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2008年10月 5日 (日)

日弁連人権擁護大会 - 「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人が人間らしく働き生活する権利の確立を求める決議」

■富山の人権擁護大会
10月2日、3日、日弁連の人権擁護大会が富山にて開催されました。
第3分科会にて、「労働と貧困~拡大するワーキングプア-人間らしく働き生活する権利の確立を目指して-」と題してシンポジウムがありました。

日弁連は強制加入団体であり、会員には使用者側の代理人となる弁護士が圧倒的に多い。ですから、労働者と使用者が対立する労働・雇用問題を正面から取り上げることはあまりありませんでした。

しかし、年収200万円以下の働く人が1000万人を超え、「ワーキング・プア」が深刻な社会問題となったため、労使の対立を超えた、人権問題として、認識されはじめています。

■派遣労働問題は一部の問題か
経営側は、「派遣労働者の問題は、非正規労働問題のごく一部であり、非正規労働者の多数は家計補助的な主婦パートである。」とか、「日雇い派遣によってしか働けない労働者がおり、日雇い派遣を禁止すれば、失業してしまう。」との主張をしています。

女性の派遣労働者が、次のような報告をしていました。

「世界的大企業の電子部品工場に派遣で働いていた。同じ精密部品組み立て作業を続け、派2,3ヶ月すると頚肩腕となる。多くの派遣が身体を壊し、数ヶ月で辞めていく。しかし、その後、次々新しい派遣労働者が送られてくる。労災の防止する対策は何もとられない。派遣は消耗品扱いとされている。」

首都圏青年ユニオンの河添誠氏が、シンポの中で次のように強調していました。

「若い派遣労働者は、毎日長時間が働きながら寮費等が給与から天引きされて、月6,7万円にしかならない。期間が来れば、雇用が打ち切られる。多くの若者が誇りを奪われ、貧困に苦しんでいる。しかも、何万人という若者が、このような状態にいる。これを不安定雇用労働者の一部でしかないという言い分はおかしい。この実態こそ、すぐに改善すべきだ。」

今、若者の40%が不安定雇用にしか就職できていません。派遣労働者の問題は、一部の問題ではありません。このような派遣労働者の問題を放置しているシステムこそおかしいのです。派遣労働者の現状を改善せずして、「格差社会」や「貧困問題」を解決することができるはずがありません。

■満場一致の決議採択
日弁連人権大会では、満場一致で、「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人が人間らしく働き生活する権利の確立を求める決議」が採択されました。労使対立が激しい、この問題で「満場一致」で決議されたということは特筆に値します。(第一分科会の憲法9条問題でさえ、満場一致にはなりませんでしたから。)
    
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/hr_res/2008_3.html

  1. 国は、非正規雇用の増大に歯止めをかけワーキングプアを解消するために、正規雇用が原則であり、有期雇用を含む非正規雇用は合理的理由がある例外的場合に限定されるべきであるとの観点に立って、労働法制と労働政策を抜本的に見直すべきである。
    特に、労働者派遣については、日雇派遣の禁止と派遣料金のマージン率に上限規制を設けることが不可欠であり、派遣対象業務を専門的業務に限定することや登録型派遣の廃止を含む労働者派遣法制の抜本的改正を行うべきである。
  2. 国は、同一または同等の労働であるにもかかわらず雇用形態の違いによって、賃金等の労働条件に差異が生じないよう、労働契約法を改正して、すべての労働契約における労働条件の均等待遇を立法化し実効的な措置をとるべきである。
  3. 国は、すべての人が人間らしい生活を営むことのできる水準に、最低賃金を大幅に引き上げるよう施策を講ずるべきである。
  4. 国は、偽装請負、残業代未払いなどの違法行為の根絶を図るため、これらを摘発し監督する体制を強化し、使用者に現行労働法規を遵守させるための実効ある措置をとるべきである。
  5. 国及び地方自治体は、社会保障費の抑制方針を改め、ワーキングプア等が社会保険や生活保護の利用から排除されないように、社会保障制度の抜本的改善を図るとともに、利用しやすく効果の高い職業教育・職業訓練制度を確立させるべきである。
  6. 使用者は、労働関連諸法規を遵守するとともに、雇用するすべての労働者が人間らしく働き生活できるよう、雇用のあり方を見直し社会的責任を果たすべきである。
    当連合会は、貧困の拡大に歯止めをかけるためには、労働問題と生活保護等の生活問題に対する一体的取り組みが不可欠であるとの認識に立ち、非正規労働者を始めとするすべての人が、人間らしく働き生活する権利を享受できるようにするため全力を尽くす決意である。

以上のとおり決議する。

      2008年(平成20年)10月3日  日本弁護士連合会

非正規雇用と正規雇用の格差を是正するためには、就労形態を超えて、「同一価値労働同一賃金の原則」を拡大することが求められていると思います。これが具体的にどのよう立法が考えられるのか。欧州のように産業別職種賃金が一般化していない日本の雇用社会でどのような法律が考えられるのか。今後の大きな課題だと思います。

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