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2009年1月14日 (水)

ちょっと意外な、大竹文雄先生の「非正規雇用問題」

■私には「意外な」大竹教授の結論

大竹文雄教授のブログで、「非正規雇用問題」についての論説がアップされています。
http://ohtake.cocolog-nifty.com/ohtake/2009/01/post-effd.html#more

不況という負の経済ショックを誰が負担するか、という問題に私たちは直面している。関連する利害関係者は、企業および株主、正規労働者、非正規労働者の3者である。その中で、非正規労働者が集中的に負担しているのだ。

もちろん、株価が下落することで株主が損失を負ったというのも事実である。しかし、2002年以降の景気回復期には、企業収益が増加し続け、株価が高騰したにも関わらず、労働者の賃金は上昇しなかったことを忘れてはならない。好況期に積み上げた内部留保を使って企業が雇用を維持するのが筋であろう。
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 蓄積した内部留保では、企業が雇用や賃金を維持できない、というのであれば労働者も負担を引き受けざるを得ない。しかし、正社員の既得権益を守るために非正社員に負担を押しつけていいだろうか。非正社員が不安定な雇用と引き換えに高い賃金をもらっていたのだろうか。実態は逆である。
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企業も正規労働者も、自ら分配問題を解決できないということであれば、政府の出番である。好況期の過大な内部留保から便益を受けた資本家や高所得層の課税を強化し、低所得層へ所得を再分配するか、公的支出を増やして、職を失った人たちを雇用すべきである。教育・保育・介護等公的サービスの不足分野は多い。90年代の不況を就職氷河期の若者にしわ寄せし、今回の不況で彼らにとどめを刺すというのが、日本人の不況対策だとすれば情けない。(「毎日新聞」2008.12.26)

大竹教授は、「解雇無効とする判決が出されると、当該地域の失業率が上がる」との論文を発表されていました。この立論にはまったく賛成できませんでしたが、上記の論説の結論には大賛成です。

え~っと、私の印象では、大竹教授の経済論からいくと、「不景気の下でこそ、正社員の既得権を剥奪すべき。そうしないと、もっと失業率が上がる。」という結論なのだ思っていました。上記の大竹教授の論説は極めて意外です(なにしろ共産党の往年の主張と一緒ですからねえ)。私は、大竹先生の「経済学的思考」をまったく理解できていないということのようです。

■解雇回避努力と非正社員の雇用調整

また、大竹教授な整理解雇に関して、次のように指摘されています。

新規採用の停止や非正社員の雇い止めをすることが、解雇権濫用法理という判例法理のなかで、企業の解雇回避努力として評価されるいうことも問題だ。

整理解雇の4要件(要素)の1要件である「解雇回避努力」として、非正社員から人員整理することを解雇回避努力の一内容としている下級審判例に対する批判です。

この指摘も正しいと思います。解雇回避努力は、非正社員の人員整理を意味するものではありません。経費削減、人員配転、取締役の報酬の削減こそが解雇回避努力の中心要素です。

1970年代であれば、非正社員の比率は全労働者の10%以下でした。そして、非正社員の大多数は家計補助的なパート労働者という実態があったでしょう。したがって、その当時、裁判所が非正規労働者の雇用調整が解雇回避努力の一つとしたことも一定の理由があると思います。

しかし、今や、非正規労働者が全労働者の3分の1を占め、正社員の賃金抑制施策の結果、もはや家計補助的ではなく、その収入によって家計を支える比率が増大しています。また、「不本意」非正規労働者が増加しています。
このような現代にあっては、非正規労働者の雇い止めを正社員解雇の必要条件とすることは認められないと思います。

■無駄な役員報酬などの削減こそ解雇回避努力

明治図書整理解雇事件がありました。労働者を整理解雇しながら、取締役会長が週数時間しか会社に出てこないにもかかわらず、年間役員報酬として4000万円を取得していました。労働者側は、この4000万円の報酬を削減していないことを解雇回避努力を尽くしていないと主張しました。裁判所は、会長が創業者であること等を理由に4000万円の役員報酬を削減しないからといって、解雇回避努力を尽くしていないとは言えない、と仮処分で判断して、確か整理解雇を有効と判断しました。

役員報酬を削減しなくて良いとしながら、非正社員の雇い止めをしているから解雇回避努力を尽くしているとするのは、誰が見ても不合理ではないでしょうか。

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