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2009年1月18日 (日)

有期契約労働者と整理解雇法理

■有期契約労働者の雇止めにも整理解雇法理が類推適用される

実質的に期間のない労働契約に転化している有期契約を締結している労働者(実質無期タイプ)、そこまでいかなくとも、雇用継続について合理的な期待を有している有期契約を締結している労働者(期待保護タイプ)についての雇い止めについては、整理解雇の法理(現在は、労働契約16条の規定)が類推適用されることは確立した最高裁判例です(著名な東芝柳町工場事件-最高裁昭和49年7月22日判決、日立メディコ事件-最高裁昭和61年12月4日判決)。

■整理解雇基準は緩和されて適用されるのか

論点の一つ(A)は、有期契約労働者の場合には、正社員と比較して、整理解雇基準が緩和されるのか、ということです。

これについては、雇用継続への合理的期待をもった有期契約労働者につき、正社員と同様の厳格な基準としては適用されないことを日立メディコ事件最高裁判決は次のとおり明言しています。

「 臨時員の雇用関係は、比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、雇止めの効力を判断する基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異がある」

この点は、有期労働契約の締結をヨーロッパのように合理的な理由がある場合に限定していない日本の法解釈論としては、有期契約労働者に対しては、整理解雇の基準は緩和されるというしかないでしょう(ただし、実際の訴訟では、それでも、有期契約労働者への整理解雇が無効とされた事案は珍しくありません。有名なところでは三洋パート社員事件大阪地裁判決、丸子警報器・雇止め事件東京高裁判決など)。

■解雇回避努力として非正規が「優先」で雇止めすることが必要か

もう一つの論点(B)として、企業が経営上の理由に基づいて整理解雇をする場合に、有期契約労働者を優先的に人員整理の対象としなければならないのか、という問題です。この論点は、①「有期契約労働者を整理解雇をする場合には、正社員を含めた希望退職募集などの解雇回避努力を尽くさなければならないのか」という面と、②「正社員を整理解雇する場合には、有期契約労働者に対する人員削減(整理解雇を含む)をしなければ解雇回避努力を尽くしたいえないのか」という面が裏表になっています。

この点について、日立メディコ事件最高裁判決は、次のように述べて、正社員について希望退職募集をすることなく、臨時工を全員を雇止めをしてもやむを得ないとしました。

「 独立採算制が採られているYの柏工場において、事業上やむを得ない理由により人員削減をする必要があり、その余剰人員を他の事業部門へ配置転換をする余地もなく、臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には、これに先立ち、期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかったとしても、それをもって不当・不合理であるということはできず、希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきである。」

西谷敏教授は、新著「労働法」(日本評論社)439頁で日立メディコ事件最高裁判決の上記判断部分を批判されています。

日立メディコ事件最高裁判決の上記判示部分を読むと、当該個別事案についての事実関係を踏まえての判断であり、事実関係が異なれば、正社員についても希望退職募集を実施すべき場合もあると読むべきでしょう。その意味で論点Aについては、最高裁は、一般論としての判断していますが、この論点Bについては、個別事件の事例判断にとどまっていると読めます。

この日立メディコ事件最高裁判決を根拠として、整理解雇では、有期契約労働者を先ず人員削減(整理解雇・雇止め)の対象とすべきであると理解されてきたのでしょうが、上記のとおり、個別事案での判断であって一般化すべきだとは思えません。その意味では、何も整理解雇法理の修正という大げさのものではないはすなのですが。

■過去の社会的な枠組みの見直しを

ただ、労使の現実では、有期契約労働者を含む非正規労働者を「雇用の調整弁」であることを、労使が合意した基本的な枠組み(労使の社会的妥協?)として固定化してきたといえます。そして、この「労」とは大企業の正社員労組ということになります。

この「雇用の調整弁」という労使の枠組みこそ、見直しをすべきだと思います。では、どのように見直すべきなのでしょうか。

やはり、希望退職募集の以外(以前)の解雇回避努力を重視すべきだと思います。経費削減、残業制限、役員報酬削減、一時休業などです。株主への配当金の削減や次期繰越利益などのチェックも必要でしょう。もっとも、配当金や繰越利益がある場合には、そもそも経営上の必要性がないという判断になるでしょうが。

整理解雇法理の規範内容の修正も重要ですが、本来、何よりも重要なのは、上記のような必要性や解雇回避措置について、労働組合が企業と対等な立場で交渉できる枠組み(社会的・制度的枠組み)をつくりあげることなのでしょう。しかし、ヨーロッパと違い強力な産業別労組や労働運動が存在しない日本では、労組のたたかいにだけで、それが確立されるのを待っているのでは相当な期間がかかりそうです。

そこで、日本では「政治」(政府)の役割が極めて重要ということになります。今年の総選挙で、労働・雇用に関して選挙の政治争点になることを期待したいものです。

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2009年1月14日 (水)

ちょっと意外な、大竹文雄先生の「非正規雇用問題」

■私には「意外な」大竹教授の結論

大竹文雄教授のブログで、「非正規雇用問題」についての論説がアップされています。
http://ohtake.cocolog-nifty.com/ohtake/2009/01/post-effd.html#more

不況という負の経済ショックを誰が負担するか、という問題に私たちは直面している。関連する利害関係者は、企業および株主、正規労働者、非正規労働者の3者である。その中で、非正規労働者が集中的に負担しているのだ。

もちろん、株価が下落することで株主が損失を負ったというのも事実である。しかし、2002年以降の景気回復期には、企業収益が増加し続け、株価が高騰したにも関わらず、労働者の賃金は上昇しなかったことを忘れてはならない。好況期に積み上げた内部留保を使って企業が雇用を維持するのが筋であろう。
 ・・・・・・
 蓄積した内部留保では、企業が雇用や賃金を維持できない、というのであれば労働者も負担を引き受けざるを得ない。しかし、正社員の既得権益を守るために非正社員に負担を押しつけていいだろうか。非正社員が不安定な雇用と引き換えに高い賃金をもらっていたのだろうか。実態は逆である。
 ・・・・・・・
企業も正規労働者も、自ら分配問題を解決できないということであれば、政府の出番である。好況期の過大な内部留保から便益を受けた資本家や高所得層の課税を強化し、低所得層へ所得を再分配するか、公的支出を増やして、職を失った人たちを雇用すべきである。教育・保育・介護等公的サービスの不足分野は多い。90年代の不況を就職氷河期の若者にしわ寄せし、今回の不況で彼らにとどめを刺すというのが、日本人の不況対策だとすれば情けない。(「毎日新聞」2008.12.26)

大竹教授は、「解雇無効とする判決が出されると、当該地域の失業率が上がる」との論文を発表されていました。この立論にはまったく賛成できませんでしたが、上記の論説の結論には大賛成です。

え~っと、私の印象では、大竹教授の経済論からいくと、「不景気の下でこそ、正社員の既得権を剥奪すべき。そうしないと、もっと失業率が上がる。」という結論なのだ思っていました。上記の大竹教授の論説は極めて意外です(なにしろ共産党の往年の主張と一緒ですからねえ)。私は、大竹先生の「経済学的思考」をまったく理解できていないということのようです。

■解雇回避努力と非正社員の雇用調整

また、大竹教授な整理解雇に関して、次のように指摘されています。

新規採用の停止や非正社員の雇い止めをすることが、解雇権濫用法理という判例法理のなかで、企業の解雇回避努力として評価されるいうことも問題だ。

整理解雇の4要件(要素)の1要件である「解雇回避努力」として、非正社員から人員整理することを解雇回避努力の一内容としている下級審判例に対する批判です。

この指摘も正しいと思います。解雇回避努力は、非正社員の人員整理を意味するものではありません。経費削減、人員配転、取締役の報酬の削減こそが解雇回避努力の中心要素です。

1970年代であれば、非正社員の比率は全労働者の10%以下でした。そして、非正社員の大多数は家計補助的なパート労働者という実態があったでしょう。したがって、その当時、裁判所が非正規労働者の雇用調整が解雇回避努力の一つとしたことも一定の理由があると思います。

しかし、今や、非正規労働者が全労働者の3分の1を占め、正社員の賃金抑制施策の結果、もはや家計補助的ではなく、その収入によって家計を支える比率が増大しています。また、「不本意」非正規労働者が増加しています。
このような現代にあっては、非正規労働者の雇い止めを正社員解雇の必要条件とすることは認められないと思います。

■無駄な役員報酬などの削減こそ解雇回避努力

明治図書整理解雇事件がありました。労働者を整理解雇しながら、取締役会長が週数時間しか会社に出てこないにもかかわらず、年間役員報酬として4000万円を取得していました。労働者側は、この4000万円の報酬を削減していないことを解雇回避努力を尽くしていないと主張しました。裁判所は、会長が創業者であること等を理由に4000万円の役員報酬を削減しないからといって、解雇回避努力を尽くしていないとは言えない、と仮処分で判断して、確か整理解雇を有効と判断しました。

役員報酬を削減しなくて良いとしながら、非正社員の雇い止めをしているから解雇回避努力を尽くしているとするのは、誰が見ても不合理ではないでしょうか。

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2009年1月12日 (月)

普通に、おかしいって思うのですけど

前回のブログ「誰が『痛みをわかつべき』なのか」にて、、「資本家階級」こそ痛みを分かちあうべき人たちだと書きました。これを小倉秀夫弁護士に引用( http://benli.cocolog-nifty.com/la_causette/2009/01/post-ea60.html )していただいたところ、小倉弁護士に対して、経済学者や匿名の方々からいろいろなコメントが寄せられています。

で、私は、経済学のことはまったくわかりませんが、ちょっと何も言わないのも申し訳ないので、少しこわごわコメントします。何しろ、近代経済学の教科書を通読したことはありません。しかも、私らの大学法学部教養課程の経済原論はマルクス主義経済学でしたし・・・(と、先に逃げを打っておきます)。

とはいえ、ごく普通の国民が次のデータを見ると、おかしいと思うんじゃないのか、と思うのです。

■国内総生産の配分

前回のブログでも引用しましたが、政府統計を見ると、この7年間の国内総生産等の実額の推移は次のとおりです。

年度

2000 2005 2007

国内総生産

504.1 503.2 515.9   

国民所得

371.8 365.9 374.8   

雇用者報酬

271.3 259.6 265.7   

民間法人企業所得

44.4 46.8 49.3   

役員報酬

0.8 1.5    -

配当金

4.8 12.5 14.0   

内部留保

2.7 9.1 11.3   

(単位・兆円)

国内総生産は10兆円増加している(生産はあがっている)。国民所得も3兆円増加した(所得も増加した)。でも、雇用者報酬は5兆円減少し、他方で、役員賞与は7000億円増加し、株主への配当は10兆円近く増加している。企業の内部留保も9兆円増加している。

つまり、生産が増加し、所得が増えたけど、それをもらったのは企業サイドや大株主ということですね。(これって普通そう思うしかない)

他方で、不景気となれば、非正規労働者の雇用が打ち切られ、雇用流動化を進めた結果、雇用保険などの社会保障も受けられない人々が激増しているわけです。(なお、株主も株価が下がって大ソンですが、株価があがったときには大もうけしているのですから、それこそ「自己責任」でっしゃろ。)

この事態は、改善すべき社会的課題だと思うのです。まあ、そう思わない人々が少なからずいるのも日本の現実なのですね。

西ヨーロッパでは社会問題だと捉えて、なんだかんだいっても福祉国家を築き上げてきた。アメリカ合衆国でも、政治が解決すべき課題だと人々が認識したのので、オバマ新大統領が当選したと言えるのではないでしょうか。

■労働分配率って何だか詳しいことは知りませんが・・・

でも、労働分配率は日本は高止まりだとの指摘もあるようです。他方で、労働分配率については、三菱総合研究所の後藤康雄氏が次のような点を指摘されています。

http://www.mri.co.jp/COLUMN/ASPECT/GOTO/20070201GY.html

Gotou20070201gy_02

///////////////

後藤氏の指摘のように、固定資本減耗率を含めると労働分配率は上記の下側のグラフのように減少しているとのことです。どっちが経済の実態を反映したものかは、私には判断はつきかねます。

実額ベースの統計から、「家計サイド」(「労働者階級」って言い換えても良い)の取り分が減少し、「企業経営者」と「大株主」ら(「資本家階級」って言い換えても良い)が大幅に取り分を得ているとの判断が誤りとは言えないと思えます。

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2009年1月10日 (土)

誰が「痛みを分かつべき」なのか

■非正規雇用者の雇用保護のための賃金抑制

新聞報道を読んでいると、経営側は、雇用維持のため賃金を抑制、ないし賃下げするべきだとの意見を強く主張しているようです。マスコミの一部には正社員労組は、非正規労働者の雇用を守ってこなかったとして、賃下げをせまる意見もあるようです。

正規と非正規の利害の対立をあおるやり口は、小泉的手法ですね。

2000年以降の統計を見れば、正規労働者が既得権を維持するどころか、労働者全体の所得が減り、株主と企業経営者が大幅な利益を得ているのは明白です。

■統計結果に見る格差 「得しているのは誰か」

内閣府国民経済計算を見ると http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/toukei.html#kakuho

2000年の労働者の所得(雇用者報酬)は271兆円。2007年は265兆円に減少しています。

財務省の法人企業統計を見ると http://www.mof.go.jp/ssc/kekka.htm

民間企業の経常利益は358兆円から534兆円に1.5倍増加し、役員報酬は8000億円から2005年の1兆5000億円に倍増です。内部留保は3兆円から11兆円の4倍と大幅にためこんでいます。

株主への配当金は、なんと5兆円から14兆円に3倍近くに激増しているのです。

     ↓

上記をまとめた表を下記にアップしておきます。

「kakusa.xls」をダウンロード

「痛みを分かち合う」と言うなら、誰がもっとも痛みを引き受けなければならないか、は明白だと思います。つまり、資本家階級こそが痛みを負担しなさいということです。

こう言えば、必ず「企業の国際競争力を維持するべき」との大合唱がはじまります。また、「お金持ちに増税すると国外に出て行き、日本は貧乏人だけの社会になり、消費も雇用も少なくなって、結局、貧乏人のためにならない。」と言う声もあがります。

まず、役員報酬を下げても、日本企業の競争力は削がれないでしょう。外資が、今時のアメリカかぶれの日本人経営者を優秀だなんて思うわけがありません。奴らは、逃げるに逃げられません。そもそも、その手の経営者は優秀とはとても思えません。

次に、「金持ちが国外に逃げる」と日経あたりが新聞で書くのでしょう。金持ち連中が「カネをもって外国に逃げる」と言ったら、私たちは胸をはって、「結構、お前らこそ出て行け。貧乏人だけで頑張るから。二度と日本に帰ってくるな。」と言ってやりましょう。

「富裕層からお金が滴り落ちてきて、経済全体がうまくいく」(トリクルダウン)と言っていたアメリカがこの現状を作り出したのですから。一部の大金持ちに頼っても、経済は悪くなるだけというのが歴史が証明しています。

株式配当で不当にもうけた富裕層と企業に増税をすべきです。その資金で、積極的労働対策(教育対策、労働市場対策、職業訓練対策)に、もっとお金をかけるべきです。

■因果応報。そして、塞翁が馬

経済のことはわかりませんが、景気・不景気は世の常です。1985年、円高不況のときは「これで日本の製造業は崩壊する」と言われ、バブル景気のときには、そんな危機意識は忘れ去られ、バブル崩壊の長期不景気になれば、このまま「日本消滅」という風潮でした。

