政策形成型訴訟の時代
■4事件弁護団の「座談会」
12月28日午後,日本民主法律家協会の機関誌「法と民主主義」の「政策形成型訴訟」の座談会に出席しました。
座談会は,安原幸彦弁護士を司会者として,残留孤児訴訟弁護団の米倉洋子弁護士,原爆認定集団訴訟弁護団の宮原哲朗弁護士,薬害C型肝炎訴訟弁護団の野間啓弁護士と,トンネルじん肺根絶訴訟弁護団の私の4名です。
C型肝炎訴訟は,議員立法による一律救済を福田首相が表明した翌日ということで,グッドタイミングです。
詳細は「法と民主主義」の2008年1月号に掲載されるそうです。なお,同号には,小野寺利孝弁護士が「政策形成訴訟」について熱く語ったインタビューも掲載されるそうです。
■政策形成型訴訟とは
政策形成型訴訟とは,ある問題について政府の政策を変更させることを目的とした訴訟と運動です。
裁判の型式は,損害賠償請求訴訟,ないし行政処分の取消訴訟です。しかし,損害賠償請求などの訴訟を通じて,単に賠償金を獲得するだけでなく,社会運動として取り組み,政治への働きかけ(ロビー活動)を通じて,政府に政策を変更させ,あらたな政策を獲得することを目的とした社会運動です。
裁判で勝訴し,世論を動かし,議会と政府を動かすことが目的です。
■4事件の政策形成型訴訟
トンネルじん肺根絶訴訟は裁判勝利,世論と国会議員を動かして,トンネルじん肺根絶のための省令改正,積算基準の見直しの6月18日政府合意を獲得しました。
中国残留孤児訴訟は,判決は1勝7敗ですが,世論を動かし,中国残留孤児対策の法律を制定させました。
C型肝炎訴訟は4勝1敗で,首相と与党を動かして,肝炎対策法を制定させるところまでこぎつけています。
原爆訴訟も連戦連勝で,政府の原爆認定基準を大きくかえようとしています。
■具体的政策の要求を掲げて
裁判は,損害賠償請求をする形式でしか訴えられません。中心は損害賠償請求権の成否となり,それが訴訟の中心課題となります。
しかし,それにとどまらず,原告団と弁護団が,具体的な政策を要求(全面解決要求)をまとめることができれば,政策形成型訴訟となります。
ところで,裁判官は,このような訴訟を邪道とみがちです。所詮,当該事件について損害賠償請求権の成否のみを判断すれば良いと考えがちです。官僚裁判官の子役人的発想です。社会的な背景のある事件では,それでは本当の紛争解決になりません。特に,原告(集団原告)も被告(国)にも「役者」がそろっていても,裁判官が事件を矮小化すれば,社会的紛争を解決することができません。
今回のC型肝炎訴訟の大阪高裁の裁判長がまさにその典型です。国とC型肝炎訴訟原告団・弁護団の大きなたたかいに頭がついていけなかったのです。要するに,「器の小さい」官僚裁判官の出る幕ではなかったということです。
■大規模集団訴訟
具体的政策を掲げても,少人数の訴訟では政策形成訴訟にはなれません。100人規模の原告が結集しなければ迫力がありません。また,原告以外にも多くの被害者がいる社会的広がりがなければなりません。
多数の原告の組織と運営,意思統一,大衆的行動が必要不可欠であり,その組織と運営に関して経験と蓄積が厚くなっています。
■労働事件との比較
労働運動が強ければ,「訴訟」などに頼る必要もないのでしょうが。日本では裁判に依存する傾向が強いのです。というわけて,労働訴訟では,よく「大衆的裁判闘争の構築を」と言います。
しかし,どうしても当該企業の労使関係の枠内にとどまっています。大衆的裁判闘争といっても,企業内,せいぜい地域での広がりくらいしかありません。
個別企業の争議が,社会の支持を受けるという普遍的な課題へと高まることが少なくなっています。
企業規模や,業種,職種,正社員・非正社員ということで,雇用が多様化し,企業規模による労働者が「区分け」されている結果なのでしょうか。労働事件も,新しい政策形成型訴訟とその運動に学ぶべき点が多いように思います。
少人数の争議のたたかいも,今は社会的な普遍的な問題に高めることができるチャンスです。若者のユニオン運動に期待したいし,労働弁護士,特に若い弁護士らがそれに力を注ぐ好機だと思います。
■新たな政策形成型訴訟の動き
政策型形成訴訟によって政策実現した例が,ハンセン病国賠事件をはじめ,増えています(トンネルじん肺根絶訴訟,薬害肝炎訴訟,残留孤児国賠訴訟,原爆認定集団訴訟)。これからも,アスベストなどの大規模な政策形成型訴訟が続くことは間違いありません。
官僚裁判官や行政官僚は,「イヤな時代になった」と思っていることでしょう。若手の弁護士にとっては,新たなやりがいのある仕事がたくさんあるということです。
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