与える目的」と変更をし、さらに「領得行為」も処罰対象とすると、公益通報した労働者が不正競争防止法違反として処罰対象となりかねません、。

つまり、公益通報者も、内部告発によって、事業者(保有者)に損害を与えるという認識はあるため「目的要件」である「加害目的」を充足することになります。

そこで、営業秘密の領得が詐欺等行為又は管理侵害行為によってなされたか否かによって決せられることになります。

これは、公益通報者が刑罰規定違反の被疑者になり得るということです。内部通報を敵視する事業者が、不正競争防止法違反として、刑事告訴したらどうなるでしょうか。

これでは、公益通報者は、罰則適用される危険をおかして公益通報をしなければならなくなります。

■不正競争防止法改正は大問題

こんな大きな改正について、マスコミも報道していません。こんな改正案が国会に上程されているなんて消費者団体も知らないのでは? 

こんな改正案は反対です。これほど刑罰規定を拡大する必要性はありません。現行法の刑罰規定で十分対応できるはずです。

|

« 政治資金規正法の虚偽記載の故意とは? | トップページ | 法曹増員問題 - 三つの視点 »

労働法」カテゴリの記事

コメント

非常に興味深いエントリです。

>公益通報者が刑罰規定違反の被疑者になり得るということです。内部通報を敵視する事業者が、不正競争防止法違反として、刑事告訴したら<・・・

懸念はごもっともだと思います。

なお、下記に「公益通報制度」と「勤労権」について、素人ながら考えていることがあります。よろしければご覧ください。
http://geocities.yahoo.co.jp/gl/sa_saitama/comment/20090301/1235841095#comment
 

投稿: えんどう | 2009年3月16日 (月) 12時58分

大学院で法律を学んでいる者です。
大変面白いご意見ですが、今回の法改正によって「労働者の権利行使」や「公益通報者保護法との関係」に影響があるとは考えにくいと思います。
というのも、不正競争防止法で保護対象となる営業秘密には、「営業秘密の3要件(秘密管理性、有用性、非公知性)」というものがあり、かなり限定されています。
少なくともタイムカードや営業日誌は保護対象外となります。
また、公益通報者保護法の対象となる情報が営業秘密に該当する場合のみ、問題になりそうですが、その場合、社会通念上、公益通報者保護法が優先されるのではないでしょうか。

投稿: tokuro | 2010年12月 9日 (木) 00時46分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 不正競争防止法の改正案は「内部告発」を抑圧する:

« 政治資金規正法の虚偽記載の故意とは? | トップページ | 法曹増員問題 - 三つの視点 »