この不景気が3年続くか、5年続くかはわかりません。でも、いずれ景気が回復することは間違いありません(高度経済成長は無理でも)。今の大不況と雇用不安に対して、労働関連法制は、当面の緊急対応策をとることしかできないでしょう。 いくら労働関連法制で規制を強化しても、景気を良くすることはできない。できることは、安易な解雇を規制し、雇用確保のための労使協議手続を整備し、雇用保険や失業者対策などのセイフティーネットを整備することができるくらい(もっとも、この対策が極めて重要ですが)。

他方、中期的には、このような不景気になっても、働く人々の痛みを少なくし、安定と公正が維持できる雇用システムを構想することが必要です。短期的な対策にのみ目を奪われないようにしたいものです。

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2009年1月 8日 (木)

中労委労働者委員 全労連系から任命

■中労委の労働者委員に全労連系組合から初の任命

昨年11月16日、全労連に加盟している全医労の元副委員長の淀房子氏が任命されています。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-11-16/2008111601_01_0.html

■1989年 労働組合再編成と連合系独占

総評が解体し、連合と全労連が成立した1989年以降、それまではナショナルセンターの系統により中央労働委員会の労働者委員が任命されていたのが、全て連合系が推薦した委員に独占をされていました。

約20年前、この「連合系独占」任命は違法であるとして、純中立労組懇(出版労連、民放労連、新聞労連、生協労連等の中立系産別組織の協議会)と全労連が、国を被告として任命取消・損害賠償請求を提訴しました。私も、純中立労組懇から依頼されて、この事件を担当していました。おそらく約10年くらい裁判を担当していたと思います。

国会図書館で、労組法制定当時の中労委時報(当時の名前は忘れましたが)、末弘厳太郎博士の労組法の古い本などを読んで、労働委員会当初から、労働組合の産別や系統別で労働者委員は選任される趣旨であったことを調べて証拠に出したり、準備書面を書いたりしてきました。1949年の54号通牒にもその趣旨が明記されていました。

ところが、労働省は連合との関係を維持するために、頑なに全労連系と非連合中立系が推薦した委員を排除してきたのです。

もっとも、正確に言えば、労働省自体は、全労連系を排除する積極的な意図はなかったように思えます。しかし、全労連系を任命すると、連合から強い反発を受けるために、任命しなかったというのが実情でしょう。連合が容認さえすれば、全労連系や純中立系の任命に大きな障害はなかったように思います。

各都道府県の地労委も、労働省に右へならえで、連合系のみを任命していました。東京都は、連合東京系と東京地評系の任命、京都府が連合京都系と京都総評系でした。これは総評のローカルセンターが残ったという特殊事情によります。現在は、非連合系の委員も任命している都道府県は、9都道府県に増えています。非連合系の労働者委員も任命した高知県の橋本知事(当時)や長野県の田中知事(当時)は、労働行政と連合の横やりはおかしいと痛烈に批判して、非連合系の委員も任命していました。

■裁判の結果はことどとく敗訴

中労委訴訟、そして各地の地労委でも訴訟が提訴されました。訴訟は、ことごとく敗訴でした。取消訴訟では原告適格がない、損害賠償についても、任命は裁量権の範囲内であるとして請求棄却でした。確か、ずいぶん後になって、福岡地裁で連合独占を違法としつつ、損害はないとした判決が出たように記憶しています。

各地の弁護団が集まって全国の弁護団会議をしたときに、ある地裁の弁護団から、裁判官は、「要するに思想差別のようなものですなあ。」と言っていたそうです。そこまでわかっているのに、その地裁も、やはり裁量権の範囲内として請求を棄却しました。

■労働審判員選任との差

この連合の全労連系排除の姿勢が強かったために、労働審判制度のできる際にも、当初は、連合が全労連系の推薦の労働審判員を排除するのではないかと裁判所も含めて懸念していたと思います。しかし、労働審判については、連合と全労連が話し合って、各地の組織人員に応じて労働審判員の推薦枠を決定するという常識的なルールがつくられました。このルールをまとめあげたのは当時の連合副会長の高木剛氏(現連合会長)でした。

ところが、その後も、労働委員会の労働者委員については連合系の独占は変わりませんでした。その理由は謎でした。

ようやく、独立行政法人担当とはいえ(一般企業担当はできませんが)、やっと中労委で、全労連系の任命を認めたのでしね。自分の気にくわない労働組合だからといって、任命から排除するという厚労省や、連合は、近代市民社会の常識からあまりに外れています(どこの第三世界の国の話?っていう感じです)。このような行政と特定団体の「談合体質」と「癒着」は、日本社会にありがちな「宿痾」でした。これがようやく少しばかり是正されたのは喜ばしい限りです。

■連合と全労連

連合は労使協調路線の官公労、大企業・正社員の労組が中心です(もっとも、UIゼンセンは中小企業労組、全国コミュニティユニオンは地域労組が主体のようですが)。他方で、全労連は左派系の少数派労組、中小企業労組、非正規労働者の労組が中心です。

今の「雇用の崩壊」が迫るなか、連合と全労連が対立している古い「労働戦線」対立時代は終わったということでしょうね。

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2009年1月 5日 (月)

「派遣村」閉村  見事な撤収!

■年越し派遣村の撤収

日比谷の年越し派遣村が閉村されました。そして、他の受入施設に移動!

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20081209-206556/news/20090105-OYT1T00328.htm

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090105k0000e040050000c.html

混乱もなく、見事な撤収です。お見事でした。

2チャンネルや、一部自民党国会議員(http://www.yomiuri.co.jp/feature/20081209-206556/news/20090105-OYT1T00628.htm)は、「年越し 派遣村」に対して誹謗中傷をしています。

私は、5日に混乱なく撤収できるかどうか固唾を呑んで観ていました。でも、こんな心配は、「傍観者」の杞憂でした。自己の小心さと不明を大いに羞じます。

混乱なく撤収し、次の一歩を踏み出された「派遣村」に集まった皆さん。これからも頑張ってください。

また、彼ら・彼女らを支えた実行委員会の皆さん。お疲れ様でした。皆さんの「実行力」と「リーダシップ」に心から敬意を表します。

■派遣の再規制へ-「労働再規制」

本当に、皆さんの「行動」が派遣法の見直しに大きなインパクトを与えたのですね。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20081209-206556/news/20090105-OYT1T00349.htm

製造業への派遣労働 見直す必要がある。桝添厚労省が私見

 舛添厚生労働相は5日の閣議後の記者会見で、派遣労働者を削減する動きが広がっていることについて、「個人的には、製造業にまで派遣労働を適用するのはいかがなものか。多くの方が賛同するなら、そのことも含めて検討しないといけない」と述べ、製造業への派遣のあり方を見直す必要があるとの考えを示した。

 また、継続審議になっている労働者派遣法改正案については「日雇い派遣は禁止する方向で議論したい。いい形で修正できれば、柔軟に修正すればいい」と述べた。

(2009年1月5日12時43分  読売新聞)

 軽薄のようですが、やはり 「Yes We Can!」 が日本でも起こりつつあるような気がしてきます。(年内に総選挙ですし)

 オバマ大統領の「冷笑主義に我々は回答した。民主主義は生きていると。」というフレーズを思い出しました。例のオバマ演説には繰り返し、冷笑主義の克服が語られています。今年、50歳になるシニカル中年の私には久々の「良い薬」でした。

■ちなみに、厚労省の庁舎内「講堂開放の決断」は誰が決めたのか?また、その真意は?

ところで、厚労省の講堂を開放した決断は誰がしたのでしょうか。また、真意は何だったのでしょうか。厚労省に解決要請行動に座り込んだ「じん肺患者」や「公害患者」に、庁舎内のトイレも貸してくれと頼んだところ、厚労省の役人は、「裁判で争っている方には、トイレも貸せないのだ」と言い放ちました。(結局、患者さんにはトイレは貸しましたが。当たり前じゃ・・・。そんな下らん嫌がらせをするのが厚労省の役人だと思っていました。/他方で、弁護士会の委員とかいって、労働契約法の関係で要請にいくと紳士的に対応をしてくれます。日本官僚の二面性です。「民には強く、官には甘い。(日弁連って「官」じゃないけど・・・)」ってね。)。

