スウェーデンが「解雇自由」だって?
■経済学者によると、北欧は「解雇自由の国」だそうです
著名な経済学者である方が、スウェーデン・モデルを論じて次のように書かれているそうです。
北欧の労働生産性が高いのは、解雇自由で労働移動がすみやかなことが原因といわれている。
■スウェーデンは社民党とLO(全国労働組合総連合)が作り上げた福祉国家
スウェーデンは、1928年には労働裁判所がつくられているそうです。ケインズなきケインズ政策といわれたミュルーダルのマクロ経済政策が有名です。また、スウェーデンの労働者の90%を組織する全国労働組合総連合(LO)のエコノミストだったレーンが推進した積極的雇用政策(レーン・モデル)も有名です。
そして1974年に、【雇用保護法】ができあがりました。こっちはあまり有名でない。LOの法律家であったオーメンの名をとってオーメン法と呼ばれるそうです。(なお、現在のスウェーデンは穏健党などの非左派系政府(2006年)ですが、社民党が長年にわたり政権を維持してきた歴史があり、スウェーデン福祉国家は社民党とLOがつくりあげたと言えます。)
この法律により、企業は従業員を正当な「客観的」理由なくして解雇することは認められなくなった。
生産の低下などによって解雇が避けられなくなった場合にも、一般的原則は長期間雇用者の雇用保障が優先され、45歳以上の従業員と障害者の雇用保障が優先されることになった。従業員が不当な理由で解雇されたと思う場合には裁判所に行って解雇の無効を宣言できる。そして問題が解決されるまで職にとどまることができる
やむを得ざる客観的理由によって解雇が必要な場合には、25歳以下の従業員の場合、解雇前1ヶ月の予告期間が必要であり、年齢が高いほど予告期間が長くなり、45歳以上の従業員には6ヶ月の予告期間が要請されるようになった。(丸尾直美著「スウェーデンの経済と福祉」中央経済社58~60頁・平成4年初版)
以上のとおり、スウェーデンは解雇自由の国ではまったくありませんでした。ドイツなどのヨーロッパ諸国のように解雇を規制し雇用保障を図る社会民主主義的な政策をとっています。
もっとも、完全雇用、福祉国家、強力な労働組合があるため、雇用保障政策の代償として1990年代は国際競争力を失い経済的困難にみまわれたことは事実のようです。とはいえ、基本的にヨーロッパ的な解雇規制(雇用保障)をもった社会民主主義経済体制(混合経済)だと思います。
スウェーデンを解雇自由の国と主張する経済学者の根拠は何なのでしょうか。ひょっとして、雇用保障法が最近に撤廃されて、ネオリベラリズムの政権ができあがったのでしょうか。そんなニュースは聞いたことはありません。でも、著名な経済学者が言うくらいですから、最新情報を調べてみた方がよいのかもしれません。
■JILの研究報告を見ると
と思って、ネットで探してみたら、JILの研究報告がありました(平成17年3月発行)。「労働条件決定の法的メカニズム: 7ヶ国の比較法的考察」です。そこにスウェーデンの状況がレポートされています。上記の私が昔読んだ丸尾直美先生の著作(平成4年初版)より、雇用保護法が規制緩和されて、有期雇用契約の活用が拡大されているようです。
http://www.jil.go.jp/institute/reports/2005/documents/019_4.pdf
とはいえ、基本的な雇用保障である解雇規制は維持されています。やはり、解雇自由とするのは全くの事実誤認のようです。
■北欧であってスウェーデンのことではないって言うことかしら
なお、著名な経済学者が「北欧は・・・解雇自由」って書かれています。まさか、スウェーデン以外の北欧のことだって言わないでしょうね。同氏のブログの冒頭にはスウェーデン・モデルが指摘されているので、北欧の雄であるスウェーデンについて論じているとしか読めませんから。北欧を論じる以上、スウェーデンを除外したなんてことはないでしょうね。
★追伸/「スウェーデンの今」 佐藤よしひろ氏のブログ
スウェーデンに7年間、留学している研究者のブログがありました。大変に面白いブログです。
http://blog.goo.ne.jp/yoshi_swe/e/c1400edd87505af7feef5db2752875a7
『雇用保護法』(Lagen om anställningsskydd)(通称、LAS):1982年制定
- 解雇には“正当な理由”が必要。“正当な理由”としては、①与える仕事がなくなった、もしくは、企業に経済的な余裕がなくなった場合、②労働者自身の問題、つまり、業務における怠慢・不注意や能力不足など、に限られる。
- ①の理由で解雇を行う場合には、まず誰から切っていくか、つまり「解雇順序の規則」が決められている。俗に「Sist in, först ut (Last in, first out)」と呼ばれるように、勤続年月が一番少ない人から解雇されることになっている。勤続年数を数える場合には、45歳以降に勤めた年数は2倍されて算入される。つまり、中高年の労働者には有利な規則だが、これは再就職が比較的に難しい中高年の労働者を保護することを目的としている。-------
財界や経営者団体、それから深い繋がりを持つ保守党などは、この面倒くさい『雇用保護法』自体を廃止してしまいたい。しかし、今の世論を考えた場合に、近い将来は不可能だ。(ただ、ここ数年、保守党もかなり大きな路線転換をして、より“労働者寄り”をアピールしている。これについては後ほど。)
| 固定リンク
「労働法」カテゴリの記事
- フリーランス新法と労働組合(2023.04.28)
- 「労働市場仲介ビジネスの法政策 濱口桂一郎著(2023.04.13)
- 「フリーランス保護法」案の国会上程(2023.02.26)
- 働き方開殻関連法の労組向け学習会(出版労連)(2018.10.07)
- 改正民法「消滅時効」見直しと年次有給休暇請求権の時効(2018.06.06)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント