« 読書日記「格差社会にいどむユニオン-21世紀労働運動原論」 木下武男著 | トップページ | ラポール・サービス事件 派遣労働者の解雇 »

2007年11月29日 (木)

労働契約法に関する「ねじれ」

■11月20日の参議院厚生労働委員会議録
何だか,参議院では,すごい質問が飛び交っています。

○小池晃議員 東武スポーツ事件というのがあるんですね。これ東武のゴルフ場のキャディさんが訴えているんですが,…給料下がらないんだというふうにだまして無理矢理に契約書を判こを押させて有期雇用に変えたんですね。
これが裁判に争われている。これは一審で労働者側の主張が認められて,被告は今控訴しているんですが,東京高裁。東武スポーツ側 … 労働契約の変更の合意は有効だと主張した上で,仮に合意がなかったとしても,就業規則変更法理に照らして経営上の合理性があり,有期雇用の契約社員の変更と賃金ダウンは有効だ,こういう主張をしているんですよ。
これが経営側の就業規則変更法理の理解なんですよ。これが実態なんです。こういうときに,これを正に明文で立法化すれば,私はこういう横暴がますますはびこることになるんじゃないか。

えーっと,だから東武スポーツ事件で,使用者裁判所は,最高裁の判例法理に基づいてがあるから,のが自らの就業規則による不利益変更の主張を否定法廷で撤回したのです(労働判例937号86頁)。その判例法理が明文化されれば,小池議員の言う経営側の就業規則変更法理の理解は誤っていることが法律で明確になるってことなんじゃないでしょうか?

○福島みずほ議員 … 就業規則の不利益変更の例がたくさん寄せられています。正社員が非正規になったり,労働条件が悪くなったり,賃金が下がったりが非常に多いんです。
 … 
○福島みずほ議員 この労働契約法がない方が裁判争いやすいですよ。こんなへんてこりんな四要件減らして,しかも変更した時点から有効だというんだったら,本当に就業規則の不利益変更をばんばんやられますよ。判例で積み上げてきた内容がむしろ後退をして,使用者側に有利に利用されてしまう。

う~ん。 何でこうなるの。

(・・・何だか自爆攻撃「改悪だから反対」でなく,「不十分だから反対」って言って欲しいのよ。)

共産党や社民党の立場からは,10条に7要素を明文化しろという修正要求になるはずですよね(それは筋が通っているし,賛成です。また,民主党の意見とも一致したでしょう。両党がその主張をすれば国会審議の局面が一つ違った展開になったかもしれません(「立場」が異なる相手と,どう連携をとれるかという政治家の本当の力量を見せて欲しいですね。そこが単細胞でウブな法律家との違いででしょう。)。

ところが,不思議なことに,なぜか両党は労働契約法の廃案を要求しているのです。

両党が要求しているように廃案(あるいは10条を削除)しても,就業規則の不利益変更を阻止することはできません(労基法90条参照)。両党が指摘する実態は何も変わりません。(このような実態が蔓延しているとの認識は私も共通です。・・・だから労働契約法での規制が必要というのが私の立場ですが・・)

ですから,本来は10条に対する修正要求が正しい対応だと思うのですが,なぜか両党は廃案(削除)にこだわるのです(論理が不明だし,私には理解できません。)。

考えられる根拠としては,民主党との違いを強調する「党派の論理」ですかね。要するに「総選挙対策」だわな。選挙戦術的には理解できますが(民主党が正しいってなっちゃうと,両党の存在価値を減殺しちゃうからね。でも,修正要求なら矛盾ないと思うんだけど。・・・廃案要求でなく,10条修正要求すべきだったよね。)「党派の利益よりも,労働者階級の利益が大事じゃないのかね,諸君!」(by マルクス?)

ひょっとして,両党は,就業規則による労働条件の決定そのものを認めないという労働法学者多数説の立場に依拠しているのでしょうかね。でも,そういう立場に固執すると,議論がすべて擦れ違い,噛み合わないものになっちゃいます。(突破する政治的力関係を構築できなかったのです。…イカンながら。労働法は一人一人の生身の労働者に関わる分野ですから最後までラッパを吹いていたという<玉砕戦法>はよくないかも。労組の力が弱い今は,半歩であっても前進しましょう)。

■「判例法理を変えない」が立法者意思
今回の労働契約法は,判例法理をそのまま立法化したものだと大臣も政府も修正提案者も説明しています。

○青木豊政府参考人  … 就業規則と労働契約との関係につきまして,判例法理に沿って,判例法理を変更することなくそのまま立法化するという考え方をとっておりました。

○小林正夫議員 … 判例法理で確立しているのであれば,あえてこれを法律にする必要はないのではないかという疑問…

○桝添要一大臣 この判例法理というのは広く一般の方々に知られているというわけではありません。… 確立している判例法理のうち重要な事項につきましてはきちんと法律にして,労働条件の決定や変更その他の労働契約上の基本的事項について法律で定め,広く国民の皆さんに周知を図り,無用な紛争の発生を防ぐことが重要

○小林正夫議員 … 衆議院の委員会では,最高裁判例で示された合理性に関する判断要素を変更し,合理性の判断要素を切り縮めているという趣旨の意見や批判がだされております…

○青木豊政府参考委員  … 第四銀行事件最高裁判決で示された7つの考慮要素等を総合考慮して判断すべきという考え方を,第10条において挙げた4つの考慮要素及び「その他の変更に係る事情に照らして」と規定するものでございます。したがって,第10条の規定は判例法理に沿ったルールであり,判例法理に変更を加えるものではありません。

○細川律夫衆議院議員 … 既に労働現場のルールとして機能してきた判例法理のうち,特に法律で明確化すべきものを条文化し,法律の文言とされなかったその判例法理は判例法理としてそのまま残すものでありまして,法律と判例の総体としましては現在の判例法理を足しも引きもしないものでございます。

ここまで明確に確認答弁をさせた民主党の小林正夫議員の質問は素晴らしかったです(民主党は良く頑張ったと思います)。それを引き出したという意味では,共産党と社民党の質問も極めて大きな意味があったと思います(と,急いで付け加えておきます。)。

■裁判所は共産・社民の法理解か,民主党の法理解のどっちをとるか
共産・社民の法理解が正しいのか,民主党の法理解が正しいのか,裁判所が最終的に判断することになります。

裁判所が共産党・社民党の法理解が正しいと判断すれば,「今回の労働契約法によって従来の判例が法律で緩和された。したがって,使用者の不利益変更を容易にするのが立法者意思だ」と緩やかに合理性を解釈をすることになります。

他方,裁判所が,修正案を提出した民主党の法理解が正しいと判断すれば,あくまで判例法理が立法化されたもので,使用者側が就業規則の周知性や合理性について立証責任を負うことが法律上も明確になったとして厳しく合理性を解釈することになります。

さて,裁判所はどっちに解釈するのでしょうか。答えは言うまでもないですね。立法者意思がどっちかということです。(立法者が「判例どおりの法律だ」と言ったのに,「判例の立法化ではない」なんて言う裁判官がいますかね?-裁判官としては憲法違反って言わないかぎり,法律に拘束されるのです。-憲法76条3項

「確かな野党」と「確かに野党」の違いとは何か,に思いをいたします。

|
|

« 読書日記「格差社会にいどむユニオン-21世紀労働運動原論」 木下武男著 | トップページ | ラポール・サービス事件 派遣労働者の解雇 »

労働法」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104432/17228979

この記事へのトラックバック一覧です: 労働契約法に関する「ねじれ」:

» 労働契約法 全文 [労組書記長社労士のブログ]
 改正最低賃金法と労働契約法が、昨日、成立しました。 労働2法が成立、与党と民主の修正協議で初(読売新聞) - goo ニュース  改正最低賃金法と労働契約法が28日午前の参院本会議で、自民、公明、民主3党などの賛成多数で可決され、成立した。  今国会で政府提出法案が、与党と民主党との修正協議を経て成立するのは初めて。  改正最低賃金法は、地域によっては生活保護給付より最低賃金が低いことが問題視されたため、最低賃金の水準設定の指標を定めた。政府案では「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」... [続きを読む]

受信: 2007年11月30日 (金) 05時17分

« 読書日記「格差社会にいどむユニオン-21世紀労働運動原論」 木下武男著 | トップページ | ラポール・サービス事件 派遣労働者の解雇 »