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2009年2月 8日 (日)

読書日記 「格差はつくられた」ポール・クルーグマン著

早川書房 2008年6月25日発行 2009年1月31日読了

もう大変に有名な著作を、遅まきながら読みました。

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米国で、福祉国家や社会保障が制度化されないのは、人種種別が底流にあるからというビックリするような、でもあまりに単純なお話しにはやはり驚きます。

すべての根源は、アメリカの人種差別問題にあるということである。今でも残る奴隷制度の悪しき遺産、それはアメリカの原罪であり、それこそが国民に対して医療保険制度を提供していない理由である。先進諸国の大政党の中でアメリカだけが福祉制度を逆行させようとしているのは、公民権運動に対する白人の反発があるからなのだ。

であれば、オバマ氏が新大統領になったからには、米国もヨーロッパ並みの福祉国家になる方向に大きく舵を切るということになるわけでしょうか。

クルーグマンは同書で、「保守派ムーブメント」を打ち負かすために、労働組合運動の再活性化と進歩派ムーブメントの結集を呼びかけています。

■労働運動の力、大圧縮の時代と大格差社会の時代

1930~50年代の「大圧縮の時代」と、現在の「大格差社会」との労使関係の違いを、「デトロイト協定」の下でのGMのCEOと労働者の格差と、現在のウオルマートの格差を対比している。

GMのCEO チャールズジョンソンの報酬は約430万ドル(現在に換算)
GMの労働者の平均年収は約4万ドル(現在に換算)

ウオルマートの会長リースコットの報酬は約2300万ドル
ウオルマートの労働者の平均年収は約1万8000ドル

なぜ、このような格差が許容されてきたのか。クルーグマンは次のようなコメントを紹介しています。

あるヨーロッパの企業コンサルタントがこう指摘している。「ヨーロッパでは(CEOの巨額の報酬に対する)社会的な反発がかなり考慮されるが、アメリカには羞恥心というものがないのだ

クルーグマン教授は、この格差が技術革新やグローバリーゼーションの結果ではないと言います。なぜなら、ヨーロッパも技術革新やグローバリーゼーションの影響を強く受けているが、米国のような格差拡大はしていないからと言います。

つまるところ、技術やグローバリーゼーションよりも制度と規範がアメリカにおける格差拡大の大きな原因であるという強い状況証拠がある。制度的な変化の良いれは、アメリカの労働運動の崩壊である。

そして、格差拡大を阻止して、圧縮の方向に変えるために労働運動の再活性化の措置をとることを断言しています。

最も重要な方策は、30年間に及ぶ労働組合に対する政府の締め付け政策を終わらせることである。

クルーグマンによると、アメリカでのリベラル派と進歩派とは次のように定義されるそうです。

リベラル派とは不正や格差を抑制する制度を信じる人々のことである。進歩派とは、それらの制度を擁護し拡大しようとする政治組織に参加する人のことである。

■日本では

日本では、労働運動に期待を寄せると言っても、悲しいかな、労働組合こそが正社員の利益しか守らないなどと非難されています。

1985年の国鉄分割民営化による「労働運動つぶし」は政府・企業の一大政策でした。1989年、総評が解体し、連合が「全的統一」されることによって、戦後の左派労働運動が大縮小したことは間違いありません。この25年間、経営者や政府がコントロールできない労働運動は締め付けと排除の対象となってきました。

同時に、それは民間大企業の中軸をになってきた労働者たち(=大企業労組)が経営陣との妥協(企業主義的妥協)を選択した結果にほかなりません。

このような一時代をくぐった日本で、「労働運動の再生」とは、一工夫が必要なのでしょうねえ。

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