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2007年11月25日 (日)

読書日記「格差社会にいどむユニオン-21世紀労働運動原論」 木下武男著

「格差社会にいどむユニオン-21世紀労働運動原論」
     木下武男著 花伝社
     2007年9月 初版第1刷
     2007年11月24日読了

■論争の書
短い「はじめに」に本書のポイントが凝縮されています。

日本の労働運動の衰退は,年功賃金と終身雇用制で象徴される日本特有の労働社会のあり方と,労働運動側の企業主義と政治主義という主体的要因の双方によるものである。このうちの前者における労働社会は,戦後半世紀以上をへて最大の激変を迎えている。

著者によれば,いわゆる日本的労使関係(=正社員中心)が,現在,不安定雇用を中心とした新しい「階層社会」に変化し,新しい労働者類型(例えば,プレカリアート)が生まれてきていると言うことです。この新しい労働者類型に対応した「新しい労働運動」が生まれなければならないとし,「新しい労働運動」は企業主義と政治主義を克服しなければならないと主張しています。

そして,「あとがき」に著者の次のような「決意」が書かれています。

本書は論争の書である。いくらでも議論をしたい。本書でも強調したように政党・政派の立場からものを言う人以外,すなわち日本のユニオニズムの発展にのみ忠実でありたいと願う人たちとの建設的な討論の場がつくられる。その契機になれば幸いである。

渡辺治,後藤道夫,そして,著者らの日本型企業社会論を踏まえた労働運動の再生に向けた「新ユニオズム宣言」とも言うべき本だと思います。しかも,激烈な論争の書になっていると思います。

私は,著者の問題意識に共感し,その主張の多くの点に大賛成です。

■格差社会と階層社会,そして階級社会

表題は流行の「格差社会」を打ち出していますが,著書の現状分析は他の格差本と一線を画しています。乱暴に要約すると次のようになるかと思います。

日本は従来から「格差社会」であった。企業規模に応じて賃金格差が厳然として存在したのであり,「企業依存の生活構造」からくる「格差社会」にほかならなかった。
現在の変化は,格差社会化ではなく,「階層社会」化なのである。

確かに,日本型正社員中心の労働社会であれば,企業規模の格差が存在しても,中小企業でも年功的賃金によって,将来の改善が(主観的には)期待できた。ところが,「雇用の流動化」,そして「非正規化」が急速に進んでいる現在は,もはや年功的賃金はなく,いくつになっても,非正規労働者の低賃金に固定化される。賃金上昇は期待できない労働者群,特に若手の労働者群が激増している。

これは格差の「固定化」,「二極化」をもたらす。それは「階層社会」にほかならない,というわけです。著者は,今後,新たな「階級意識」が形成されれば,名実ともに,日本も「階級社会」となると予想しています。

■トレード・ユニオズムの復活

トレード・ユニオズム(労働組合主義)という言葉は,戦後の政治主義的労働運動から「右翼的組合運動の蔑称」として使われていた。が,著者は,本来の労働組合運動の原点であることを強調し,新しいユニオズムを志向することが重要だと訴えています。

そして,企業別労働組合体制を脱却する方途は,現代日本においては,既存の企業別労働組合の外部に新たな個人加盟型のユニオンを組織することを優先させるべきと主張します。そして,中期的には,企業別労組を克服した新しい産別労働組合として統一していくという展望を語っているようです。

■個人加盟ユニオンの現段階と発展方向

従来型の合同労組と限界を鋭くえぐっています。また,中小企業労組の分会を組織してきた合同労組では,数多くの分会が解散・消滅していることをリアルに指摘しています。私が今まで労働組合と争議で付き合ってきた経験や知見と一致します。また,多くの団塊の世代の組合運動家が引退する「2007年問題」も深刻といいます(少数派労組でも,団塊の世代の定年が増えており,後継者問題は深刻です)。

合同労組は,組合員を組織化し,その職場に組合員を拡大して,職場で分会をつくって企業内労使の力関係をかえていく(その段階で不当労働行為攻撃があり,弁護士に労働委員会や裁判などの依頼が来ました)。そして,結成された分会は,地域の合同労組や,産別の合同労組に組織に入り,単組として安定していくという構想でした。しかし,これは,企業別労働組合からの脱皮にはつながらなかった。しかも,現在の企業社会と雇用社会の激動で,正社員自体が細り,企業の困難が強まり,このような「組織化」が大きな壁にぶつかっているのが現実でしょう。

他方,個人加盟ユニオンも個人紛争処理段階に止まり,解決したら組合を脱退するという「賽の河原の石積み」あるいは「回転ドア」の状況に苦労しています。

個人加盟ユニオンは,企業別労働組合を目指すのではなく,労働者の「個人紛争処理」を解決しつつ,彼・彼女らの「居場所」でもあり,個人をさらに集団にひろげる「ユニオン運動」を目指すものであるべきだと言います。首都圏青年ユニオンは,企業別の分会を作らないという方針だそうです。そして,将来は,「労働市場規制型」ユニオンを展望したいとのことです。

■政治主義の克服

著者は労働組合の「政治主義の弊害」を指摘します。例えば次のようにです。

「労働者の統一」が,不可欠になっている。例えば「勤労者の政治的見解」に関連すると,労働組合にとって今日重要なのは団結権・団体交渉権・争議権を明確に保障している憲法28条と,生存権を保障している25条である。あえて言えば憲法9条の改正問題ではない。9条改正問題が日本の将来にとっていかに大切であっても,それは労働組合一般の直接の課題ではなく,構成員一人ひとりが市民としてアプローチすべきテーマである。

■企業主義の克服

著者は,企業別労働組合の根本的欠陥を認識することが重要であると,左派労働組合の「一企業・一組合」主義の克服を強調します(これは同時に,「政治主義」の克服でもあるとの歴史も語られています)。

また,「年功賃金かパート賃金」か,「正規雇用か非正規雇用か」という二者択一は新自由主義のジレンマ,罠であると指摘します。同一価値労働同一賃金の原則に基づく「仕事給」を要求と位置づける「労働市場規制」型労働運動を提唱します。

■新しい階級社会,新しい階級闘争,そして,新しい労働運動

もっとも,著者は「新しい21世紀型労働運動は,まだ予兆が見えてきているだけだ」と言います。その「兆し」を育てるためには,労働運動の再生の見通しについて,研究者と運動家が共同を深めることが必要だ,と言います。

理論的にも実践的にも興味深い問題が提起されています。著者の意欲的な問題提起は,とても一回では,紹介しきれません。

建設的な論争が行われることを期待したいと思います。

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