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2008年2月 3日 (日)

法曹人口3千人増員の見直し

■2008年2月3日の朝日新聞(朝刊)の報道と社説

 朝日新聞は,日弁連選挙の公聴会で,増員反対を訴えてきた反主流派候補だけでなく,主流派候補も,3千人増員見直しを表明したと報道しています。
 他方,朝日新聞の社説は「冤罪を防ぐ」という富山強姦冤罪事件を取り上げて,日弁連の報告書を批判し,「背景には,欧米に比べて極端に少ない弁護士の数がある。」として「質量ともに十分な弁護士を早く備えなければならない」と書いています。

 冤罪を防ぐためには「質量とも十分な弁護士を早く備えなければならない」ことはそのとおりです。しかし,「欧米と比較して日本の弁護士が少ない」ことが原因だとするのが,多くのマスコミの定番の意見ですが,因果関係があるかどうかを,事実に立脚して検討してもらいたいものです
 それはともかく,朝日新聞としては,日弁連選挙での3千人見直しの報道と,この「冤罪を防ぐ」との社説はリンクしていると思います。3千人見直しに対する朝日新聞の批判表明なのでしょう。

■多くの法曹の本音

 現在の法曹三者(弁護士,検察官,裁判官)の多数は,「3千人なんて無理」と思っているのが本音です。そもそも,基礎的法律知識を有し,法的思考に基づく文章が書けて,法的なコミュニケーションもできる人間が毎年3千人もいるのか,と疑問を持っていると思います。それが旧司法試験を受験していた者の実感でしょう(500人合格時代の自分たちだって怪しいのに。もっとも,だからこそ法科大学院が期待されているのですが)。

 2006年頃,規制改革・民間開放推進会議の例の福井秀夫氏が中心となり,3千人増員の前倒しと,さらに,6000人ないし9000人の法曹増員をぶちあげていました。これに対して法務省担当者(判事出身)が「質の維持」を訴えて反論をしたところ,福井秀夫氏は,「成績が悪い者が弁護士になると社会にとって被害を及ぼすというなら立証してみろ。司法研修所の成績記録があるからできるだろう。」と迫っていました。

 多くの弁護士も,質の維持と法律事務所の経営の観点から,3千人増員は見直すべきであるというのが本音でしょう。では,その適正規模が何人なのかという点ではおそらく意見が分かれるでしょう。500人で十分という人から,せいぜい1500人程度までと人さまざまでしょう。山勘では1000人程度が多数派じゃないでしょうか。

 私も個人的には,1000~1500人程度に抑えて,司法過疎や社会的弱者向けの弁護士サービスは弁護士会が運営する公設事務所(基金事務所)を各地に設置することで対応する。できれば地方自治体が一定の補助金を支出する仕組みになれば良いと思います。司法支援センターもありますし。(このような意見が弁護士の平均的意見ではないか,と私は思っています。)

■法曹人口を決めるのは誰か

 しかし,法曹人口を決めるのは法曹三者ではなく,ユーザーである市民ないし企業,そして政府だという厳然たる事実があります。法曹三者の意見も是非聞いてくださいね,とお願いする立場でしかないのでしょう。法曹人口増員反対ないし慎重論は,弁護士があまり声高に言うものではないのでしょう。

■規制改革派の増員論

 市場原理主義に立脚した「規制改革派」(福井秀夫氏のような改革派)は,市場原理の導入により,弁護士の質とサービスの向上を図ろうとします。大企業の本音は,質の高い企業弁護士を大量に安く使いたいということでしょう。これはこれで経営合理的なのでしょう。彼らは庶民の法律紛争を扱う私らのような「町弁」なんかには何の関心もないことでしょう。競争に負けて,失業する弁護士や廃業する弁護士がいて当然,というのが彼らの発想ですからね。

■市民派の増員論

 他方,マスコミは,一般の人たちが簡単に弁護士のサービスを受けられない現状を厳しく批判しています。消費者団体や労働組合も,弁護士に依頼するには敷居が高いとして批判的です。これらの人々はいわば「市民派」と言えます。この「市民派」も,庶民の法的ニーズに対応する弁護士の数が少ないことに不満を持っているのです。朝日新聞の冒頭の社説がその典型です。

■規制改革派と市民派の合力と弁護士会の孤立
 
 この「規制改革派」と「市民派」が一致して,法曹人口の大幅増員を唱えたのです。
 司法制度審議会が設置されて,政府は法曹人口増員を打ち出しました。日弁連は,1000人に増員し,1500人に増員するかどうかを検討するという方針を1997年に一旦は決めました。しかし,司法制度改革審議会では,規制改革派はもちろん,市民派にも,日弁連の方針は受け入れられなかったのでした。
 つまり,弁護士会は孤立したのです。結局,2000年,日弁連は臨時大会を開いて3千人増員を採決にて決めました。(これを受け入れなければ,福井秀夫氏が主張するような超大量増員が決定され弁護士会は司法改革の蚊帳の外に置かれるという危機感があったのです。これが当時の情勢判断だったのでしょう。)

 この当たりの経過を踏まえずに,日弁連執行部の従来の取り組みを罵倒,あるいは厳しく批判する若手弁護士も多いですね。気持ちはわからないわけではないけど・・・。

■これから

 規制改革派の増員論に対しては誰もが大きな危惧を持っています。しかし,その規制改革派の乱暴な増員論に対抗するためには,「市民派」の理解を得なければなりません。それには,弁護士の既得権維持ととられないことが重要です。
 朝日新聞の冒頭の社説のような「市民派」からの法曹人口増員要求に応える方針と体制を弁護士会がもっている必要があります。

 新人弁護士の大量の就職難は弁護士としては何とか避けたいところです。でも,その事態を,一般市民はどう受け止めるのでしょうか。 市民の皆さんが「司法試験合格者の人数を減らせ」と言ってくれるのでしょうか? (そう期待したいところです・・・)

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コメント

資格取得者の「就職難」がどれほど厳しいものか・・・隣接業界の社労士はすさまじい現状です。

「就職先ほぼ0」
「新卒者の受験ほぼ0」
「合格したもののうち、独立開業して2年後残るのは約10%」


司法改革反対!

投稿: 森啓治郎 | 2008年2月12日 (火) 19時09分

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「市民のための司法改革をめざす。」という言葉が,司法改革推進論者の弁護士から言われることがあります。 また,弁護士増員は,規制改革派のみならず市民派からも出たと言われ [続きを読む]

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