読書日記「ポスト戦後政治への対抗軸」山口二郎著
「ポスト戦後政治への対抗軸」 山口二郎著 岩波書店
2007年12月6日発行
2007年12月31読了
著者は,著名な北海道大学大学院教授です。1993年,岩波の「世界」で,平和基本法構想を提唱した中心メンバーでした。
■社会党の「護憲政治」に対する決算
本書前半では,日本社会党が,護憲政治(憲法9条を争点かすることによって国民の支持を獲得するという政治)の惰性から,1990年代後半の冷戦終結による新しい状況に対応する政策を創ることができず,にもかかわらず,村山富市委員長が首相に就任することで,突然,「護憲」政策を転換させた,この一連の経過に対する「政治学的な決算」の書と言えると思います。
社会党が結局,状況に対応することなく,知的威信を失ったことに対して,当時の党執行部に対してよりも,党内の「原理主義的平和主義者」に対して次のように痛烈に批判しています。
永遠の批判政党という自己規定に満足している人々にとって,政権参加のために党是を変更することは許し難い堕落ということになる。批判政党であるためには,数は問題ではなく,教義の正しさが重要である。
この護憲政治の惰性は,いまも続いているのでしょうか。次の1993年の「平和基本法」構想を当時読んだ私としては90%賛成できる内容でした(10%の疑問は安保条約をどうするか)。
1 自衛隊を合憲的な存在として認めること。
2 非核3原則,徴兵制の禁止,海外派兵の禁止などの憲法的規範を明記すること。
3 PKOに対する自衛隊および文民組織の参加について制度を整備し,より非攻撃的な方法で国際平和に貢献することを宣言する。
今後,現在の状況に対応した「平和基本法」ヴァージョン2が復活することが求められていると思います。(もし,将来,自民党改憲草案のような改正案の国民投票が実施された場合に,改憲反対だけでは足りず,対抗する政策・構想が求められることになると思います。)
■ポスト戦後政治の対抗軸
本書後半では,著者は,政治学は貧困問題を正面から取り組んでこなかったと反省します。そして,平等と貧困についての社会状況が変化したことを正面から取り上げます。
体系的な福祉国家が打ち出されれば,日本において「新自由主義」対「社会民主主義」という二大政党システムができるであろう。
(もっとも,著者はこの本のどこかで,社会民主主義というと,この国では様々に誤解されるので,このことばは政治的シンボルとしては良くない旨を書いていました。)
■あとがきについて
著者は,北大の宮本太郎氏らとの共同研究で,40代半ばの研究者としての「中年の危機」を乗りこえたと書いています。著者は1958年生まれで私と同世代です。宮本氏も私と同世代です(大学が同学年だったようです)。私と同世代の学者らが,どんどん思い切ったことを書く時代になったんだなあ,と感慨深いです。
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