「風月堂」セクハラ事件判決と裁判官の「セクハラ感覚」
■毎日新聞 2008年9月11日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20080911ddm041040031000c.html
東京風月堂店長のセクハラ:2審は賠償命令、会社に170万円
菓子メーカー「東京風月堂」(東京都中央区)の契約社員だった20代女性が男性店長から言葉によるセクシュアルハラスメントを受けたとして、同社に約650万円の賠償を求めた訴訟で、東京高裁は10日、請求を棄却した1審・東京地裁判決(3月)を覆し、約170万円の支払いを命じた。宮崎公男裁判長は「店長の発言は受忍限度を超えている」と違法性を認定した。
「キスされたでしょ?」などの店長発言について、判決は「性的に辱めるだけの言動で、名誉を公然と害した。女性は店長の下で働くことに恐怖を抱き、就労意欲を失った」と指摘した。女性は同社の経営店で販売を担当していたが、06年7月から休職し、今年3月に退職した。【銭場裕司】
◇東京風月堂の話
内容を確認しておらずコメントできない。
■地裁判決と高裁判決の読み比べ
友人の石井逸郎弁護士(ウェール法律事務所)が被害女性の代理人を担当されていました。同事件の東京高裁判決と東京地裁判決を読ませて貰いました。東京地裁判決がどんな事実認定をしたのか興味を持って読みました。事実認定が違えば、結論が異なるのは当然ですので、東京地裁はどんんな事実を認定したのかを興味をもって読みました。
■東京地裁の非常識
東京地裁民事第16部の裁判官(単独)は、原告のほか、原告(女性19歳)の同僚であったパート従業員(女性)の2名と、加害者とされた店長を証人尋問した上で、次のような事実を認定しています。
○店長は、「頭がおかしいんじゃないか」、「遊びすぎじゃないか」等の言い方で、原告に対し仕事上の注意、叱責をしていたことが認められるが、上記言動は、原告が店長の指示に従わなかったときの叱責、遊びすぎると勤務に差し支える、あるいは店舗で無駄話をしないようにとの注意、指導であって・・・
○店長が原告の面前でエイズ検査を受けた方がいい旨の発言をしたことがあったことは認められるものの、職場における雑談の域を出ないものであることは明らか・・・
○証人(同僚の女性パート従業員)の証言及び陳述書には、店長は、原告に「秋葉原で働いた方がいい。」と言い、その後、別の従業員ことを指して「あの子の方が似合うか。」と言った旨の部分があるが、他方で、店長は、原告と同期の他店舗の従業員のことを指してその旨を言ったことがあるが、原告のことを指して言ったことはない旨証言していることに照らすと、店長の上記発言が、職場における雑談、軽口の域を出ないものであることは明らかである上、原告を特定して断言したものとは認めがたい・・・
○居酒屋で飲食した際に、店長が、原告について、「純粋そうに見えて何でも知っている。」と言い、他店の男性従業員のことで、店長が原告に「何かあったんじゃないの、キスされたでしょ。」「俺にはわかる。」と言い、原告が目に涙をうっすらためることがあり、同僚の女性パート従業員がその場をとりなしたことがあったことが認められる。
○原告は下ネタを言っても大丈夫な人物であると判断しており、1月2日の打ち上げは、参加者全員が和気あいあいと飲んでおり、原告は、普通に話に乗ってきており、原告に目に涙を浮かべるという場面もあったものの、気まずい雰囲気になったことはなく、会合自体は悪い雰囲気ではなかったと・・・
○これらの発言は、酒席において、店長が職務上の注意や説教をする際に、それに関連して店長らの話が原告と近隣店舗の男性従業員との関係等に及んだものと推認されるのであって、発言の内容や態様が適切なものであったとまでは言えない部分があるとしても、酒席における上記発言が直ちに原告に対する損害賠償義務を生じさせるような違法性を帯びるものであるとまでは認めがたい。
以上は、実際の判決文の抜粋です(店長やパート従業員の実名はもちろん伏せています)。
■裁判官「セクハラ研修」の必要性
原告は、契約社員として高校卒業して入社したばかりの20歳代の女性です。彼女に対して、店長が、「エイズの検査の話し」をしたり、「近隣店舗の男性従業員との肉体関係を話題」にしたり、「秋葉原のメイド喫茶で働くのがどうだこうだ」などの発言をしていること、他の同僚の証言により、「原告が涙をためていた」という事実を、この裁判官は認定しているのです。
これを、「職務上の叱責や注意だ」とか、「酒席の上での軽口だ」などとして、違法性を否定した、この裁判官の感覚は常軌を逸しています。(被害者と同じ年頃の娘を持つ父親としては、これをセクハラでないとして損害賠償を棄却したこの裁判官に怒り心頭・・・と個人的感情を交えてはいけませんが・・・)
どうしても、あのストーカー判事のことを思い浮かべてしまいます。裁判官は大丈夫かと・・・。 裁判所にも多数の女性職員が勤務していますからねえ。
こんなセクハラ許容判決が東京地裁通常部で出てしまうのですね。ひょっとして、裁判官らは、セクハラ研修を受けていないのではないでしょうか。
裁判官は、全員、セクハラ研修を受けたほうが良いですね。
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コメント
こんにちは。
はじめまして。
「かめ?」というブログを運営しているgegengaと申します。
風月堂のセクハラ裁判に興味を持ちググっていたところ、このエントリーにたどり着きました。
大変に貴重なお話を読ませていただき、ありがとうございます。
リンクを貼ったエントリーをトラックバックさせていただきました。
事後報告になってしまい恐縮ですが、ご了承いただければ幸いです。
また、このエントリー自体は他の話がメインになっておりますが、お読みいただければ嬉しく思います(拙い文章でお恥ずかしいのですが)。
では、失礼いたします。
投稿: gegenga | 2008年9月21日 (日) 07時11分
これからセクハラで会社を訴えるのですが、依頼した弁護士の方が、セクハラに対して特に女性裁判官は冷たく、こんな案件を訴えるな、、みたいな事を平気で言うと伺って、裁判官の資質を疑いました。
実際、普通の社会生活に馴染んでいない方が裁判官だから、、参ってしまいますね、、。
上司にセクハラされ、会社に訴えても人事異動も無かった為にパワハラに変わりミスを私のせいにして、辞めさせようとさせられ、辞めなかったら部下に私に嫌がらせをさせ、首にするような大失態をさせる計画をたくらんだりされ、うつ病になって外出も出来なくなってます。
横浜の裁判官は、上記の様な状態みたいで、不安ですが、負けてはいられないと自分を勇気づけています。
なんだか、取りとめもなくすいませんでした。
お邪魔しました。
投稿: とら猫 | 2009年11月21日 (土) 23時52分