再論:改正パートタイム労働法と丸子警報器事件
1月24日 日弁連の特別研修にて,非正規労働者に関する労働法上の実務問題という研修を実施しました。日弁連労働法制委員会主催の弁護士向けの研修です。改正パートタイム労働法について解説された和田一郎弁護士(労働法制委員会副委員長)も丸子警報器との関係を指摘されました。ちなみに,私もパネルディスカッションに参加しました。
■改正パートタイム労働法8条
改正パートタイム労働法は,①職務内容が同一,②人材活用の仕組みや運用が同一,③期間の定めのない契約(反復更新して期間の定めのない契約と同視できる場合も含む)であるパート労働者(短時間労働者)については,通常の労働者(正社員)との差別的取り扱いを禁止しました(8条1項)。
この点は以前にもブログでとりあげました。
↓
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2007/07/post_7e0f.html
■丸子警報器事件判決
有名な丸子警報器パート差別事件で,長野地裁上田支部(平成8年3月15日・労判690号)は,職務内容が同一で,勤続期間も長期である臨時社員の賃金格差について次のように判決しました。
「同一(価値)労働同一賃金の原則の根底にある均等待遇の理念に違反する格差であり,妥当性を欠くというにとどまらず公序良俗違反として違法となる。」
「原告らの賃金が,同じ勤務年数の女性正社員の8割以下になるときは,許容される賃金格差の範囲を明らかに超え,その限度において被告の裁量が公序良俗違反として違法となる。」
■丸子警報器事件に改正パート労働法8条を適用したら
実は,この丸子警報器の臨時社員(女性パート)の所定労働時間は,正社員より15分短かったのです。しかし,毎日常に15分残業をして,正社員と同じ製造ラインで同じ労働時間で従事していました。
ですから,改正パート労働法の8条1項がまさに直接適用されるケースだったのです。改正パート労働法8条が適用されれば,丸子警報器のパート労働者は,正社員とほぼ100%同一の賃金が支払われなければならないことになります。
■12年経過して丸子警報器判決が法律になった
丸子警報器事件の長野地裁上田支部の判決は,当時は実定法上の根拠がないと批判されていました。東京高裁では,労働者の差別是正をする和解が成立しましたが,高裁判決になれば一審判決が見直された可能性は高いと思います。
しかし,上田支部判決から12年たって,パート労働法が改正されて,丸子警報器事件判決が指摘した均等待遇の理念による差別禁止が,実定法になったのです。画期的なことだと思います。
■パートだけでなく契約社員等も差別禁止
パートタイム労働者(短時間労働者)の場合でさえ,差別取扱いが禁止されるわけですから,正社員と同じ所定労働時間である契約社員などの労働者の場合には,この改正パートタイム労働法8条の差別禁止が類推適用されるか,あるいは差別禁止が公序良俗だと解釈されることでしょう。また,労働契約法3条2項が,「労働契約は,労働者及び使用者が,就業の実態に応じて,均衡を考慮しつつ締結し,又は変更すべきものとする」と定めていることも,このような解釈を後押しすることになります。
正社員や,パートタイムあるいは契約社員などと契約形態が異なっていても,職務の同一性,人事運用の同一性,実質的に期間のない契約と同視できる場合には,広く差別的取扱いは禁止されることになると思います。この点,和田先生は使用者サイドの弁護士さんですが,改正パートタイム労働法8条がもたらす影響に関しては意見がほぼ一致しました。
これからは,パートだけでなく,契約社員らの労働条件改善の取り組みが強まると思います。また,その中から丸子警報器に続く訴訟も提起されることになるでしょう。私も是非,挑戦したいものです。
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コメント
はじめまして。
今回の件は、再雇用者の賃金決定にも影響を与えるかもしれませんね。定年到達以前と同じような仕事をしながら、賃金が5~7割程度にダウンする、いくら在労や継続給付をもらってもせいぜい8~9割程度に過ぎない。
そうかといって、年功賃金下では60歳時点と同じ賃金にしようとすれば、そもそも60歳以前の賃金を下げなければならない(もちろん若手の賃金は上がるでしょうが…)。
悩ましいところです。
投稿: hiro | 2008年2月 6日 (水) 07時23分