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2008年3月 5日 (水)

またまた「法曹増員」論

■法曹増員「見直し」の流れは決まったか?

宮崎次期日弁連会長の法曹増員の見直し表明したこと、鳩山法務大臣の増員見直しのための法務省内にチームが発足をしたのを見て、「法曹増員の見直しの流れが決まった」かのように分析をする人がいます。しかし、まだ、その結論を出すのは時期尚早でしょう。

読売新聞が3月3日の社説で、「司法試験合格者 増員のスピードを緩めるな」と論じています。日経、朝日、毎日、東京各紙が、法曹増員「見直し」に対して反対を表明しています。

<規制改革派>の日経、読売は「競争によって弁護士の質が向上する」と言い、<市民派>の朝日、毎日、東京新聞各紙は、弁護士が市民から相変わらず縁遠い存在であり、自らの既得権を維持するために市民のニーズを無視していると言うのです。

このマスコミの一斉非難は、大きな影響力を持ちます。そう簡単に増員路線の変更とはならないでしょう。鳩山法相の意見が市民の支持を得ることができ、閣議決定を覆すことができるか、そう楽観できないように思います。

■「人権派」弁護士たちの法曹増員絶対反対論

これに対して、多くの人権派弁護士と、地方中堅都市の弁護士会が強く反発しています。

彼らは、「大マスコミは<規制改革派>の走狗」、「国家権力と対峙する弁護士に対する攻撃にほかならない」というのです。「弁護士増員となり弁護士が経済的苦境にたつと、もはや人権擁護活動ができなくなるから」というわけです。確かにそういう側面は否定しません。でも、これに市民が賛同してくれるかということが問題なのです

■弁護士が一丸になって声高に「法曹増員反対」と叫んでも

新人弁護士の就職難は大変な状況です。何とかしたいと思います。しかし、だからといって、弁護士会が一丸になって「増員反対」と叫んでも、私は市民らの賛成を得られるとは思えないのです。市民の賛同を得られなければ増員路線も変えられない。(政治家は市民の声がなければ動かない。)「市民って誰か」と言えば、依頼者ということです。

市民にとっては、身近に弁護士がたくさんいて、安く相談できたほうが良いのですから。マスコミや市民に対して、「規制改革派だ」とか、「弁護士自治に対する攻撃だ」とかいっても市民の理解を得られるとは思えません。司法書士さんや、社労士さんや、税理士さん、行政書士さんたちは、国家資格をとったとしても全員が一年目から年間600万円の収入を得られるわけではないのだと思います。

弁護士である私としては、難関の司法試験を合格した以上、そのくらいは当然じゃないかと思う気持ちはあります。でも、それは市民の皆さんの賛同を得られるのでしょうか。「合格しやすくなったのだから、仕方がないじゃないの。合格してから努力したら良いのに。」と言われないでしょうかね・・・。というか、多くの市民はこんな話は無関係と思って、興味がないのかもしれませんが。(弁護士や裁判がどうなろうと一般の人には関係ないもんね-自分が裁判の当事者にならない限り)

反対派が「市民」を説得するとしたら、司法試験合格者が500~1000人であっても、あるはその程度の方が、<市民派>の要望やニーズに応えられる具体策を提示することでしょうね。

ところが、残念ながら反対派は、その具体策を提起できていません。反対派の多くは、法テラスには反対するし、公設事務所にも批判的な人が多いのが不思議です。他方、裁判員制度については、市民の多くが反対だからと言って反対している人が多いのです。裁判員制度反対派と、増員断固反対派の中心部分の人たちは重なっていますし。こんなことを言うと、私は、「司法改悪主義者」のレッテルを貼られるのが落ちでしょうが・・・・。

弁護士や弁護士会が、多重債務者や生活保護者の権利救済などに力を入れてきたこと、当番弁護士制度の導入して実践してきたこと、司法過疎地に「ひまわり基金公設事務所」を展開して司法過疎克服に努力していることなどを、市民にもっと知ってもらえたら良いのですが。

<市民派>が満足できるような弁護士が身近に増えるためには、法律扶助や国選弁護士報酬の増額につなげるしかありません。また、法テラスや公設事務所の給与水準を向上させ、任期後のキャリア展開を容易にする就業条件を整えることが現実的な方策なのでしょう。

■もし法曹増員を阻止したら、その次にくるものは・・・

もし弁護士が一丸になって増員反対論にまとまって、仮に増員を阻止することができた場合、その次に来るのは、弁護士法72条の撤廃、司法書士などの訴訟代理権の拡大、社会保険労務士の労働訴訟・労働審判への代理権付与です。結局、法曹人口増加を阻止しても、やはり新人弁護士の就職難は解消されないのでしょう。

まさに「前門の虎 後門の狼」の状況です。そうである以上、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」なのではないでしょうか。

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コメント

いっそのこと、司法試験は飽くまで500人合格の水準を維持して高度な法廷弁護士となる人のための制度としたらどうでしょうか。

他方、司法書士の権限を拡大するのです。そして、ローススクールの卒業生で、司法試験を合格できない人は、司法書士や社会保険労務士の資格をとれるようにしたらどうでしょうか。

そうすればロースクールも助かるでしょうから。

投稿: 通りすがり | 2008年3月 8日 (土) 08時18分

はじめまして。ただいま、和光のいずみ寮に住んでいます。
今日配られた日弁連ニュースでは、会長の7.18声明が特集されていました。
すでに開業している友人と話しても、増員
問題はなんだかかみ合いません・・・
文献を調べているうちに水口先生のブログに
遭遇しました。
私は増員賛成の立場なんですが、反対派とは
いろいろな前提問題がずれている気が
してしまいます。

投稿: いずみ寮より | 2008年8月11日 (月) 10時07分

>弁護士や弁護士会が、多重債務者や生活保護者の権利救済などに力を入れてきたこと

広告規制で多重債務者救済を妨害してきたという批判も聞きますよ。報酬規制もあったから破産に六十万円以上かかったとも聞きます。

今だって地方の人が身近に弁護士がいないから困っているのを東京の大手事務所の先生が電話で相談に乗ってくれて、サラ金の取り立てを止めてくれるのに、地方の弁護士は市場を荒らされるとか言って反対しているじゃないですか。

日弁連もそういう弁護士のいうことを聞いて東京の弁護士に圧力をかけているそうで、やっぱり弁護士会や日弁連は利権を守ることが目的なんでしょう。

日弁連がつくった事務所に相談しろとかいいますが、奄美大島ではそういう事務所が問題を起こしたそうですね。

やっぱり業界団体の本質は既得権益の維持ですから、それ以上の期待をすることが間違いだと思います。

司法書士の代理権拡大はやったらいいと思いますよ。弁護士と司法書士を競争させれば、国民はどちらか好きなほうを選べます。サービスも良くなるでしょう。

投稿: ふう太 | 2009年11月23日 (月) 12時43分

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