裁判員裁判と労働者の「公休」
■裁判員となった労働者の「公休」について
共産党の市田書記長は裁判員に選出されると裁判に拘束されるとして次のように裁判員制度の実施延期を求めています。
裁判員になれば、最低でも三日間から五日間、場合によっては一週間や十日以上にもわたって、連続的に裁判員として裁判に参加しなければなりません。…「原則として裁判員を辞退できない」とされています。しかも、会社員の場合、それが「公休」扱いされるかどうかは、個々の企業の判断に委ねられることになっています。
この公休扱いされるかどうかは、「個々の企業の判断に委ねられる」という発言は法律的には誤りです。
■労基法7条
「公休」とは、普通は、いわゆる「休み」(休日)を意味しています。労働法的に言うと労働義務を免除された日ということです。
労働基準法7条は次のように定めています。
労基法7条
使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての 権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げのない限り、請求された時刻を変更することができる。
しかも、この労基法7条に違反した使用者は、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条1号)。
「公の職務」とは、民事訴訟や刑事訴訟の証人、あるいは労働審判の労働審判員としての裁判所への出頭がこれにあたります。したがって、裁判員として裁判員裁判に参加することも「公の職務」になります。
ですから、労働者が、裁判員裁判に2日から3日かかることを理由に休日を請求すると、使用者はこれを拒むことができず、これを拒むと労基法違反として刑罰に処せられるのです。
■裁判員法100条
裁判員法は、労働者が裁判員に職務を行うために休みをとったことを理由に不利益取扱いをすることを禁止してます。
裁判員法100条
労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得したことその他裁判員、補充裁判員若しくは裁判員候補者であること又はこれらの者であったことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
また、裁判員には日当が支払われます(裁判員法11条)。日当は1万円以下の範囲で定められると言われています。使用者が有給を保障する必要はありません。
■裁判員制度の円滑な実施のための行動計画
平成17年8月、裁判員裁判関係省庁等連絡会議でも、上記のような労基法7条や裁判員法11条の趣旨を徹底する具体的施策をとることが確認されています。
この行動計画の実施状況について毎年、報告されてますが、厚労省が通達を出したことや法務省や最高裁が労使関係者を対象とするシンポジウムでパンフレットを配布していると報告されています。
この広報活動がまだまだ不十分であるということですね。共産党のような労働者政党でさえ、労基法7条の存在を知らないのか、それとも意図的なのかは判りませんが、「公休扱いにならない」などと喧伝するくらいですから。
■労基法7条等の労働者の参加保護が知られていないことが裁判員裁判の延期理由になるか。
答えは簡単です。上記のとおり、労基法や裁判員法は、裁判員裁判への参加をする時間の活動を保障しているのですから、この趣旨を徹底することで解決するべき問題であって、延期の理由にはならないということです。
共産党の上記市田書記長の発言は、労働者は企業が認めない限り、裁判員裁判に休みをとって参加できないとの誤解を広げることになり、極めて不適切・無責任は発言だと言えましょう。
■「建前だけだ」との批判について
これに対して、「実際の使用者や労働者は、このような法律知識もなく、裁判員裁判に参加すれば使用者に嫌がらせをされる」という批判があります。
確かに、年次有給休暇さえ申請すると嫌がらせをされるのが日本の中小企業の現実であり、妊娠したら他の事由をこじつけて退職させられる女性労働者も珍しくないのが日本社会です。
でも、だから裁判員裁判は、「日本人や日本社会には向かない。」「日本の風土にあわない」かのような主張は、本末転倒だと思います。努力する方向が逆さまだと思っています。
■小沢民主党「裁判員は日本の風土にあわない」
予想したとおり、民主党も、裁判員裁判の見直しを言い出しました。小沢党首が、裁判員裁判は「日本の風土にあわない」と発言しています。
小沢民主党にとっては、「面倒な刑事裁判は裁判官にまかせておけば良い。自分は死刑判決なんかに関与したくない。TVのワイドショーで犯罪報道を見て、『極悪人は死刑にしろ』と喚く」のが「日本の風土」ということなのでしょうね。
しかし、民主党は、自らは裁判員法に賛成しながら、今さらこんな低レベルの放言をするなんて、無責任な政党です。こういう3野党には政権担当能力はないと判断せざるをえません。もっとも選挙では、こんな些末なスジ論なんてどうでも良いのでしょうが。
予想したとおりの総選挙向けての民主、共産、社民の放言と党利党略の顛末はいかに。。。。。
10月15日には、裁判員候補者予定名簿が地裁に送付され、11月頃には30万人に一斉に裁判員候補者予定者名簿に掲載されたとの通知が届きます。これと前後して、マスコミは、日本風土に合致した「怒濤」の「過熱」報道をはじめることでしょう。マスコミの本音は、裁判員裁判に反対(有罪前提報道や過熱報道が抑制しようとするのが司法関係者だから)ですから、これらの野党と一緒に、反対のネガティブ・キャンペーンをはることでしょう。
お粗末なことです。
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