その厚労省が、庁舎の講堂を開放したというのは驚きます。湯浅さんらの実行委員会のリーダーシップを信頼して混乱なく撤収できると確信していたのか。それとも、規制改革を突っ走って今の事態を迎えた、規制改革会議への当てつけか。桝添大臣の度量の広さなのか。真意はどこにあったのでしょうかねえ。

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2009年1月 4日 (日)

民法(債権法)改正と労働契約-ちょっとびっくり。

■民法(債権法)改正

民法改正が議論されていることは法律雑誌等でなんとなく知っていましたが、「債権総論が主たる対象だろう」という程度の認識しか持っていませんでした。でも、大変な認識不足でした。

荒木・菅野・山川教授らの「詳説労働契約法」(弘文堂)を読んでいたところ、民法の雇用そのものも改正の検討対象になっているというのです(同書164頁以下)。

民法(債権法)改正検討委員会ホームページhttp://www.shojihomu.or.jp/saikenhou/indexja.html

を読んでビックリ!

■雇用契約と労働契約の関係-民法(雇用)と労働契約法

第4準備会で各種契約について討議をしているのですが、雇用、請負、委任の各則を残しつつ、その総則規定として役務供給契約に関する規定を定めるという提案がされています。

2007年12月25日第4回議事録資料(http://www.shojihomu.or.jp/saikenhou/shingiroku/shingiroku008.pdf

「雇用契約については、起草当時の理解とは異なり、『使用従属性』という要素をその定義に読み込む解釈が通説となっているが、このような解釈を今後も維持するのが適当である。」

「なお、雇用契約と労働契約との関係については、通説的見解によれば、両者はオーバーラップすることも多いが、理論的には異なる観点から基礎づけられた別個の契約概念であって、実際上も両者は必ずしも一致するものではない。したがって、雇用契約と労働契約とはさいあたり二元的に捉えておくのが適切である」

 雇用契約と労働契約を、「理論的に異なる観点」とはどういう趣旨でしょうか。また、両者が別個の契約概念だとして、民法雇用と労働契約法が併存してしまうと、実務が混乱してしまいす。労働法学では、現在は、雇用契約と労働契約は同一とするのが通説的立場です(「使用従属性」という要素を民法の雇用に読み込むのであれば、同一説になるのがスジだと思うのですが。)

■今後の民法(債権法)改正での雇用についての検討課題

また、今後の検討課題として次のような項目をあげています。

(1)雇用契約と労働契約との関係
 使用従属性を基準とする雇用契約の概念を維持する方向で検討することとし、労働契約との関係を更に検討する。

(2)契約期間
 雇用契約における契約期間が労働契約を含め、一般原則として意義をもつという観点から、その内容(期間の定めのない場合の解約申し入れ、ある場合の期間制限・更新)について、検討する。

(3) 安全配慮義務
 民法に規定するかどうか、規定するとして雇用契約の規律の部分に措くことが適当かどうかについて検討する。

(4)企業再編と就労請求権との関係
 労働者の同意原則を維持しつつ、具体的検討をする。

(5)労務提供と賃金請求権との関係
 使用者の責めに帰すべき事由による就労不能な場合の規律の明確化を検討する。その際、賃貸借契約の目的滅失の場合の賃料債権、請負契約における仕事完成前の報酬請求権との関係も検討する。ここで、民法536条の規律及び解除との関係をより一般的なレベルでも検討する。

 う~ん。企業再編と就労請求権っても凄い大論点です。同意原則を維持するっていう方向は良いとして、会社分割・労働契約承継法との関係はどうなるのでしょうか。
 契約期間や労務提供と賃金請求権など労契法や労基法との調整など大論点もあります。安全配慮義務は、労働契約法に規定が新設されましたが、何も言及がなく、ひょっとして、この研究会の学者は知らなかったのではないでしょうかね?

