ソマリア沖「海賊」対策としての海上自衛隊の派兵について
■なかなか難しい問題です。
「自衛隊は憲法9条違反であるから、ソマリア沖であろうと、瀬戸内海にいようと存在自体が違憲だ!」と切って捨てられれば、話しは簡単なのですが、そうもいきません。
自由法曹団が声明を発表しています。
http://www.jlaf.jp/jlaf_file/090203somaria-hehei-hantaiseimei.pdf
日本国憲法は、アジア・太平洋戦争の反省の上に立ち、非戦・非武装の恒久平和主義に立脚し、紛争の平和解決を目指している。したがって、たとえ日本船舶や日本向け物資を輸送している船舶が海賊に襲撃された場合であっても、軍事力によって海賊を制圧することは日本国憲法がおよそ予定していないものというべきである。
■う~ん。およそ予定していないって言えるか?
憲法9条は、「国際紛争を解決する手段としては、戦争と武力による威嚇又は武力の行使」を禁じただけですから、「ソマリア沖の海賊」が国際紛争(国家間の紛争)でない以上、「軍事力によって海賊を制圧することは日本国憲法がおよそ予定していない」と断言することはできないと思います。(もちろん、「軍事力を持たない日本国憲法だから、当然に予定していないのだ」と言えば、そのとおりですが、冒頭に述べたとおり、ここではそういう立場に立たないで、どう立論するかが問題なのです。)
例えば、日本沿岸で外国軍隊でない純粋な「民営海賊」が出没して日本船舶等を襲撃し、その海賊の武装・戦闘能力が海上保安庁の巡視船を凌駕している場合、海上自衛隊が制圧することは許されないのでしょうか。日本国憲法は、それを禁止するでしょうか。とても、そうは思えません。
自由法曹団でさえ、同声明の中で、次のように述べています。
海上警備行動は82条で「海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合」になし得るものとしているが、自衛隊法3条の規定に照らせば、海上警備行動の範囲は、日本の沿岸付近に限定されているというべきである。
この部分を読めば、自由法曹団も、日本の沿岸であれば、自衛隊の海上警備行動を許容しているように読めますから、上記の「軍事力によって海賊を制圧することは日本国憲法がおよそ予定していないものというべき」との論述と矛盾しています。
となると海上自衛隊のソマリア海域への派兵は、憲法9条の問題ではなく、自衛隊法上の海外での海上警備行動の根拠がないという法律問題となるということになるのでしょうか。
■海外派兵を予定していない
私個人としては、自衛隊については、専守防衛に徹することで、憲法9条と折り合いをつけるしかないと思っていますが(現状の自衛隊の装備が専守防衛と言えるか、また日米安保条約という大問題があるのですが、それは今は措きます)、専守防衛である以上、日本の領海以外で軍事行動をとることは原則として許されません。
ですから、自由法曹団のいう「日本国憲法がおよそ予定していない」のは、「軍事力によって海賊を制圧する」ことではなく、「海上自衛隊を海外に派遣する」ことというべきでしょう。
ソマリア沖は、日本から遠く離れた海外ですから、海賊対策であっても、自衛隊を派遣して軍事行動はできません。相手は「海賊」ですから、憲法9条が禁止する「国際紛争」を武力で解決しようとするものではありませんが、自衛隊の軍事行動である以上、海外派遣は謙抑的でなければならないでしょう。
そこで、自由法曹団の声明は、冒頭の部分は次のように書き換えたほうが良いように私には思えます。
・・・したがって、たとえ日本船舶や日本向け物資を輸送している船舶が海賊に襲撃された場合であっても、海上自衛隊を海外に派遣して海賊を軍事的に制圧することは日本国憲法がおよそ予定していないものというべきである
■本音
現在の自民党政権は、憲法9条を改正を企図し、また、自衛隊を軍隊として米軍世界戦略に組み込もうとしています。しかし、将来、憲法9条1項を維持し、自衛隊を専守防衛に徹した組織として、中立政策を追求する政府(自衛・中立路線)ができた場合には、自衛隊法を改正し、海外での海上警備行動ができるようにすることに賛成します。しかし、今の自民党政権の下でのソマリア沖への海上自衛隊の派遣には反対です。
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