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2009年1月10日 (土)

誰が「痛みを分かつべき」なのか

■非正規雇用者の雇用保護のための賃金抑制

新聞報道を読んでいると、経営側は、雇用維持のため賃金を抑制、ないし賃下げするべきだとの意見を強く主張しているようです。マスコミの一部には正社員労組は、非正規労働者の雇用を守ってこなかったとして、賃下げをせまる意見もあるようです。

正規と非正規の利害の対立をあおるやり口は、小泉的手法ですね。

2000年以降の統計を見れば、正規労働者が既得権を維持するどころか、労働者全体の所得が減り、株主と企業経営者が大幅な利益を得ているのは明白です。

■統計結果に見る格差 「得しているのは誰か」

内閣府国民経済計算を見ると http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/toukei.html#kakuho

2000年の労働者の所得(雇用者報酬)は271兆円。2007年は265兆円に減少しています。

財務省の法人企業統計を見ると http://www.mof.go.jp/ssc/kekka.htm

民間企業の経常利益は358兆円から534兆円に1.5倍増加し、役員報酬は8000億円から2005年の1兆5000億円に倍増です。内部留保は3兆円から11兆円の4倍と大幅にためこんでいます。

株主への配当金は、なんと5兆円から14兆円に3倍近くに激増しているのです。

     ↓

上記をまとめた表を下記にアップしておきます。

「kakusa.xls」をダウンロード

「痛みを分かち合う」と言うなら、誰がもっとも痛みを引き受けなければならないか、は明白だと思います。つまり、資本家階級こそが痛みを負担しなさいということです。

こう言えば、必ず「企業の国際競争力を維持するべき」との大合唱がはじまります。また、「お金持ちに増税すると国外に出て行き、日本は貧乏人だけの社会になり、消費も雇用も少なくなって、結局、貧乏人のためにならない。」と言う声もあがります。

まず、役員報酬を下げても、日本企業の競争力は削がれないでしょう。外資が、今時のアメリカかぶれの日本人経営者を優秀だなんて思うわけがありません。奴らは、逃げるに逃げられません。そもそも、その手の経営者は優秀とはとても思えません。

次に、「金持ちが国外に逃げる」と日経あたりが新聞で書くのでしょう。金持ち連中が「カネをもって外国に逃げる」と言ったら、私たちは胸をはって、「結構、お前らこそ出て行け。貧乏人だけで頑張るから。二度と日本に帰ってくるな。」と言ってやりましょう。

「富裕層からお金が滴り落ちてきて、経済全体がうまくいく」(トリクルダウン)と言っていたアメリカがこの現状を作り出したのですから。一部の大金持ちに頼っても、経済は悪くなるだけというのが歴史が証明しています。

株式配当で不当にもうけた富裕層と企業に増税をすべきです。その資金で、積極的労働対策(教育対策、労働市場対策、職業訓練対策)に、もっとお金をかけるべきです。

■因果応報。そして、塞翁が馬

経済のことはわかりませんが、景気・不景気は世の常です。1985年、円高不況のときは「これで日本の製造業は崩壊する」と言われ、バブル景気のときには、そんな危機意識は忘れ去られ、バブル崩壊の長期不景気になれば、このまま「日本消滅」という風潮でした。

この不景気が3年続くか、5年続くかはわかりません。でも、いずれ景気が回復することは間違いありません(高度経済成長は無理でも)。今の大不況と雇用不安に対して、労働関連法制は、当面の緊急対応策をとることしかできないでしょう。 いくら労働関連法制で規制を強化しても、景気を良くすることはできない。できることは、安易な解雇を規制し、雇用確保のための労使協議手続を整備し、雇用保険や失業者対策などのセイフティーネットを整備することができるくらい(もっとも、この対策が極めて重要ですが)。

他方、中期的には、このような不景気になっても、働く人々の痛みを少なくし、安定と公正が維持できる雇用システムを構想することが必要です。短期的な対策にのみ目を奪われないようにしたいものです。

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コメント

 >非正規雇用者の雇用保護のための賃金抑制<

 かつて八代氏が言っていた理解と同じような方向にマスコミを通して国民が巻き込まれることが懸念されるようになって来ました。氏の理解は“正社員は非正規社員をダシにしている”というものでした。

 株主配当や利益の内部留保等と、労働者全体との労働分配率の問題を無視した意見は論破されなければなりませんね。

投稿: 元ウルトラ警備隊 | 2009年1月12日 (月) 01時36分

 連投容赦ください

 なお、池田信夫氏などは「労働分配率を上げようと思ったら、不況にするのが手っ取り早い。」と述べています。つまり不況になると企業の利益は下がり、一方で解雇できない正社員の賃金は固定パラメタとして残りますから、相対的に労働配分率は上がるわけですから。
 しかし、これは所謂“チキンレース”的論理であって、誰もこのような破滅の論理で物事を進めようという人はいないでしょう。彼は、特殊なものを一般化して論理のすり替えを行っているのだと考えられます。

投稿: 元ウルトラ警備隊 | 2009年1月12日 (月) 09時47分

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