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2009年3月18日 (水)

法曹増員問題 - 三つの視点

■日弁連の法曹人口に対する意見

日弁連執行部が法曹人口についての意見をとりまとめ、理事者会で可決されたようです。同意見のポイントは次の3点かと思います。

①将来の法曹人口を5万人とする目標を維持。
②閣議決定された法曹人口増加速度をペース・ダウンして、厳格に司法試験を審査して合格水準に達した者のみ合格させる(合格者水準は現状2100~2200人程度を目安)。
③増員のために法曹養成制度と司法基盤の充実をはかる

これに対して、有力な反対意見があります。その主張は論者により様々ですが、おそらく次のような意見ではないかと思います

①法曹人口5万人自体を撤回すべき
②司法試験合格者をもっと減少させるべき(人数は明示していないが、おそらく1000人程度を想定しているらしい)
③ロースクールは失敗だから旧司法研修所の法曹養成システムにもどす

裁判官は、上記反対意見と同様に考えている人が結構、多数じゃないかと感じます。検察官も「閣議決定が出たモノに何も言えません」という感じです。

■三つの視点

法曹人口、特に、弁護士人口増員を考えるときには、少なくとも、次の三つの視点からの検討が必要だと思います。

1 他士業との関係
   司法書士、社会保険労務士、行政書士は、それぞれの権限を、法律相談業務、代理業務等に進出しようと法律改正に熱心です。司法書士さんや行政書士さんの会合に出席したことがありますが、与党、野党の多数の国会議員が演壇に登壇し、「業界発展のために頑張ります」と誓約していました。
   他士業の皆さんは、弁護士増員には強く反対しています。市民の需要はこれらの隣接士業が吸収できるとして、自らの権限拡大を熱心にすすめています。政治家に対する影響力は弁護士会の比ではありません。弁護士会が、議員を業界として応援することなんて考えられないでしょう・・・。
 でも、他士業はそうじゃないんです。この動きは軽視できません。弁護士会として、どう対処すべきか。業界をバックにした国会議員の皆さんの動きにどう対抗できるか、とても楽観できる情勢ではないように思います。
 
2 いわゆる法曹の「質」の問題
   法曹の「質」の問題を言うと若手の弁護士には失礼ですが、ペーパーテストの成績に限れば、昔は500番くらいまでしか合格しなかったのが、今は2000番でも合格するわけです。私の時代には、択一試験はだいたい2500~3000人が合格したと聞いていますので、「知識の量」だけでいえば、昔の択一試験に合格したレベルで、論文試験で合格するということになります。ということで、上位の人は同じレベルでしょうが、ペーパーテストが下位の人は昔に比べれば受験技術レベルで低くなるのは否定しようがないでしょう。
   しかし、法曹の「質」がペーパーテストの点数で決まるものではないことは、実務家なら誰でも知っているとおりです。したがって、このペーパーテストだけで「法曹の質」とやらを判断するのは間違っています。だからこそ、ロースクールでの充実した実践的教育が期待されています。
 ところが、そのロースクールの授業が、法学部程度であったり、受験予備校レベルではないかという疑問を未だ払拭できてはいません。

 
3 弁護士の経済的基盤の問題
   法曹人口が増え、弁護士が増加すれば、弁護士の経済的基盤は危うくなる。弁護士の市場規模が変わらないのに、数が増えれば一人当たりの収入が減少するのは当たり前です。現状で、毎年2000人~3000人の弁護士を吸収するだけの需要が今の法律事務所にはないことは争いがありません。
   弁護士の市場規模が法曹増員の結果、増加するのであれば問題ない。つまり、本当の問題は、わが国では弁護士の市場規模が増大しないという点なのです。弁護士が増えたからといって、市場規模が自動的に増大しません。では、どうしたら弁護士の市場規模や需要が増加するのでしょうか。
 政策としては、法律扶助予算の増加、利用しやすい司法制度(民事訴訟制度、行政訴訟制度)に改革するしかないでしょう。

■現実論/未来はどっちか

 「弁護士需要なんか増えるわけがない。他士業もたくさんいるのだから、弁護士の数は少なくて良い。弁護士の増員数を毎年500~1000人程度に減らす。」 これを現実論とします。

 このような現実論では、「弁護士会の業界エゴ」で増員数を抑制したと非難されて、「他士業の権限拡大を促進する」ことになります。何しろ弁護士自ら「サルでもできる弁護士稼業」なんていうくらいですから。
 何も小難しい司法試験を合格しなくても、司法書士その他の他士業でもできるはず。そうなれば他士業の浸食を受けて、弁護士の経済的基盤は脆弱になるでしょう。

 で、法曹の「質」の方はといえば、ペーパーテストの競争試験上位の者しか合格しなくなり、受験生的な「質」は維持されることになります(真に求められる法曹の「質」が維持されるかどうかは怪しい。)。

 これは、まさに「縮小均衡」です。この路線では「明日はどっちだ?」という感じです。

■理想論/地獄への道は善意で舗装されている?

 理想論と言われても、利用しやすい司法制度(民事、家事、行政、労働、刑事弁護)に改革し、法律扶助予算を10倍~20倍くらい増額すれば、市民に使いやすい司法が実現するし、市民社会としても成熟(法の支配の確立)するし、弁護士にとってもうれしい結果になる。このように司法政策を抜本的に変更するためには、市民のニーズに応える弁護士を増員することを「旗印」にしなければ、上記の訴訟制度改革、法律予算の大幅拡大という政策も、市民に対する説得力がないと思います。

「そんなことが実現するわけがない。何をお人好しなことを抜かすか。このド阿呆!」と言われるのは覚悟の上です。また、政策実現の現実的な諸条件がないまま、弁護士増員路線をとれば、「地獄への道は善意で舗装されている」ということになる危険性があることも、否定しません。

でも、「どっちか選べ」と言われれば、どうせダメなら、理想論に近いほうに乗りたいのです。

日弁連は、将来の5万人を目標を維持しつつ、法曹養成制度の充実、司法基盤の拡充とのバランスを考えて、増員のペースダウンというボールを、コーナー低めに投げたというわけです。

法曹増員がらみの過去に書いたブログです。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2008/02/post_f3b3.html

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2008/03/post_842c.html

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