松下PDP事件-大阪高裁判決全文
■大阪高裁判決全文
松下PDP事件の判決全文を村田浩治先生から送っていただき、ご了解を得ましたので、原告名・証人名をマスクしてアップします。
「matsushitahanketu08425.pdf」をダウンロード
■大阪高裁判決のポイント(黙示の労働契約の成立を認定)
松下PDP(1審被告)は、パスコ(請負会社)と形式的には業務委託契約を締結しています。1審原告はパスコと形式的には労働契約を締結して、パスコは1審原告を1審被告会社の事業に従事させていた。1審原告は、1審被告の担当者の指揮命令を受けて、業務に従事していたのです。
大阪高裁判決は次のように判断しています。
1審被告・パスコン間の契約は、パスコが1審原告を他人である1審被告の指揮命令を受けて1審被告のために労働に従事させる労働者供給契約というべきであり、1審原告・パスコ間の契約は上記目的達成のための契約と認めることができる。
脱法的な労働者供給契約として、職業安定法44条及び中間搾取を禁じた労働基準法6条に違反し強度に違法性を有し、公の秩序に反するものとして民法90条により無効というべきである。(判決文30~31頁)
したがって、1審被告・パスコ間、1審原告・パスコ間の各契約は締結当初から無効である。(判決文31~32頁)
労働契約も他の私法上の契約と同様に当事者間の明示の合意によって締結されるばかりでなく、黙示の合意によって成立し得るところ、労働契約の本質は使用者が労働者を指揮命令及び監督し、労働者が賃金の支払いを受けて労務を提供することがあるから、黙示の合意により労働契約が成立したかどうかは、当該労務供給形態の具体的実態により両者間の事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係があるかどうか、この関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があるかどうかによって判断するのが相当である。(判決文32頁)
1審被告は、1審原告を直接指揮監督をしていたものとして、その間に事実上の使用従属関係があったと認めるのが相当であり、また、1審原告がパスコから給与等として受領する金員は、1審被告がパスコに業務委託料として支払った金員からパスコの利益等を控除した額を基礎とするものであって、1審被告が1審原告が給与等の名目で受領する金員の額を実質的に決定する立場にあったといえるから、1審被告が、1審原告を直接指揮、命令監督して本件工場において作業せしめ、その採用、失職、就業条件の決定、賃金支払等を実質的に行い、1審原告がこれに対応して上記工程で労務提供していたということができる。
そうすると、無効である前記各契約にもかかわらず継続した1審原告・1審被告間の上記実体関係を法的に根拠づけ得るのは、両者間の使用従属関係、賃金支払関係、労務提供関係等の関係から客観的に推認される1審原告・1審被告間の労働契約のほかなく、両者の間には黙示の労働契約の成立が認められるというべきである。(判決文32~32頁)
①パスコと1審被告の業務委託契約は、脱法的な労働者供給契約として無効とする。
②パスコと1審原告との「労働契約」も公序良俗違反として無効とする。
③その上で、1審被告と1審原告との間では使用従属関係があることから、黙示の労働契約の成立を認める。
1審原告はパスコから「給与」をもらっているのすが、大阪高裁は、1審原告とパスコとの間の「労働契約」は無効であるとした上で、1審被告が採用、失職、就業条件の決定、賃金支払い等を実質的に決定する立場にいたとして、使用従属性を肯定して、黙示の労働契約の成立を認めました。この「実質的に労働条件決定する立場にある」ことを強調する点は、朝日放送事件の最高裁判決を意識しているように読めます。
あとは、1審被告と1審原告との労働契約の成立が認められた以上、雇い止めの権利濫用ということになります。
大阪高裁は、松下PDPの主張が、著しく労働法を無視し、身勝手な主張だと判断して、このような画期的な判決となったものだと思います。
大阪高裁は「強度の違法性を有し、公の秩序に反する」と判示しています。これは高裁の裁判官たちが、1審被告の措置に対して、心底怒っているという感じです。
この高裁判決によれば、偽装請負のケースのほとんどは、受け入れ企業と労働者との間で黙示の労働契約が成立しているということになります。まあ、当然の帰結です。もっとも、では製造業の派遣労働者になれば良いのか、というとそうではありません。この高裁判決により偽装請負問題の全て解決するわけではないですが、大きな前進であることは間違いないです。
■川口美貴教授(関西大学法科大学院)の鑑定意見書
日本労働弁護団の「季刊・労働者の権利」273号54頁以下に、川口美貴教授・弁護士の本事件についての鑑定意見書が掲載されています。この川口鑑定意見書は大阪高裁に1審原告の証拠として提出されたものです。大阪高裁判決の基本は、川口先生の意見書の枠組を踏襲していると思います。
| 固定リンク
「労働法」カテゴリの記事
- フリーランス新法と労働組合(2023.04.28)
- 「労働市場仲介ビジネスの法政策 濱口桂一郎著(2023.04.13)
- 「フリーランス保護法」案の国会上程(2023.02.26)
- 働き方開殻関連法の労組向け学習会(出版労連)(2018.10.07)
- 改正民法「消滅時効」見直しと年次有給休暇請求権の時効(2018.06.06)
コメント