有期契約労働者と整理解雇法理
■有期契約労働者の雇止めにも整理解雇法理が類推適用される
実質的に期間のない労働契約に転化している有期契約を締結している労働者(実質無期タイプ)、そこまでいかなくとも、雇用継続について合理的な期待を有している有期契約を締結している労働者(期待保護タイプ)についての雇い止めについては、整理解雇の法理(現在は、労働契約16条の規定)が類推適用されることは確立した最高裁判例です(著名な東芝柳町工場事件-最高裁昭和49年7月22日判決、日立メディコ事件-最高裁昭和61年12月4日判決)。
■整理解雇基準は緩和されて適用されるのか
論点の一つ(A)は、有期契約労働者の場合には、正社員と比較して、整理解雇基準が緩和されるのか、ということです。
これについては、雇用継続への合理的期待をもった有期契約労働者につき、正社員と同様の厳格な基準としては適用されないことを日立メディコ事件最高裁判決は次のとおり明言しています。
「 臨時員の雇用関係は、比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、雇止めの効力を判断する基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異がある」
この点は、有期労働契約の締結をヨーロッパのように合理的な理由がある場合に限定していない日本の法解釈論としては、有期契約労働者に対しては、整理解雇の基準は緩和されるというしかないでしょう(ただし、実際の訴訟では、それでも、有期契約労働者への整理解雇が無効とされた事案は珍しくありません。有名なところでは三洋パート社員事件大阪地裁判決、丸子警報器・雇止め事件東京高裁判決など)。
■解雇回避努力として非正規が「優先」で雇止めすることが必要か
もう一つの論点(B)として、企業が経営上の理由に基づいて整理解雇をする場合に、有期契約労働者を優先的に人員整理の対象としなければならないのか、という問題です。この論点は、①「有期契約労働者を整理解雇をする場合には、正社員を含めた希望退職募集などの解雇回避努力を尽くさなければならないのか」という面と、②「正社員を整理解雇する場合には、有期契約労働者に対する人員削減(整理解雇を含む)をしなければ解雇回避努力を尽くしたいえないのか」という面が裏表になっています。
この点について、日立メディコ事件最高裁判決は、次のように述べて、正社員について希望退職募集をすることなく、臨時工を全員を雇止めをしてもやむを得ないとしました。
「 独立採算制が採られているYの柏工場において、事業上やむを得ない理由により人員削減をする必要があり、その余剰人員を他の事業部門へ配置転換をする余地もなく、臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には、これに先立ち、期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかったとしても、それをもって不当・不合理であるということはできず、希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきである。」
西谷敏教授は、新著「労働法」(日本評論社)439頁で日立メディコ事件最高裁判決の上記判断部分を批判されています。
日立メディコ事件最高裁判決の上記判示部分を読むと、当該個別事案についての事実関係を踏まえての判断であり、事実関係が異なれば、正社員についても希望退職募集を実施すべき場合もあると読むべきでしょう。その意味で論点Aについては、最高裁は、一般論としての判断していますが、この論点Bについては、個別事件の事例判断にとどまっていると読めます。
この日立メディコ事件最高裁判決を根拠として、整理解雇では、有期契約労働者を先ず人員削減(整理解雇・雇止め)の対象とすべきであると理解されてきたのでしょうが、上記のとおり、個別事案での判断であって一般化すべきだとは思えません。その意味では、何も整理解雇法理の修正という大げさのものではないはすなのですが。
■過去の社会的な枠組みの見直しを
ただ、労使の現実では、有期契約労働者を含む非正規労働者を「雇用の調整弁」であることを、労使が合意した基本的な枠組み(労使の社会的妥協?)として固定化してきたといえます。そして、この「労」とは大企業の正社員労組ということになります。
この「雇用の調整弁」という労使の枠組みこそ、見直しをすべきだと思います。では、どのように見直すべきなのでしょうか。
やはり、希望退職募集の以外(以前)の解雇回避努力を重視すべきだと思います。経費削減、残業制限、役員報酬削減、一時休業などです。株主への配当金の削減や次期繰越利益などのチェックも必要でしょう。もっとも、配当金や繰越利益がある場合には、そもそも経営上の必要性がないという判断になるでしょうが。
整理解雇法理の規範内容の修正も重要ですが、本来、何よりも重要なのは、上記のような必要性や解雇回避措置について、労働組合が企業と対等な立場で交渉できる枠組み(社会的・制度的枠組み)をつくりあげることなのでしょう。しかし、ヨーロッパと違い強力な産業別労組や労働運動が存在しない日本では、労組のたたかいにだけで、それが確立されるのを待っているのでは相当な期間がかかりそうです。
そこで、日本では「政治」(政府)の役割が極めて重要ということになります。今年の総選挙で、労働・雇用に関して選挙の政治争点になることを期待したいものです。
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