読書日記 「福祉政治」 宮本太郎 著
■生活保障=雇用レジーム+福祉レジーム
生活保障のためには、雇用にかかわる制度【雇用レジーム】と社会保障の福祉制度【福祉レジーム】があるといいます。
一国の生活保障の在り方は、この雇用レジームと福祉レジームの組み合わせとして分析できるとします。
■福祉レジーム
社会保障の体系を福祉レジームとしますが、欧米のそれは三つの類型に別れるそうです。
①自由主義レジーム(英米など)
市場原理を中心とした公的扶助でなく民間中心の体制
②社会民主主義レジーム(北欧)
労働組合、社会民主主義政党の下で公的な福祉を中心にした体制
③保守主義レジーム((独仏)
キリスト教民主主義政党の下で、職域や家族を基軸にした体制
■雇用レジーム
雇用や労働市場にかかわる制度と体制(解雇規制や賃金制度など)を意味しています。著者は、スウェーデンと日本を次のように比較します。
○スウェーデン
スウェーデンの賃金水準は、各企業の生産性や利潤率の如何を問わず同じ内容の労働であれば賃金も同じ(同一労働同一賃金)になる連帯賃金政策にもとづく(本書25頁)。
低生産性部門に属する中小零細の経営では、労働コストが収益を上回ってしまい、倒産においやられる。小国であるスウェーデンが国際経済で生き残るためには、こうした部門を抱えてはいられないという判断から、政府はこうした企業に対して保護措置はとらない。他方で、整理された部門から流出した労働力については、これが労働市場庁が展開する積極的労働市場政策、すなわち公的な職業訓練や職業紹介サービスを通して、高生産性部門に異動することを奨励する(本書27頁)
●日本
日本の雇用レジームは、業界毎に異なった制度と政策を展開し、男性稼ぎ主をそれぞれの企業や業界に囲い込みつつ、雇用保障を行うものであった。
高生産部門の民間大企業においては、企業集団内部での株式の相互持ち合いや、護送船団方式の行政指導によって、長期的視点にたつ安定経営が可能となった。こうした条件の下で大企業は、長期的雇用慣行を定着させ、企業内福利厚生を整備した。賃金は男性稼ぎ主の家族の生活費もカバーする家族賃金の性格を強めた。
他方で、第一次産業、地方の建設業、自営業などの低生産性部門については、日本の自由民主党は、スウェーデンの社会民主党と異なり、ここに重要な支持基盤を見出していた。したがって、公共事業によって地方の建設業に仕事を提供し、中小企業金融や保護・規制政策によって零細な流通業や自営業の経営を安定させるなどの方法で、低生産性部門の収益をいわばかさ上げして、そこでの雇用を守ったのである。(本書27~28頁)
■日本の福祉レジームと雇用レジーム
福祉レジームは保守主義です。また、雇用レジームは、「土建国家」的雇用保障と、福祉レジームの一部を担う企業主義的雇用保障で組織されているというわけです。そして、現在は、この雇用レジームが大きく崩れ、福祉レジームは自由主義レジームに転換したのです。
規範的根拠を求めるとすると、福祉レジームは憲法25条、雇用レジームは、憲法27条・28条ということですね。
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