 労働契約法が2007年11月28日に国会で成立し後で、議論されているのにもかかわらず。労働契約法との関係について十分討議されていません。いくら、学者有志の研究会とはいえ、法務省民事局付きの役人( http://www.shojihomu.or.jp/saikenhou/indexja.html )も入っているの制定された労働契約法に対する目配りが不十分だと思います。第4回議事録の23,24頁で少し触れている程度です( http://www.shojihomu.or.jp/saikenhou/shingiroku/shingiroku007.pdf

 その後には、雇用契約、労働契約関係の報告は掲載されていません。おそらく、労働契約法との関係が議論されているのでしょう。でも、雇用契約、労働契約は、労働法の中核概念です。労働法立法の在り方としては、いくら民法で法務省の所掌分野とはいえ、労働法学者や労使のヒアリング、労働法全体の整合性を検討すべきではないでしょうか。

 以前、知り合いの裁判官と四方山話をしていたとき、その裁判官が「労働契約法も、本来は法務省が担当したほうが良い。その方がシステマティックな実務的なしっかりとした法律が作れる。」って言っていました。私が、「契約自由・対等当事者の民法の世界と、労働法は違いますよ。」って言ったところ、「いやいや、借地借家法は経済的弱者をまもる法律だけど法務省管轄ですよ。法務省だってできますよ。」って言っていました。

 この民法(債権法)改正研究会は、法務省が後ろ盾ですから、急ピッチで検討が進むという情報もあります。この研究会はどうなるかわからないという学者もいるようですが、会社法の一気呵成の改正作業がありましたから、結構、この債権法改正もあっという間に現実化する可能性があります。

 今後、労働法的観点からも、要注意です。

【追記】

その後、債権法改正の基本方針が4月29日に発表されて上記の状況は大きくかわっています。

以下のブログも参照下さい。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2009/05/post-81af.html

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2009/06/3-e4e5.html

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2009/10/post-fe60.html

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2009年1月 2日 (金)

年越し派遣村

■年越し派遣村
「年越し派遣村」(湯浅誠氏が「村長」、宇都宮健児弁護士が「名誉村長」)が大きく報道されています。http://hakenmura.alt-server.org/

厚生労働省に緊急対策を要請し、厚労省も講堂等を解放したそうです。
(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090103k0000m040043000c.html

■知り合いの弁護士も
NHKニュースで、湯浅村長と一緒に厚労省に要請しているなかに知り合いの弁護士が映っていました。労働弁護団の棗(なつめ)一郎弁護士です。風邪をひかないようにね!

■それにしても
近年、急増した派遣労働者、特に製造部門の派遣労働者は、本当にセイフティーネットが用意されていません。

今年、より一層、経済状況が悪化し、雇用危機が深まることは必至のようです。世界同時不況の中、景気の回復まで5年かかるか10年かかるかわかりません。当面の緊急救済策をとるとともに、雇用安定のための政策(派遣の再規制、有期雇用の原則禁止、同一価値労働同一賃金の実現)を目指すべきです。

■オバマ演説集から
正月にオバマ大統領の演説集(朝日出版社「オバマ演説集」)を読みました。オバマ氏は民主党の指名受諾演説で「アメリカの約束」といって次のようなことを言っていました。まあ、雇用対策も税制の優遇措置ってところがアメリカ的ですが・・・

今夜もアメリカでは、職のない人が増え、働けど働けど収入は減るばかりという人が増えています。家を失った人が増え、…クレジットカードや請求書の支払いをするお金がなく、授業料を払えない人が増えています。こうした難題は、すべてが政府によってもたらされたものというわけではありません。しかし、それらに対処できないのは、ワシントンの破たんした政治とジョージ・W・ブッシュ氏の失政がもたらした直接の結果なのです。

私は国外に雇用を移す企業への税制優遇措置を取りやめますし、ここアメリカ国内で良い雇用を生む企業には新たな優遇措置を与えます。

ハローワークで仕事を求める失業者に「目的意識がないと就職できない」などとお説教をたれた日本の麻生首相とは大きな違いですなあ。

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