合唱団員の労組法上の労働者性を否定
東京地裁民事19部(中西茂裁判長)は、新国立劇場のオペラ合唱団員の労働者性を否定しました。労働法の「常識」に反した判決です。契約解釈から労働者性を判断するという基本的な誤りをおかした「ぼんくら」判決というしかありません。労働者性に関して極めて悪い判決が出てしまいました。
判決全文をアップしておきます。
なお、地位確認の民事訴訟の判決については下記のブログで触れています。
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2007/07/post_a66b.html
先日、季刊労働法にて「労働者性をめぐる裁判例の動向」という鎌田耕一先生らとの座談会に出席して話したばかりです。
1 事案の概要
財団は、オペラの上演のために新国立劇場合唱団を設置し、同合唱団には年間を通して出演する契約メンバー(約40名)と、出演回数が少ない登録メンバー(約40名)とで構成されている。契約メンバーは1年間の基本出演契約を締結し、公演ごとに個別出演契約を締結することとなっていた。契約メンバーの更新は、毎年、試聴会を実施して、試聴会に合格すれば、次のシーズンも契約が更新された。 ユニオンの会員であり、新国立劇場ペラ合唱団員である八重樫さんは、平成15年2月20日付けで契約メンバーとして試聴会で不合格にされ、契約の更新を拒絶された。
そこで、ユニオンは、①上記平成15年2月20日付けの不合格として契約の更新をしなかったこと、②同年3月4日、ユニオンが八重樫氏の契約について団体交渉を申し入れたにもかかわらず、財団が労働契約関係にないことを理由に団体交渉を拒んだこと、を不当労働行為として労働委員会に救済を申し立てた。
2 争点
(1) オペラ合唱団員の契約メンバーが労働組合法上の労働者といえるか。
(2) 財団がユニオンとの団体交渉を、雇用関係にないからとして拒否したことが不当労働行為となるか(労組法7条2号)。
(3) 財団の本件不合格措置が不当労働行為となるか(労組法7条1号)。
3 都労委・中労委の判断
労組法上の労働者性を認めて、団交拒否を不当労働行為としたが、不合格措置は不当労働行為でないとした。
4 東京地裁判決
東京地裁(裁判長中西茂裁判官)は、驚くべきことに、労組法上の労働者性を否定しました。
判断枠組は、出演基本契約を締結した段階で、契約メンバーである八重樫氏が個別出演契約の締結(公演の出演)の諾否の自由があるか否か。次に、基本出演契約締結段階で、法的な指揮命令・支配監督関係があるか否か。労務対償性があるか否かを検討するというものです。
そして、東京地裁は、個別出演契約を締結しない限り、出演義務は生じないから諾否にの自由があるとするのです。判決曰く、実質的にほとんどの契約メンバーが年間を通じて出演していても、また、年間230日も稽古、練習、本番の公演に拘束されていても、それは事実上の問題にすぎず、法的義務と認めることはできない。
また、指揮命令・支配監督関係については、出演基本契約の締結段階では、指揮命令・支配監督関係は希薄であり、事実上のものにしかすぎない。法的な指揮命令・支配監督関係があるとは認められない。実際上の場所的・時間的拘束は、外部芸術家を招聘した場合と同じであり、これだけで指揮命令・支配監督関係があるとは言えないとします。
この東京地裁判決は、労働組合法上の労働者性について、今までの学説や判例の考え方に真っ向から反しています。中西裁判長は、労働組合法上の労働者性を肯定するには使用従属関係を必要とし、しかも、それは事実上の関係では足りず、「法的な指揮命令・支配監督関係がなければならない」と言い切ったのです。
何としても、この東京地裁判決は、東京高裁で覆さなければなりません。あまりに非常識な内容です。これが東京地裁労働部の判決だとは信じられない気持ちです。裁判官の発想が根本的に誤っているとしか言えません。全ての労働法学者にも応援を求めて、この東京地裁中西判決を徹底的に批判していかなければなりません。
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